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残酷か・・・・
最低よりもある意味最低な響き・・・・・。
でもそうだと俺自身も思った。
「残酷さも・・・・全部好き・・・・。」
萌が声をあげて泣き出した。
もう俺に残されている残酷さは…萌を抱きしめることしかない。
「秋杜…好きよ……。困らせてごめんね…でも…でも…
そばにいて……萌の人生が…素敵な最後になるまで…一緒にいて……。」
かあちゃんこういう場合俺はなんて言えばいいんだ
これ以上罪を重ねないということは……
ここで萌をひきはなすことなのか……
なことできるか………
じゃあ…春湖にはなんて言う?
春湖………
「萌・・・・俺は……残酷しぎるじゃん……。
それでもおまえはそれを願うのか?」
「残酷な秋杜が好き…ずっと残酷だったじゃん……
私の気持ちに気づいてたでしょ?だけど気づかない振りをした。
今だって…彼女に対する罪悪感で一杯で……
私に対しての気持ちは同情でしかない……わかってるよ。
何年一緒にいたと思ってんの……。
そんな秋杜が好きなの…全部…大好きなの……。
だから…一緒にいて…残酷でもいいの……。
私が死んだ方がいいって秋杜が思ってもいいから……そばにいて……。」
「死んだ方がいいなんて思うか?そこまで俺は堕ちてない。」
「彼女と早く会いたいでしょ?
なのに私がまた邪魔してる……私がいると彼女と過ごせないんだよ
クリスマスだって……これから私が生きてる間
秋杜はそんな私を嫌いになる…それでも…一緒にいたい……
最後の瞬間まで秋杜にいてほしい……」
萌の涙が俺のセーターを濡らした。
俺・・・・どうしたらいいんだろ
萌を抱きしめながら俺は眠りについた。
抱きしめている相手が違う
朝を迎えた。
春湖はどんな朝を迎えたんだろう。
きっと寂しくて…泣いているのかもしれない……。
ごめん・・・・春湖
俺はどうしたらいい?
萌を…一人にするわけにはいかない………。
誰でもいい俺に答えをくれ・・・・・・
誰も傷つけたくないのに………。
電源を入れて春湖にメールをしようとした時 春湖からのメールだった。
春湖は遅くなっても俺は帰ってくると思っている。
仕事で遅くなるというメールが入っていた。
後ろめたさにメールを確認して電源を落とすそれを繰り返す俺……
帰らなきゃ……
俺は目が覚めてからずっと帰るタイミングを探しているけど
それはすごく難しいことだった。
萌の体調はかなり悪いのは俺にもわかっていた。
「まだ帰らないで……」萌の必死な哀願に胸が痛んだ。
やっと寝ついた萌の体から離れて 萌の母親に声をかけた。
「すみません。長々おじゃまして・・・帰ります。」
ポメチコが喜んで吠える。
「シー……萌 やっと寝たんだぞ……」
俺は慌ててポメチコを抱きあげた。
「ごめんね秋杜くん……本当にごめんなさいね。」
「いえ……じゃあ帰ります。」
俺は静かにドアを閉めて 春湖に連絡しようと携帯をとりだした。
今日帰ったら春湖に話そう。
俺はどうするべきなのか……今は自分で考えてもその答えさえ見つけられない。
道に出ると後から悲鳴のような声がした。
ふり向くと萌がサンダルとパジャマ姿で走ってきていた。
萌・・・・
途中思いっきり転倒してそれでも必死に追ってこようとした。
「帰らないで~~」
その声はもう…俺には究極に聞こえた。
「帰らないと・・・・・」俺の言葉はもう弱弱しく
春湖が待ってるんだ
「帰らないで……」
萌をもう…一人にはできなかった。
俺は萌を抱きあげて 萌の家に戻った。
そして春湖にメールした。
明日全部話すから・・・今日も帰らないって・・・
絶望している春湖を想像して断ち切った。
俺の胸で震えている萌をおいてはいけない……。
萌を愛してるわけじゃないけど
萌は大切な人の一人だった。
明日本当のことを話そう……
春湖……怒るだろうな………
でも怒られることしてんの俺だから・・・・・。
もう嘘はつきたくない・・・・
「ごめんね……秋杜……
嫌いになってもいいの……萌を一人にしないで………」
俺は萌の頭を撫ぜる。
「キライになんてならないよ………。」
かあちゃん……俺行くとこまで行くわ……
自分がまいた種だから……萌も俺の大切な人だから………
春湖の泣き顔を想像して自分を攻めまくった。
萌を一人にはできないよ・・・・・
恋人たちのクリスマス
今頃 春湖は何してんのかな………
俺はまた萌を抱しめながら眠りについた。