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俺はまた嘘を重ねる………。
今日は帰らないと春湖にメールして電源を落とす。
卑怯だよな…俺って…
春湖が信じてくれるって言った言葉をいいことに
嘘に嘘を重ねて
今さらながらに 母親の言葉が全くその通りだと思った。
もうこの嘘から逃れることはできないくらい
萌に関わりすぎていた。
春湖は今日はなんとかクリスマスパーティに呼ばれてるって言うから
明日は…明日は一緒にクリスマスを過ごそう
そう俺は自分を正当化する
こんなになってる萌を置いて・・・?
苦しんでいる萌を置いて
俺は春湖と甘い時間を過ごせるのか
萌を抱きあげて リビングに連れて行く。
軽い・・・・
前よりずっと軽くなった。
萌の頬がいつもしもぶくれでポアポアしてるから
ついついそう見えていなかったのか……。
「いいわね~萌~~お姫様だっこなの?
最高のお誕生日だね。」萌の母親が手を叩いた。
「うん!!」
三人で食卓を囲んだあ。
萌の食は進まなかったけど 笑顔の萌がそこにいる。
萌がいなくなる……
俺の心にも風が吹いている。
萌と過ごした日々は…もしかしたら俺にとって一番楽しくて
充実した日々だったのかもしれない。
二人でケーキを囲んだ。
「あ…そういえばこれ……」
俺はさっき買ってきたプレゼントを萌に渡す。
萌は笑顔で袋を開けて 金のない俺のプレゼントを喜んでくれた。
シャープ一本……
「これ…ママに頼んで…ずっと一緒に連れて行こうっと~」
その言葉の意味がリアルで胸が痛む。
「ずっと…好きだった…初めて体育館で秋杜を見たときから……
なんとか近づきたいって頑張った。そっけなくされて傷ついたけど
生まれ変わった私は…秋杜のおかげで強くなれたんだと思う。
秋杜の片想いに比べたら…私のこの三年なんて大したことじゃないけど……
初恋だったの……。いつもそばにいるだけで胸がときめいて……
秋杜と触れ合うたびに心臓がドキドキして
秋杜が見せる貴重な笑顔を一人占めしてる幸せが…私の薬だった……。」
萌は俺への気持ちを言葉にし始めた。
「でも…友達の線から越えると秋杜は 私を警戒したから……
私はそれが辛くて…友達の仮面をかぶって必死に演じてた。
秋杜に好きな人がいるって知った時…すごくショックだった。
人生をかけてるって……地獄に突き落とされた気分だった。」
萌の目から滴が落ちる。
俺の胸も痛くなった。
「彼女に会って…許せなかった。
こんなに秋杜が好きなのにずっと拒否し続けてるって嫉妬した。
私の方が百倍本当の秋杜を知ってるのに……
彼女が あの時は秋杜のことなんて何とも思ってないって言ったのは嘘
私にはわかった。
あの人も秋杜を好きなこと……胸にビシビシ感じてめっちゃ嫉妬しまくった。」
萌が潤んだ目で俺を見つめる。
「ごめんね…邪魔して……。
秋杜が私を優先してくれるって優越感に浸りたかったの。
だから…誕生日も秋杜と彼女がもめるように……遅くまでひきとめた。」
「わかったよ・・・・。
もう言わなくていいよ……。」
萌の話の合間に 俺は母親の言葉を思い出していた。
結局 俺の優柔不断さは命とりだったのかもしれない。
春湖に受け入れられない寂しさを萌に求めていた。
萌の気持ちには薄々気づきながら
友情だと思いこませて 萌が踏み込むたびに一線をひいて
「俺って最低だな・・・・。」
思わず言葉にしてしまった。
「最低…?とは違うよ……。残酷って言うんだよ……。」
萌が俺の目をじっと見つめる。