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俺の頭の中は大混乱していた。
萌の母親の電話が終わって
ポメチコが俺に気づいて吠えだして
「あら?秋杜くんどうしたの?」
真っ赤になった目で慌てて笑顔を作った。
「あの…何か飲み物をもらえますか?」
「ごめんなさい~すっかり持って行くの遅くなっちゃって~」
「いえ…こっちこそすみません。
あの……萌さんの様子もおかしいから…おばさんに言いに来たんです。」
萌の母親は慌てて階段を駆け上がってそれから降りてきた。
「寝てるわ……。」ホッとしたような顔で俺を見た。
「そうですか……。」
「秋杜くん…ちょっといい?」
俺は足にまとわりつくポメチコを抱きあげて母親の後をついて行った。
「今日は少しゆっくりしていって。
私はこれからごちそう作って 夜は秋杜くんの買ってきてくれたケーキーを出して
萌の誕生日を楽しく過ごしたいの。
つきあってくれる?」
「はい……。今日はそのつもりだったから……。」
「よかったわ。ごめんね 秋杜くんを巻き込んじゃって……。
でもきみしかいないの。
よろしくお願いします。」
母親の目から涙が零れ落ちた。
「ごめんね……秋杜くんしか頼れなくて
萌の一番の薬は秋杜くんだから・・・」
「病気ってそんなに悪いんですか?」
萌はあまり体が丈夫ではなくて 小学校の頃には貧血で
学校も休みがちだった。
父親の転勤で 中学にあがった年に転校してきた。
『生まれ変わるんだ』小学生のころ おとなしい上に学校も休みがちだったこともあって
いじめを受けていた時期もあって
だから新しい土地で 自分のことを知らない土地で
萌は生まれ変わることを決意したらしい。
それからは俺の知っている萌
元気で明るくて活発でチャレンジャーで
反対に生まれ変わるつもりもなかった俺の毎日にも影響を与えてくれた。
中二の長く入院したあの時 萌は発病した。
「萌は自分の病気を知ってたんですか?」
「知らせないとね…。学校に行きたがって大変だったの。
秋杜くんに会いたいって……。だから…正直に話したの。」
俺は愕然となった。
そんなことを知ってもいつも萌は明るかった。
何も変わらなくて……病気だなんて思ったこともなかった。
「最近体調が悪くて やっと病院に連れて行ったら………」
萌の母親は口をおさえて嗚咽し始めた。
「たぶん…最後になると思うのこの誕生日が……
だから…お願いします。
あの子の最高の思い出を作ってほしいの……。
図々しいお願いなのはわかってるわ……。ただ…秋杜くんが
あの子ずっと好きだったから……一緒にいてあげてほしいの……
お願いします。」
母親は土下座をして俺に訴えた。
萌が………
俺も現実を受け入れるには少し時間がかかっていた。
ごめん春湖……
帰ったらちゃんと話そう……
萌の部屋に戻ると 萌は寝息をたてて眠っていた。
マジかよ……おまえ…そんな大きいこと抱えて……
俺の片想いなんかちっぽけなことだよな。
「秋杜……」萌が目をさました。
「ん?」
「あ~よかった……寝ちゃったから帰ったと思って目の前真っ暗になったけど…
いてくれたんだ~~よかった~~よかった~」
また萌の目から涙がこぼれ出した。
「約束だろ……今日は誕生日だからな~」
「ありがと…生きていて最高の誕生日になりそうよ……」
俺の手は思わず萌の涙をぬぐっていた。
「泣くなって……泣かれたら困る……」
「ごめん~」そう言うと萌は必死に微笑んだ。