125
春湖に夢中になりすぎて 毎日がバラ色だった。
愛する人が手の届くところにいるという幸せに俺は つかっていたけど
俺の愛を押しつけると 春湖はそれを拒否するから
また喧嘩になってしまう。
そばにいるとはがゆくて……
思い通りに進まない……イライラも募っていく。
もうすぐ誕生日だったけど 春湖との仲は熱い日もあり
辛い日もあって俺自身もどうしていいのかわからなかった。
夜の春湖は俺だけの春湖だったけど
朝 仕事に出かけていく春湖は悔しいけど大人だった。
帰ってきて化粧をおとして 春湖の髪の毛を乾かすと愛しさでいっぱいになる。
乾いた髪に顔を埋めて
仕事場の話しに嫉妬して俺は春湖を抱きしめた。
ガキ・・・・
春湖の口から出てくる仕事場の人に嫉妬をして 俺のいらつきはピークになる。
春湖の前で大人でいたいのに…俺は嫉妬でガキにな。
そして春湖を怒らせて
俺は春湖の言葉に 傷ついて 絶望する。
こんなに愛してるのに……
一方通行のやり場のない気持ちをもてあまし始めていた。
「秋杜 誕生日でしょ~明日。」萌が後から走ってきて息を切らしながら言った。
「忘れてた……。」
「ママがね ご飯食べに来てほしいって言ってた~
おいでよ~」
萌はいつも明るかった。
「いいでしょ?ね?」
萌が制服の袖を引っ張った。
「うん……。」
「やった~~ぁ~それじゃあね~~」
萌は右側の道に走り出して
ピョンピョン跳ねながら 俺に手を振った。
そのあどけない行動がおかしくて思わず笑ってしまった。
「一緒にいる時わらいなさいよね~~」
ほんとだ…最近ほんと 笑ってないな……
萌の言葉にうけてひさしぶりに笑った。
萌の誘いをきっぱりと断れなかったのは 俺がガキだったから
誕生日を春湖が予定してるかはわからなかったけど
嫉妬してほしかったんだ……それだけ……だった。
案の定 春湖から誕生日のことを聞かれた。
なんだか久々に話した気がした。
「明日 誕生日だからお祝いしようよ。」
「悪い…俺 用事あるから……」わざとにそっけなく言った。
春湖は一瞬 動揺していたけど・・・
俺は成功したのに後ろめたかった。
もっと…もっと…俺のことで悩んでよ春湖……。
俺が春湖にいつも 嫉妬してるように
俺だけ…春湖の世界に嫉妬してて…ガキな俺は…どんどん卑屈になる。
春湖の動揺した顔を思い出した。
胸が痛んだ半面…俺にもっともっと嫉妬して……
俺を好きになって……そう叫んでいた。
母が言ってた・・・・
悪い方向に転がり始めていることにまだ気がついていない。
俺は春湖の気持ちも 萌の気持ちも 考える余裕はなかった。
ただ自分が辛くて…逃げ出していた。