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春湖が帰ってきて 新学期が始まって とにかくいろんなことが起きた。
高校の制服を着ると
自分のガキさを思いやられた。
「よく似合うわ~~秋杜は何を着せても素敵だから~」
母と春湖母はそう言って目を細めた。
制服が似合うようじゃ…俺はやっぱまだガキなんだ。
ちっとも嬉しくなかった。
春湖は社会人として働き出して 俺はまだ高校生で
いつも春湖がこだわってる 五歳の年の差は…俺にだって壁は高いんだ。
学校帰り何度も春湖を盗み見しに行った。
受付嬢の春湖は ぎこちない笑顔で座っていたけど
すごく初々しくて…美しかった。
春湖に会いたい時はいつもこうしてストーカーのように
影から春湖を見ているのが日課だった。
離れていた二年間は・・・少し浮ついたとこもあったけど
春湖が戻ってきて 俺の恋心は一気にヒートアップしている。
「なんか最近 イライラしてない?」萌が俺を覗き込んだ。
「別に・・・・。」
「なんか中学入学時に戻った気がする……。
何かあったの?」
「ないって……うっさいな~」萌の言葉から逃げるように歩き出した。
今まで…春湖のいない空虚感を 違う形で埋めてきたのかもしれない……
心配そうな萌の視線から逃れようとしている自分がいる。
ある日家に帰ると
春湖の両親が来て 深刻な話をしていた。
「転勤!?春父 転勤なんかあるんだ~」俺はつまみを口にいれて言った。
「そうなんだ~今回が多分最初で最後だから…出世もしたし!!」
春湖の父は嬉しそうだった。
「私もついて行こうと思って~」春母が笑顔で言った。
「もう春湖も大人だしね……なんかあったらうちらがいるから
安心してついていきなよ。大出世だもん 奥さんも忙しいでしょう~」
母が春母とグラスを合わせた。
「春湖のこと頼むね。もうクタクタみたいで…とうとう部屋片付けに来て~って
連絡があってこのことも報告したら飛んできたわ。
もう春湖も顔色悪くて……ちょっと心配なんだけど…」
「ビックリしてたでしょ?」
「え~~ママはいてよ~~だって~~だけどついて行くよって行ったら
仕方ないな~~って言ってくれたわ。
パパがママいないと困るらしいって言ったら 仕方ないな~だって……。
由美がいるから…安心して行けるよ、頼むね……。」
父と春父は遅くまで仕事のことを語り合っていた。
春湖 大変なんだな……
そういえば少しやつれた感じもしたし……
社会人と学生の違いはそこにあるのかな……。
俺と春湖をつないでいた中庭のブランコに 小さい男の子と女の子が乗っていた。
春湖の家には若い夫婦が二人の子供とともに越してきた。
春湖の部屋には違う色のカーテンがかかって…
もうここに春湖が戻って来ないんだと思うと複雑な気持ちになった。