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萌の家に行くと玄関の前で犬を抱いて 萌が立っていた。
「わかった?」
「ああ。ずっと待ってたのか?体に悪いぞ。」
「うん。」
犬は俺を見てしっぽを振った。
「ポメラニアンって可愛いよな。」
「うん。うるさいのが残念だけど…可愛いでしょ?」
まあるい顔をしてよく手入れされてる毛が
フワフワ風に揺れていた。
玄関前に自転車を止めて
萌に続いて 家に入った。
「おじゃまします。」
「は~~い」高い声が聞こえて リビングのドアが開いた。
「いらっしゃい~」萌によく似た元気そうな母親だった。
「新居です。おじゃまします。」
「わざわざありがとうね。しっかり勉強させてくださいね。」
そう言うとスリッパを揃えて出してくれた。
「あとで ジュース持って行くからね。」
「あ・・・すみません。」俺は頭を下げて 出してもらったスリッパをはいた。
「ポメチコちゃんはおじゃまだからママが預かるわ。」
そう言うと俺にピョンピョン飛びあがってた ボールのような犬を抱きあげた。
「行こう~秋杜~~時間もったいない~」
萌が階段を登り始めた。
「もったいないだって~~まったくうちのお姫さまったら~~
じゃあ よろしくね~~夕飯も食べて行って。
お家のほうにはすぐに連絡しておいてね。」
「いえ そんないいです~そんなに遅くはなりませんから。」
慌てて俺はそう言ったけど
「遅くまで教えてあげて。帰りは車で送るから~
とにかくお家に電話しておいてね。
よろしくお願いします。」
そう言うとニッコリと微笑んだ。
萌に似て笑顔が可愛い人だなって思った。
「もう~~ママったら~~時間がないんだってば~~
早く ジュース持ってきてよ~~」
萌が踊り場で怒鳴った。
「はいはい~~」
そう言うとポメチコを抱いてリビングに入っていった。
萌の部屋はパステルピンクで統一された インテリアの雑誌に出てきそうな
カワイらしい部屋だった。
「うわ~なんか女の部屋って感じするな~」思わず言うと
「秋杜女の部屋って初めてでしょ?
私が一番初体験でしょ?」と憎らしい顔で言うからちょっとムッときて
「二人目だよ。」と言い返した。
「マジ?他にいるの?うっそ~~絶対あり得ない~~
見栄はってんでしょ?」
「見栄?んなもんはるか~。」
「誰?誰?」萌は俺の顔をのぞきこむ。
「いいからさ~~勉強するぞ。時間もったいないんだろ?」
広い机の上に教科書とワークを広げた。
「教えてよ~~見栄じゃないんだったら~~誰?
ウチの知ってる子?」
「知らない子。」
「気になる気になる~~勉強手につかないから~~」萌は足をばたつかせた。
萌には話しておいた方がいいのかな…
その時 俺は 自分自身に対しての防御をはった。
「勉強してから教えてやる。」
「ケチ~~」萌は口を尖らせた。