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「秋杜 女の子から電話だけど……?」
かあさんが疑いの目で俺に受話器を渡したのは 始業式を一週間後に控えた日だった。
女・・・?
俺は愛想っけなく
「はい・・・・」と出た。
「だ~~れだ~~!?」 能天気な女の声
「は?」
「だ~~れだ!!!」
「誰?」面倒くさそうに答える。
そんなバカ電話に まともに答えられるか……。
「切るぞ……。」
「あ~~ちょ…ちょっと待った~~ァ~」慌てた女がそう言った。
「あ…あたしよ…萌……。」
「萌?あ…萌!?」電話の向こうの能天気な声は萌だった。
「おまえ大丈夫なのか?」
「うん…思ったより長くかかっちゃって……
秋杜も元気だった?代表の仕事 負担かけてごめんね。」
「それはいいけど…もう学校これるのか?」
「うん始業式から行くよ。」
「そっか~~」
しばらく沈黙が続いて 萌が
「あのね…勉強教えてほしいんだけど…」と言った。
「勉強?」
「先生がプリントとか持ってきてくれて体調いい時は
暇だから勉強はしてたんだけどね…ど~してもわかんなくて
つまづいてるとこあって…夏休みあけたらすぐに学力続くでしょ……
学期末もうけられなかったから…なんとか間に合わせたくて……
忙しいよね…こんなこと頼んでごめんね……
だけど他に頼めなくて……。」
言いづらそうな萌に 思わず
「いいよ。」と言ってしまった俺……。
なんだかうまく萌のペースに乗らされてる気がしたけど
「うふふ~~
やっぱ見かけよりずっとやさしいね秋杜~~」
萌の声は嬉しそうで 俺もなんか嬉しくなった。
受話器を置いたら 目を光らせていたかあさんが
「誰?出かけるの?秋杜が?女と?
それも結構優しい言葉で?誰?春湖以外の女のとこへ…行くんだ…?」
と用意してる俺の背中に張り付いてそう言った。
「代表の女子でさ…入院してたんだ。
俺と同じとこ志望しててさ…勉強わかんないとこあるって言うから
ちょっと出てくる。」
「え?秋杜が女と?春湖以外の女に優しくしちゃうんだ?
今まで絶対そっけなくしてきたのに?この子は特別なの?」
わざとに棒読みのようにして俺の背中で言い続ける。
「かあちゃん…ウゼーよ……。」
リュックを背負った。
「これは…大変なことだわ……。
秋杜が浮気をしてる……。春湖一筋だった秋杜が……。
おかあさん…ショックだわ……。」
「なことねーし。いろいろ世話になってる友達だからさ
それにすぐ学力あるから…仕方ないから助けてやるよ。」
それは自分自信に言い聞かせている言葉のような気がした。
友達・・・・
俺にとっては一番先にできた友達だった。
萌のペースに巻き込まれて 今の生活は結構楽しかった。
「すぐ帰ってきなさいよ。」
放任主義のかあさんがめずらしくそう言った。
「うるさいな~別にやましくないんだからさ。」
俺は靴を履きながらそう言った。
「秋杜はね…まっすぐすぎて回りのばい菌には免疫がないんだから……
おかあさんは春湖以外の女にはけっこう厳しいからね。
なんか…裏を感じるわ……。」
「バカなこと言ってないでさ~~
夕飯はカツカレーでよろしくな~~」
かあさんの疑いの視線が 俺を襲ってくるから
大急ぎで自転車に乗って 家から真逆の萌の家に向かった。