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光太郎の部屋に移動して 窓一面の夜景を見ていた。
窓にうつる灯りだけの部屋は
贅沢な一枚の絵のようだった。
「春湖は大丈夫か?」
光太郎が近づいてきた。
「・・・・大大丈夫じゃない…です。
だけど…光太郎さんがいてくれてよかった…。
それに…こんな素敵な夜景をここで一人占めできて……ちょっとだけ救われたかな。」
「そっか~よかった。」
光太郎が覗き込んだから 恥ずかしくなって顔をそむけた。
「ルイトのアップにはたえられません……。」
「あははは~」軽快な笑い声
「明日…帰っちゃうんですよね。」
「うん…。」
胸にぽっかりと穴があきそうで
「寂しいな~~」思わず本音を口にしてしまった。
「それは光栄だよ~俺も寂しいよ……。
明日の夜からドラマのロケが入ってっから……」
「でもよかった…昨日は死ぬなんて言ってたから
ほんと心配してたんです。」
「ごめん…でも昨日までは死にたいって思ってたよ。
もう一度会いたいなって思って今日 強引に会いに行ったんだ。」
「ほんと強引なんですから…」
「会って俺もよかった……また頑張ろうって気がしたから……」
「私もきっとあのまま家にいたら
彼を待ってそして…また帰って来ない彼のこと考えて泣いていました。」
「俺もそんな春湖を想像したら切なくなった……。
だから家に連れてきてしまった。」
光太郎が私を抱き寄せた。
そう…きっと
今頃一人だったら…どうしていただろう…
ぞっとした。
今こうして…抱しめてくれる人に癒されて
今日はついていた気がする。
「今夜は…俺と一緒にいよう……。」
「え・・・?」
「春湖を……抱きたい……。」
心臓が口から出そうになった。
さっき・・・欲望が理性によって底深く沈められたはずなのに……
「ダメで…す……。彼を裏切るから……」
心臓がドキンドキンと脈打った。
光太郎の唇が私の耳を刺激して 私は思わず声をあげた。
「キャ……」
「春湖…しっかり俺を拒否ってね……。」耳元で囁いた。
「それ…めっちゃ意地悪です……。」私は喘ぐようにそう答えた。
「俺は理性をうしなっちゃいないよ…
ちゃんと理性が言うんだ…春湖を抱きたいって……」
私も……抱かれたい……
「俺は純粋にそう思ってる…。だからって言って付き合ってくれとは
言えないけど……俺も恋が終わったばっかで……
まだ他の女を愛せる次元じゃないし……それなのにこんなこといって…
俺…やっぱバカだな……。」
「正直で好感がもてます。
お互い…傷を…癒しあいたい…それだけですよね……。」
「春湖……?」
「私の傷を…癒してくれますか?
私が光太郎さんの傷を癒せますか?」
私は光太郎の胸から顔を離して
夜景の灯りの中の整った顔をドキドキしながら見つめた……。