W杯 デンマーク戦 2点目 『情景描写練習』
久々に書いたので自分でも今ひとつなのですが、あの緊張感が伝わってくれたらと思います。
たくさんの批評求めます。
セットされたボールの前で、ホンダの目がせわしなくゴールとボールを往復していた。
彼の目が往復するたび、チリチリと右腕に熱さを感じていた。
耐え切れず、一瞬だけ私の右側に視線を送る。
刹那、私と白いゴールポストの間すり抜けていくボールを見た気がした。
何ともいえない焦燥感を感じつつ、幻を振り払うため再び彼に視線を合わせた。
目の前で徐々に壁が作られていく。それでもただ私は彼を見つめていた。
距離を測るようにすばやく往復する目。
呼吸を整えるためにゆっくりと上下する肩。
20m離れていようと、私には彼の姿がくっきりと見えていた。
場内に鳴り響くブブゼラの音は、いつの間にか消えていた。
ただ彼の息遣いだけが私には聴こえていた。
それはもしかすると私の息遣いだったかもしれない。
私の鼓動か彼の鼓動か、もう私でも判らなくなっていた。
突如、審判のホイッスルの音があたりに響き渡った。
一瞬、彼の上下していた目がゴールの右側で止まった。
一瞬、彼の上下していた肩が止まった。
来る。
瞬間、視界の右側で影が動いた。
彼だけを見つめる中で、ボールがゴールの左側に向かって蹴り放たれた。
エンドウだ。
何千何万回と繰り返し練習を重ねていた体は、跳んでくるボールに無意識のうちに反応していた。
だが一方、意識はゴールの右側に向かうボールの幻を見ていた。
左へと動こうとする体、右へと動こうとする心。乱れる呼吸。
跳びつく体、懸命に伸ばす左腕。
ボールが左腕の向こう側をすり抜けていった。
ただそれが必然であるかのように、ボールは私の目の前を通り過ぎゴールへと導かれていった。
倒れこむ私の中で、音が色がすべての存在が消えた。
ただゴールネットにボールが包まれる音だけが小さく聞こえていた。
次の瞬間、すべての音が存在を取り戻した。
場内を響き渡るブブゼラの音、歓声。ありとあらゆる音がその存在を取り戻した。
その音を遠くに聞きながら、私はゆっくりと立ち上がった。
はるか向うで青いユニフォームに包まれたジャパンチームが雄叫びともいえる歓声をあげ集まっているのが見えた。
私は、現実か幻か何もわからなくないまま、ただゴールを歩いていた。
ふと私の右側で白いモノが動いたのが見えた。
視線を送ると、目の前には白いボールが静かに転がっていた。
その時、私は、私の手からワールドカップが転がり落ちていく幻を見た気がした。