水面のやすらぎ ー治癒の魔道士ルミナ
ーヴァリオンは目をゆっくりと開けた。
視界に映るのは、木製のベッドの枠と、白くて少し青みがかったカーテン。耳に届くのは、波の音……そう、どこか海の匂いがする。
「……?」
ここはどこだ…?上半身を起こして室内を見回した。
「うっ!」胸や肩がズキっと痛む。
ブレイブとの戦いの傷がまだ鮮明だ。力を入れて起き上がろうとするも、体は痛みで思うように動かず、苦悶の表情を滲ませ、ベッドに沈むように戻る。
「…………?」体に手をやると、包帯の感触に気づく。腕や脚にぐるぐると巻かれ、動かすたびに軽く痛む。
磯の香りと共に舞い込んで来た潮風に光がカーテンを揺らし差し込んで来る。
白を基調とした壁に、いくつもの棚。そこには薬瓶や魔法用の道具が整然と並んでいる。
ベッドは清潔で、シーツもきちんと折り畳まれ、頭元には小さな魔力結晶のランプがゆらりと光っていた。
壁際には魔法で滅菌されたガラスの器具や、包帯・薬草が並ぶカートがあり、必要なものはすぐに手に取れるようになっている。
ヴァリオンは包帯に包まれた体を見下ろし、ここがただの宿屋や民家ではなく、治療の為の空間だとようやく理解した。
ホッと息を吐き、再び目をゆっくりと閉じた…。
カチャ……ガサ……かさっ……
どこからか聞こえる微かな物音で、目を開ける。
ベッドの脇には手には包帯と薬草を持っている女の子が目を覚ましたヴァリオンに気付き「起こしちゃいましたか?すみません」そう言って、明るい笑顔を向けて来た。
淡い水色のナース風ローブに包まれた少女は、癖っ毛のポニーテールを揺らしていた。歳は自分より少し下だろうか?
目はくりっと大きく、随分と可愛らしい女の子だなと思った。
ヴァリオンは、その笑顔を見て安堵する。
「いや…その…大丈夫です」
眠気と痛みがまだ混ざる頭で、言葉を紡ぐ。
「まだゆっくりしていて下さいね?かなりの怪我をしているみたいだったので、勝手に治療させて貰いました!」
「あ……いや……勝手にだなんて、助かりました。ありがとうございます……」
深く追求はせずに、にこにこと笑顔を絶やさず、手際よく薬草をすり潰し、包帯を丁寧に巻き替えながら答える。
「お礼なんていいんですよ。それより、怪我の具合を教えてくださいね」
「右腕と肩に…痛みが走るよ、足も痛いな」
手際よく包帯を外しながら、傷口の確認をする。
「そうですか…次は包帯を交換しますね」
その時、包帯の隙間から素肌が見えてしまい、ヴァリオンは思わず顔を赤くしてばっと隠す。「俺の……服は……?」
「……ああ!ボロボロだったので捨てましたー!新しい服を用意してありますから隠さなくても大丈夫ですよ!」グーを作り弾ける笑顔を浮かべる。
「いや……こっちが大丈夫じゃ……ない」
くすくす笑いながら、手を止めずに包帯をあれよあれよと取っていく。
「わあああああ――――!?ちょ、ちょっと待ってってば!」
「そんな恥ずかしがらなくても……それに魔法で少し治癒しますから…「魔法……?」被せ気味にそう質問を投げかけたヴァリオン。
「はい!申し遅れました!私魔法使いのルミナと申します!見習いですが治癒魔法や病気の薬剤なんかを煎じたりしております!攻撃魔法なんかも少し……だけできます!」
攻撃魔法の所が微妙に怪しかったが、治癒魔法の使い手とは有能な魔法使いだ。
ルミナは魔法で傷口を軽く癒す。
「ふむ…うん、大丈夫。しっかり手当てすればすぐに動けるようになりますから」
「ルミナさん…すごい……」
魔法をかけた手のひらサイズの範囲は傷が綺麗に消えていった。
「任せてください!さあ、次はこの包帯を交換して…」
「あ――――――!?ちょっ……」
ルミナは恥ずかしがるヴァリオンにお構いなしに包帯を巻き替えた。
「はい!終わりましたー!」手をパンパンと叩き、汗をかいて清々しい顔でやり切った感を出すルミナに対して、まだ赤い顔を手で覆っているヴァリオン。
なんとか服を着れるくらいには治ったからよかったと安堵するヴァリオン。
だが……、薄い水色の柔らかい布で、動きやすく魔法の手当もしやすいだろうけど。柄が妙に可愛くてヴァリオン的には、今すぐ脱ぎたい……。と、切実に思った。
治療して命を救って貰った手前文句が言えないが……。
「……俺、生きてたんだな」ふと言葉が溢れた。
「ええ、だからこうして手当てしてるんですよ?」
そう言ってルミナがにこっと微笑む。
爽やかな風が吹き抜ける中、ヴァリオンは静かに目を閉じた——。
ヴァリオンは胸の傷に手を当て、小さく眉をひそめ、戦いの記憶と苦しさが蘇る。
その瞬間、脳裏にブレイブ戦の光景がよみがえる。赤い闘気に血で染まった体、絶望の圧。みっともなく命乞いをした自分、圧倒的なブレイブの強さ。
(でも……あの時、ブレイブの背中は少し哀しそうだった)ふと、自分の中に不思議な感情が芽生える。恐怖や敵意だけではない。あの力の奥に、誰も見せない弱さを抱えた人間がいる事に気づく。
そして小さな憧れも――
(……俺も、強くなりたい)
「ルミナさん!頼みがあるんだ」
「ルミナでいいですよ、なんですか?」
「あの、剣とか木刀とかないかな?槍とかでも構わないんだ」
「確か漁師さんの槍が流れ着いていましたね、錆びてましたが」
「そっ、それで構わない!貸してくれないか!」
「ええ、用意しておきますね?まずは怪我を治すことに専念して下さいね?」
「ああ…わかったよ、ルミナ」
ルミナはにっこり笑って少し待ってて下さいと言ってパタパタ足音を立てて何かを探している音が聞こえて来た。
戻ってきたルミナは一冊の本を持って来てくれた。
「騎士の手本書…?うわ、ありがとう、ルミナ」
「どういたしまして!くれぐれも無理しないでくださいね?」
「ああ…!」
はやる気持ちを抑え、治療に専念する――そんな自分に、少しだけ苛立ちながらも、騎士の手本書…まずはその一歩を頭に叩き込んで、静かな決意を胸に刻むのだった。
私もヴァリオンみたいにルミナちゃんを見てホッとしたり、癒されたり、元気をもらいたい気持ちになりました(*´-`)




