立ちはだかる者 ー忠誠の騎士ブレイブ
「お前はハラス・ヴォルトの脇にいた騎士……」
「ああ、私はハラス・ヴォルト様にお使えする騎士だ」
腰の脇からスラリと剣を抜き、その刃先が淡く光を反射する。
「ま……待て!なぜ剣を抜く!俺は話をしに来たんだ!」ヴァリオンは両手を振りかぶり一歩下がって訴える。
「話……?」
ブレイブの瞳がギラっと光ったように感じた。思わずヴァリオンの背筋は凍った。
「こちらには話すことなど無い。立ち去らないのならば、私はお前を斬る……!」
圧倒的な威圧感に気圧されそうになるヴァリオン。
刃の先端が喉元に軽く触れた。
金属の冷たさがほんの一瞬触れた途端ヴァリオンの体は完全に固まった。
心臓がバクバクと音を立て、頭の中は真っ白。
ブレイブの瞳は動かず、ただ静かにこちらを見据えている。
その圧倒的な静けさと迫力に、何も出来ずにいた。
ブレイブは剣を頭上に構えた。
ぎらりと光るブレイブの剣。
「!!」
振り下ろされる刃が視界一杯に迫り、胸の奥まで冷たい空気が突き抜ける。
「や、やばい…!」思わず声にならない悲鳴が喉に詰まる。
ヒュッ……!
ブレイブの剣が頭上を切り裂く。
「…………っっ!!」
一瞬、時間が止まったかのように世界がスローになる。
考える前に、体が勝手に反応した。足を跳ねさせ、腰をひねり、刃は辛うじて肩先を掠めるだけ。
ドクン……ドクン……ッ
金属が空気を切る音が耳に刺さり、心臓が跳ね上がった。
肩越しに伝わる振動と、刃がすれすれを通る冷たさに、思わず身体が硬直した。
目の前に迫る金属の恐怖。時間が引き伸ばされたように、心臓がバクバクと響く。
ブレイブの剣は空を斬った。
「…………身のこなしだけはまあまあだな?」ふっと笑うブレイブにヴァリオンの心臓はまだ高鳴っていた。
「はあ…はあっ……」
ヴァリオンは息を整えながら、気分が高揚していくのを感じていた……。
戦いの香りが、胸の奥まで染み渡る。
だが今はそんな事を考えている場合じゃない。現況は最悪だ。今は武器すら持っていない。
どうする……どうしたらリュミールの町と皆を戻せるんだ……?
「ブレイブ!!」窓からハラス・ヴォルトが顔を覗かせて声を荒げた。
「!!」
「私の屋敷が血で汚れる!外でやれ!始末するんだ!良いな!?」
「はっ!」ブレイブはヴァリオンから目を離さずにキレの良い返事をした。
「!」ヴァリオンはキッとハラス・ヴォルトを下から睨み付けた!
「………………」ハラス・ヴォルトはヴァリオンを見下ろした。
「…良いか?小僧。お前が一人いなくなったところで、誰も困らぬし、誰も悲しまぬ。もう誰もお前など必要としておらぬのだ……あの金髪もな?」
「く……っ」
「ふん……っ」勝ち誇った顔をするハラス・ヴォルト。
「俺は確かに弱い……。誰も俺なんか必要としないのかもしれない。アスティアの方が強いし、明るいし、みんなを勇気づけられる……」
その瞬間、アスティアの顔が浮かぶ。いつも笑顔で隣に当たり前にいた親友。
「だけど……それでも俺は、俺にしかできない戦いをする!俺は皆を見捨てて……逃げたくないんだ!」
「ふん……戯言をほざきおって。弱者の決意ほど、無様で醜いものはないわ、せいぜい死に急いだ事をあの世で後悔するが良い」
次の瞬間、2人は森の中にテレポートされていた。
「!!」
ここは村の外にあるリュミールの森か…。
「さあ、観念するんだな……」
(死んでたまるか……!!)
ブレイブが構えるなり、ヴァリオンはダッシュで逃げた。
「無駄な事を……」俊足で後を追うブレイブ。
ヴァリオンは足元の土の感触で自分の位置を確かめながら、森の奥へと進む。木々の間を縫うようにして進む。
「むん!」
ブレイブの剣の振り下ろしをかろうじて避ける。
足がもつれかかるが、体勢を必死で立て直す!
「まずい…速すぎる!」胸の鼓動が速まる。だが、ここは俺の庭!
森の小道は俺の味方だ。低い枝をくぐり、苔むした岩の陰に身を隠す。ブレイブが剣を振りかざすたび、木の葉がざわめき、影が揺れる。その音を頼りにヴァリオンは次の動きを決める。
「よし、ここだ!」ヴァリオンは地面の根っこに足をかけ、体を捻ってブレイブの一撃をかわす。その勢いで隣の木に飛び移り、距離を稼ぐ。森の奥で枝や茂みが遮蔽となり、ブレイブの圧倒的な力も、森の中では単なる威圧感に過ぎなかった。
「はあ……はあ……そうだ!」ヴァリオンは一瞬の閃きで、足元の落ち葉や小枝を集めてブレイブの進路に撒き散らす。滑りやすくなった地面にブレイブは一歩踏み外し、バランスを崩す。
「今だ!」ヴァリオンは素早く木の枝を拾い、ブレイブの肩に軽く打ち付けて距離を取る。森の奥の小川や根っこを利用して巧みに身をかわしつつ、ブレイブの剣を縦横にすり抜ける。
枝葉がざわめき、鳥たちが驚いて飛び立つ。自然の音がブレイブの集中を微かに乱す中、ヴァリオンは呼吸を整え、次の奇策を考える。岩陰や茂み、低木の間を縫うように進むことで、森自体が味方となり、ブレイブの圧倒的な力を封じ込める形になるのだ。
「ふん……っ、森の中だと、少しはやれるようだな」ブレイブは剣を振り上げるが、思わぬ方向から枝が顔にかかり、力が一瞬緩む。ヴァリオンはそこを逃さず、木の間を跳びながら反撃の機会をうかがう。
ヴァリオンは小川に沿って駆け、足を滑らせるように仕組んだ小枝と水流を利用して、ブレイブを翻弄する。木々の間を縫うように進むヴァリオンに、ブレイブの剣は何度も空を切る。
「小僧……!」ブレイブの声は苛立ちに震える。だが森の中、ヴァリオンは静かに息を整え、次の逆襲の瞬間を狙っていた。
ブレイブが剣を振りかざし、重厚な足音と共に迫る。だがヴァリオンは素早く身をかわし、わざと落ち葉を踏んで小さな音を立て、ブレイブの注意を引きつける。
「…………」ブレイブの眉がひそめられる。
ヴァリオンは木の根の上で跳ね、ブレイブの剣が空を切る瞬間に小枝を蹴り、ブレイブの足元を滑らせる。バランスを崩したブレイブは一瞬剣の制御を失い、その隙にヴァリオンは倒木の陰に滑り込み、再び距離を稼いだ。
小川のせせらぎを利用し、水しぶきでブレイブの視界をわずかに曇らせる。ブレイブは苛立ち、剣を大きく振るうが、森の罠が次々に彼の攻撃を妨げる。枝が絡み、倒木が進路を遮り、滑った石が足元を揺らす。
その瞬間、ヴァリオンは森の奥から細い枝を巧みに操り、ブレイブの剣をわずかに弾き飛ばす。剣の角度が狂ったブレイブは、そのまま小川の浅瀬に足を取られ、身動きが鈍る。
「よし、今だ!」ヴァリオンは森の木々を縫うように駆け、ブレイブの背後に回り込む。息を切らしながらも、彼の目には確かな勝機が映っていた。
ブレイブはついに足を滑らせ、剣の振りを弱める。森の罠に翻弄された彼に、ヴァリオンの冷静な眼差しが突き刺さる。森を制した者の勝利は、もうすぐそこまで迫っていた。ヴァリオンの手には太めの枝を握り締めた。リュミールでも一番丈夫な木の枝だ……これだけ太ければ!
ヴァリオンは全力で走り、倒木の陰から素早く飛び出した。小枝を蹴り、ブレイブの足元をわずかに乱す。
「これで…!」息を弾ませながら剣を振り、ブレイブに攻撃を仕掛ける。
だが、ブレイブは微動だにせず、正確に受け止める。ヴァリオンの力強い一撃は、まるで壁にぶつかったかのように跳ね返る。
「な…!?」ヴァリオンの目が大きく見開かれる。
ブレイブの冷静な瞳が森の木々の隙間から覗く。動じる気配は全くなく、逆にヴァリオンの攻撃を誘うかのような余裕の構えだ。
一瞬の隙を見逃さず、ブレイブは軽く足を踏み出すだけで、ヴァリオンの攻撃をかわし、体勢を崩させる。
「ぐっ…!」ヴァリオンは身をひねり、森の罠を利用して再び隙を作ろうとするが、ブレイブは一歩も譲らず、圧倒的な力と正確さで受け止め続ける。
「そんな…………全然歯が立たない…!」ヴァリオンの胸に焦りが広がる。
ブレイブの剣先が一瞬、ヴァリオンの肩先に触れる。その冷たさと重みだけで、全身の力が抜け、思考が一瞬止まる。
森の奥で響く風の音さえ、今はまるでブレイブの強さを称えるように聞こえた。
それでもヴァリオンは諦めない。必死に隙を探し、森を最大限に使い、攻撃を重ねる。だが、ブレイブは微動だにせず、彼の力強い攻撃をいとも簡単に受け止める――まるで戦士そのものが森と一体化しているかのように。
「遊びは終わりだ」




