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黎明の誓い  作者:
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レグナ・クロノス ー3人の穏やかな時

哀麗の笑顔は強い。

けれど、その奥にある痛みを、今のヴァリオンは誰よりも感じ取っていた。


守られてばかりじゃなくて、守りたい。

けれど「大丈夫だ」なんて簡単な言葉では、哀麗の心に届かない気がして。

それを言ってしまえば、彼女の痛みを軽いものとして扱ってしまうようで――

胸の奥で言葉が引っかかって、喉で止まってしまう。


握った拳が微かに震える。

追いつきたいのに、追いつけない。

それでも隣にいたい、その思いだけが彼を立たせていた。


――そんなヴァリオンの葛藤を、ルミナだけが明るさで破った。


「こういう時はですよ、ヴァリオンさん!“俺がついてるよ”って言うんですよ!!」


「は!?」とヴァリオンが思わず間抜けな声を上げる。


頬を赤くして目をそらすヴァリオンに、ルミナが小声で「今のはチャンスだったのに~」とぼやく。

2人は楽しげな声をあげ軽快に言葉を交わし合う。



「なんだか、2人といるとすごく楽しいな……」


その言葉に、ヴァリオンの心臓が跳ねる。

(た、楽しいって……俺たちといて……!?)

顔がみるみる赤くなっていくヴァリオンの様子を見て、

ルミナは「ヴァリオンさん、また顔真っ赤ですよ~」とニヤリ。


「な、なんでもないっ!!」と視線を逸らすヴァリオンに、

哀麗はクスッと笑って、風に髪をなびかせた。



レグナ=クロノス――高低差のある路地と広場が入り混じる大都市。石畳の通りには屋台、工房、ギルド、カフェ、劇場が軒を連ね、人々の生活が色濃く感じられた。高層建物の屋上庭園では商人や上級市民が静かに日光を楽しみ、街全体に活気と生活感があふれている。


街の音が耳に飛び込んでくる。馬車の車輪が石畳を叩く音、下駄のカツカツという響き、屋台の呼び声。鍛冶の金属音、商人同士の値段交渉、子供たちのはしゃぐ声――その合間に遠くで鐘が鳴り、掲示板から噂や情報が次々と伝わっていく。


通りを行き交う人々も様々だ。武器屋や錬金術師、薬屋、露店商、料理人、修理屋。警備隊やギルド関係者、学者、職人、芸人、そして情報屋――表向きは普通の商人や学生も、街の活気に一役買っている。


ヴァリオンは人混みの中で目を見張った。こんなに多彩な人々が入り乱れる都市――この街に足を踏み入れただけで、情報や冒険の香りが漂ってくるようだ。


人混みが行き交うレグナ=クロノスの石畳を進む一行。屋台の呼び声や鍛冶の音、子供たちの笑い声に包まれ、街は昼の活気に満ちていた。


「うわっ、人が多い……!」

ルミナが小さな体を揺らしながら、押されそうになる。


「ルミナ!!」

ヴァリオンがとっさに手を伸ばし、しっかりと腕を握る。ほっと胸をなでおろす瞬間、ルミナも安心して微笑んだ。


「ほんと、いつもお世話かけますね……」

ルミナが小声で笑うと、ヴァリオンも少し照れたように笑い返す。


まるで海底トンネルの時と同じ――あのときも人の波に翻弄されて、互いに支え合ったっけ。街の喧騒の中で、二人の間には小さな安堵の時間が流れた。


哀麗「大丈夫...?ルミナ」


「はい……私、小さいから、こういう人混みだとつい流されちゃって」

ルミナが小さく肩をすくめ、ぎゅっとヴァリオンの腕を掴む。


「しっかり捕まっててくれ、いいな!」

「はいっ!!」

小さな手がヴァリオンの腕をしっかり握ると、二人の間に自然と穏やかな空気が流れる。


ルミナが小さな手をヴァリオンにぎゅっと握りしめ、安心しきったように笑う。

ヴァリオンも自然に肩の力を抜いて、優しくルミナを見下ろしている。


哀麗はそんな二人を見つめ、ふっと微笑む。

(等身大の二人……なんだか、いいなあ)

その心地よい光景に、思わず胸の奥がじんわりと温かくなる。



ヴァリオンとルミナは、街の石畳の通りや屋台を見て、目を輝かせながら楽しげにはしゃいでいる。

ルミナが屋台の飾りに手を伸ばし、ヴァリオンが珍しそうに看板や建物を見上げる。


思わず哀麗は目をぱちくりさせた。

(2人とも、かわいい…楽しそう……)

そう感じる自分に少し驚きながらも、胸の奥に温かい気持ちが広がる。


忘れてしまっていた、こんな感情――

誰かと一緒に街を歩き、笑い、楽しむことの幸せ。


(いいな……)

哀麗は静かにそう思い、微笑みを浮かべた。


「あ…すまない! ついはしゃいでしまって…哀麗の弟さんの情報を探しに来たのに」

ルミナ「そうでしたっ! す、すいません! どこに行きますか? お供しますよ!」


と、2人に言われた哀麗は「ううん…ただ楽しそうにしてるのを見てただけなの」と微笑む。

「少し寄り道してから行こっか」と声をかけた。


ルミナ「はいっ!」

隣でニコニコと笑うルミナに、哀麗も自然と微笑み返す。

その口調が、少しだけ普段より柔らかく砕けていたのに気づいたヴァリオンは、思わずニンマリしてしまう。


楽しそうに街を歩く3人の背後――

誰にも気づかれないよう、雑踏の陰でひっそりと足を止める影があった。


マナだ。


以前の装いとは違い、今は冒険者風の軽装。

深緑の軽鎧に動きやすいショートマント、そして背に携えたのは黒光りする長弓。

狩人のように静かで鋭く、気配を極限まで殺して周囲に馴染んでいる、


だが、その視線だけは殺しきれなかった。


釘付けになったまま、哀麗だけを見ている。


「……哀、麗……?」


息にもならない声が唇から零れる。

その瞳には歓喜とも憎悪ともつかない炎が燃えていた。


あれほど美しく、あれほど遠く完璧だった哀麗が――男と少女に囲まれて朗らかにしている。


マナの手が震え、握りしめていた革の手袋がきしりと鳴る。

押し殺した感情が溢れ、唇が噛み締められる。


(どうして、そんな顔で誰かと笑っているの……?)


視線はただ一点、哀麗に縫い付けられたまま。


嫉妬か、執着か、狂気か。

胸の奥に渦巻くその感情は、もはや自分でも判別できなかった。


風がマナのマントを揺らす。

街の喧騒が遠くに霞み、世界が哀麗以外のすべてを拒絶したように感じた。


いつのまにか、ぎゅっと握り締めていた拳から血が滴っていた...。


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