恋心限界突破ーヴァリオンの哀麗への気持ち
「どうしてここに...?」
ヴァリオンは心配そうに顔を覗き込む。声に少し震えが混じるのを、哀麗は見逃さなかった。
「あ……実は……」
哀麗は小麦を抱き、持ってきたトレイをそっと撫でた。
「この子のトレイに触れた瞬間……ハラスヴォルト様にかけられていた洗脳の魔法が、解けたの」
ヴァリオンの目が見開かれる。
「そ、そうだったのか……!」
驚きと安堵が入り混じり、思わず小さく息をつく。
「それで……私は弟を探して、ここに来たのよ」
哀麗の瞳には、淡い光が宿る。
「弟はアウレア王国の牢に収容されているはずだったの。でも――ここには、いなかったわ」
ルミナとヴァリオンは息をのむ。
「弟……?」と二人の声が重なる。
「昔ね...私と弟はこの国で生計を立てていたの。でも、私と弟が捕らえられて……私だけがハラス・ヴォルト様に連れられ、そのまま別れ別れになってしまったの…弟は生かす条件だったのよ。それを信じて、記憶を辿ってここまで来たのだけれど……」
言葉の最後はかすかに震えた。
哀麗は目を伏せ、胸に小麦を抱きしめる。
それでも、その姿には悲しみだけでなく、確かな意志が滲んでいた。
ルミナは小麦を撫でながら、瞳を輝かせて言った。
「弟さん、きっと見つかります! 一緒に探しましょう!」
その言葉に、ヴァリオンは少し笑みを浮かべた。
「……ああ。俺も今、それを言おうとしてたところだ」
2人の笑顔を見て、哀麗は少し俯きながら口を開く。
「でも……ブレイブやハラスヴォルト様が追ってくるかもしれないわ。危険すぎる……」
ヴァリオンは一歩前に出て、そっと哀麗の肩に手を置く。
真剣な眼差しで、言葉を紡いだ。
「それならなおのこと……絶対に一人にはさせたくない」
「……ヴァリオンくん……」
その言葉に、哀麗の胸の奥がじんわりと温かくなる。
その瞬間――
ルミナは思わず胸を押さえ、心の中で「きゃーっ!」と叫んだ。
(なにこの空気……尊い……!)
頭の中で悶絶しながらも、微笑ましく2人を見守る。
哀麗は戸惑いながらも、優しく笑った。
「…ありがとう、ヴァリオンくん」
ヴァリオンは不意に胸の前で服をぎゅっと掴んだ。
「あれ……なんだ、この気持ち……」
可憐で、美しくて、愛らしい――
そう思っていたはずなのに、今はそれ以上に。
胸の奥がぎゅうっと締め付けられるような、
どうしようもない愛しさが込み上げてくる。
その目元、その仕草。
何もかもが柔らかくて――目を離せなかった。
「なあに? そんなじっと見て」
哀麗がくすっと笑い、首を少しかしげる。
「ご、ごめん……」
ヴァリオンは慌てて背を向け、手で顔を覆うようにして息をついた。
その様子に、ルミナはまた胸キュン。
(ああもう、どっちも可愛い……!)
「なあに? 私に照れてるの?」
哀麗は小悪魔っぽく微笑みながら、ツンッとヴァリオンの背中を指でつつく。
「ひっ!? ちょっ……!」
ヴァリオンはびくっと肩を震わせ、顔を真っ赤にして目を逸らした。
哀麗のあははっと弾けるような笑い声。
その笑顔はヴァリオンだけでなく、ルミナの胸にもズドンと突き刺さる破壊力だった。
ヴァリオンは思わず息を飲む。
「……こんな顔を、するんだ……」
等身大の哀麗の素顔を見た気がして、たまらなく愛しさが込み上げた。
「もう…何よ?」
そして、ヴァリオンの口から零れた。
「その……哀麗が、あまりに可愛いから……!」
あまりに無防備な一言に、
本人もびっくりして顔を真っ赤にし、思わず目を逸らす。
「えっ……」
哀麗の頬がふわっと桃色に染まる。
その表情は、春の光のように柔らかかった。
「う、うわああああ……っ!」
ヴァリオンは胸の高鳴りに耐えきれず、
その場にガクッと膝をついた。
「ヴァリオンさん!? しっかりしてくださいー!」
ルミナが慌てて肩を揺さぶる。
哀麗は指先で髪をいじりながら、少しうつむいて微笑む。
「かわいい…なんて、言われると……照れちゃうな……」
その声はかすかに震え、恥じらいが混じっていた。
その姿を見た瞬間――
ヴァリオンの胸はドクンと鳴り、限界突破。
その瞬間――
ヴァリオンは再び胸を押さえ、
立ち上がりかけた膝から、再び崩れ落ちた。
「お、俺の心臓が……!」
ルミナは呆れたようにため息をつきながらも、
どこか楽しそうに笑う。
「ヴァリオンさん、またですか……! 膝、壊れますって!」
小麦くんも首をかしげながら、
そんなヴァリオンを不思議そうに見上げていた。




