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黎明の誓い  作者:
39/46

再会の路地裏 ー哀麗とのひととき

ヴァリオンはその後ろ姿を、夢中で必死に追いかけた。

人混みを掻き分け、何度も右へ左へと首を振る。

「ど...どうしたんですか……いきなり!?」

息を切らせたルミナの声も、今の彼の耳には届かない。


掲示板の前に立つ一人の女性に、ヴァリオンの視線が釘付けになった。

深くフードを被っているにも関わらず、絹のように滑らかな髪がひらりと零れ、

わずかに見えた横顔は、記憶の奥に焼きついた“あの人”を思い起こさせる。


その立ち姿は静かなのに、なぜか周囲の空気を変えてしまうほどの存在感を放っていた。


「わあ……どこから来た人でしょうね……すごく素敵な雰囲気です……」

「まさか……」


「わんわんっ!」


その胸に抱かれていた犬が、ヴァリオンを見つけるなり尻尾を振って飛び出した。

「おわっ!? 小麦!?」

飛びついた小麦はヴァリオンの足元でくるくる回り、嬉しそうに鳴いている。


「わあ……かわいい……」

ルミナがしゃがみ込み、そっと頭を撫でると、小麦はますます尻尾を振った。


「ヴァリオンさん……?」


ルミナの声で、ヴァリオンはようやく視線を戻す――

だがその目は、まったく別の方向を向いていた。


フードを深く被ったままの女性。

絹のように滑らかな髪が光を受けて揺れ、その一瞬が永遠に見えるほどだった。

まるで周囲の喧騒だけが遠のき、彼女の周りだけが静寂に包まれているかのように。


「哀……麗……?」

「……っ!」


その名を聞いた瞬間、女性――哀麗の肩がわずかに震える。

そっと顔を上げ、視線が重なった。

互いの瞳に映るのは、信じられないほど懐かしく、そして切ない再会の光。


ヴァリオンの胸が跳ね、呼吸を忘れた。

ルミナはその様子を見て、何が起こったのか理解できず、きょとんと立ち尽くしていた。


ヴァリオンが動揺して言葉を探す間に、

フードを被った哀麗は小麦を抱えたまま、彼の腕をぎゅっと掴んだ。

その瞬間、細い指先から伝わる温もりに、ヴァリオンの思考が一瞬止まる。


「え、え……?」


戸惑う間もなく、哀麗は彼を人の少ない路地裏へと引き込んだ。

ルミナは小麦を胸に抱いたまま立ち尽くし、

その背中を見送りながら心臓をどくんと鳴らした。


──そして。


路地裏に辿り着いた哀麗は、ようやく足を止め、荒い息を整えながらヴァリオンを見上げた。

薄暗い光の中、フードの陰に隠れていた瞳が静かに光を宿す。


ゆっくりと彼女は手を上げ、フードを後ろへ払った。


絹糸のような髪がふわりと流れ、月明かりを受けて輝く。

整った輪郭、穏やかに揺れるまつげ、

そしてどこか哀しげな微笑みが、息を呑むほどに美しかった。


ヴァリオンの胸は一気に熱を帯び、鼓動が早鐘のように鳴り響く。

目の前に立つのは――まぎれもなく、本物の哀麗だった。



「……哀麗……!」


思わず名前をつぶやいた瞬間、ルミナも息を切らして追いつき、

視界に飛び込んだその姿に「あっ……!」と声を上げた。


「久しぶりね...?ヴァリオンくん」

「あ...ああ....」


小麦くんも嬉しそうにしっぽを振り、

路地裏は一瞬にして再会の熱気に包まれた。


胸がぎゅうっと締め付けられ、鼓動が速くなる。

ヴァリオンの心臓が跳ね、息を呑む。

哀麗もそれに気づいたように、静かに見返してきた。

互いの視線が絡み合い、時間が止まったかのように感じる。


じっと見つめ返され、ヴァリオンは顔を真っ赤にして視線をそらした。


「もう……また目を背けたわね?」

哀麗は小さく微笑み、少しだけ首を傾げる。

「ふふ……変わってないわね...ヴァリオンくん」


その穏やかな声に、ヴァリオンの胸は再び高鳴りを取り戻した。


「な、名前……アスティアから聞いたのか……?」

「そうよ。――初めて、名前を呼ぶのね……? ヴァリオンくん」


そう名前を呼ばれた瞬間、ヴァリオンは耳まで赤く染まるのが自分でも分かった。

久々に会った哀麗は、記憶の中の彼女よりもずっと美しく、可憐で――まるで宝石のようだった。


「やっぱり……偽物なんかとは違うな……」

そう呟いて切なげに微笑むヴァリオン。


「ん?」

哀麗が小首をかしげて顔を覗き込む。その瞬間――


「ああああああっ!? 哀麗さん!? ほ、ほほほほ本物ですかぁ!?」

ルミナが勢いよく声を上げ、口をパクパクさせながら前に飛び出した。


「ル、ルミナ!?ちょ...声大きい……!」

「だ、だってぇぇぇぇ! 本物ですよ!? 本物の哀麗さんですよ!?」



「……可愛い……」

哀麗が両頬を手のひらで押さえ、ルミナに向かってそう呟く。

「哀麗さんこそ美しすぎますっ!!!」


二人はすっかり意気投合し、隣同士に座って小麦くんを膝に乗せながら、おしゃべりに夢中になった。


ヴァリオンは少し離れた場所から、二人の楽しそうな姿をそっと見守った。

小麦くんはすっかり哀麗の膝の上で甘えていて、ヴァリオンに近づこうともしない。

「……楽しそうだな」

肩をすくめて微笑む。無理に会話に入らず、ただ二人の時間を邪魔しないようにしていた。


それでも、気にならずにはいられない。ふと声をかけるタイミングを見計らい、そっと近づく。

「ところで……どうしてここに?」

優しく、でも控えめな声で尋ねるヴァリオン。二人の邪魔にならないように距離を取りつつも、しっかりと目を向けている。


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