また会う日まで ― カイルとセラフィムとの別れ
地下牢の空気は湿り気を帯び、鉄と血の匂いが漂っていた。
わずかな灯りが鉄格子の影を床に伸ばす。
その中で、鎖につながれたライオネルがうずくまっていた。
カイルが一歩、牢の前へ進み出る。低い声が響く。
「……サイラスの仕業か?」
ライオネルの肩が微かに震えた。
「サイラス……あやつ……」
その瞬間、牢の中で封じられていた魔力がわずかに脈打ち、空気がひりつく。
ヴァリオンが眉をひそめる。
「……今の、反応、見たか?」
セラフィムが静かに頷き、低く言った。
「ああ。記憶は操作されていても、深層に残るものまでは消せないからな」
「サイラス……しっぽを掴んでやる……」
カイルの拳がわずかに震えた。
「サイラスとは……?」
ヴァリオンが問うと、カイルは小さく息を吐いた。
「ああ……俺が個人的に恨みがあるやつだよ……」
セラフィムが目を細める。
「知っている……あれは“医者”を名乗る闇医者だ。命を救うふりをして、魔を植えつける外道だ」
「闇医者……」
ルミナが息を呑む。
少しの沈黙のあと、カイルは仲間たちを見渡して言った。
「俺たちはサイラスを追う。一旦ここでお別れだな……ヴァリオン、ルミナ」
差し出されたカイルの手を、ヴァリオンは強く握り返した。
「ああ……カイル、セラフィム...色々ありがとう……とても楽しかった……」
「俺も楽しかったぜ……」
「ルミナ……君は偉大なヒーラーになれると確信しているぞ……頑張るんだ……」
「はい!!!セラフィムさんから教わった事……忘れません!!また会いましょうね……カイルさん。セラフィムさん……」
カイル「ははっ、泣くなよ?2人とも!これでお別れじゃねえ...この旅は短かったけど、本当に楽しかったんだ……6人で集まるって約束したろ?」
セラフィム「……そうだな……俺も誰かを癒す旅を続けて来たが久々に気持ちが安らいだ時間だった……」
「カイル……セラフィム...」
ルミナはじわっと涙が瞳に溜まる、
カイル「おっと……泣くなよ!?しんみりしたのは苦手なんだ……笑ってまた再会を楽しみにしようぜ……」
ルミナ「はい……とても親切にしてくれてありがとうございました……」
カイルはふうっと息を吐き困ったように歯をだして笑った。
ヴァリオン「……また会えるよな……?
カイル「当たり前だろ?その時は酒の一杯でも奢れよ!」
ヴァリオンとルミナは笑顔を作りながらも、胸の奥が熱くなるのを感じた。
ほんの短い間だったのに、笑って、語って、戦って。
疑い合うこともあったのに――今はもう、迷いなんてなかった。
「またな……!!カイル...!セラフィム!!」
ヴァリオンの声に、カイルが片手を軽く上げて、セラフィムは振り返りクシャっとした笑顔を向け、二人の背中はゆっくりと消えていった。
寂しさよりも、不思議なあたたかさだけが残った。
カイルとセラフィムと別れたヴァリオンたちは、しばらく静かに城下町を歩いていた。
「さみしいな…」ヴァリオンが小さく呟く。
「寂しいですね……ヴァリオンさんはカイルさんと昔から会ったことがあるかのような...不思議な感じがしました」
ルミナは袖で自身の涙をそっと拭き取った。
「うん……そうなんだ……実はカイルはアスティアに似てるから余計に寂しいんだ」
「アスティア……さん?」
「ああ……俺の親友だ……幼なじみでな」
ヴァリオンの声は穏やかだったが、その瞳の奥には遠い過去を見つめるような光があった。
「そうなんですか...それなら納得ですね」
その時だった。
人々の往来の中に、ふと視界の端で、見覚えのある横顔が揺れた気がした。
ヴァリオンの足が、無意識に止まる。
(……今のは……)
胸の奥がどくん、と跳ねる。
だが次の瞬間には、その影は人混みに紛れて見えなくなっていた。
ルミナが不思議そうに覗き込む。
「ヴァリオンさん……?」
「……いや、なんでもない」
彼は小さく首を振ったが、胸の鼓動はしばらく収まらなかった。
――まさか、哀麗なのか...?




