本物のアウレア王国
通り過ぎるだけで空気が引き締まり、周囲の冒険者たちの視線が一斉にその人物に注がれた。
「……あの人、噂のルシアン・フォードか……」小声で誰かが呟く。
「危険な依頼や高難度討伐を単独でもこなす人だって聞いたな……」別の冒険者も顔を伏せてささやく。
「ルシアン・フォード……彼は黒魔道騎士団南大陸部本部の精鋭だな。無口で冷静に見えるが、戦場では誰も及ばぬ剣と魔法の使い手らしい。普段は部下や信頼する者以外には関わらず、必要な時だけ存在感を示すタイプらしいな。崇高で頼もしい実力はトップクラスの魔導騎士だな」とセラフィムもそう付け加える。
ルシアンを見送ったあと、アウレア王国に向かう方角に足を踏み入れると、進む先の道がふと変わった。
足元を見ると、淡く青白く光る透明な路面が現れる。
まるで氷のようだが、踏むと柔らかく沈み、ふわりと魔力のぬくもりが伝わる。
道の両脇には光の粒が漂い、小さな光の風が顔を撫でるたび、森のざわめきが遠のいていく。
「…これは…」ヴァリオンが息をのむ。
ルミナも見上げ、手をかざして光を受け止める。「魔力でできている…歩くだけで心が落ち着きますね」
カイルは珍しく無口で、目を丸くして光る道を見つめていた。
まるで、この道だけが王国への特別な導きのように、空気まで澄んでいる。
3人は魔力でできた透明な道を歩き始めた。
踏みしめるたびに、足元からふわりと柔らかな振動が伝わり、体の力がすっと抜けるような感覚。
「…なんだか、体が軽くなる気がするな…」ヴァリオンがつぶやく。
ルミナも手をかざしてみる。「魔力が…自然に回復していくみたいです。歩いているだけで、不思議に元気になりますね」
カイルは無言で前を見つめるが、いつもの疲れた肩の張りが和らいでいるのを感じていた。
透明な路面の光がゆらりと揺れ、3人の影を柔らかく包み込む。
歩くたび、体と心がふんわりと満たされていくような、魔力の導きがそこにはあった。
道の先に、低く光るアーチが現れる。
「…あれが検問だ……」カイルが肩をすくめる。
透明な路面の魔力が、自然に歩く者の魔力を測定しているかのように、青白く反応する。
アーチの中央に立つ兵士が、近づく者を静かに見つめる。
門の前で守衛が魔法陣を描くと、四人の前に光る円盤が浮かび上がった。
円盤に数字が順番に表示されていく。
セラフィム
「1000…!?」
ヴァリオンたちは思わず目を見開く。
「さすが…桁が違うな」カイルが口を開くも、セラフィムは涼しい顔で脇に杖を抱えているだけ。
ルミナ
「…900です」
「ルミナも凄いな!」ヴァリオンが感心して顔を輝かせる。
ルミナは少し照れたように微笑む。
カイル
「500か…俺、意外とあるな」
数値は安定せず、時々上下して守衛も眉をひそめる。
「落ち着けよ、カイル!」ヴァリオンが肩を叩く。
ヴァリオン
「100…か…」
低い数値に少し肩を落とすが、カイルがからかう。
「おい、低すぎじゃね?大丈夫か?」
「まあ…俺は騎士志望だし」とヴァリオンは呑気に笑った。
「まあ魔力補強の武器やアイテムなどは沢山ある。魔力ゼロでない限り問題はない」
とセラフィム。
さらに簡単な身元チェックも行われ、過去の軽微な犯罪や迷惑行為がないかもスキャンされる。
「…全員問題なし。通行許可」兵士が静かに告げる。
「カイルが通れて安心した」
という声に同意するヴァリオンとルミナ。
「ひでー!!犯罪歴なんかないっつーのー」
あははと笑いが漏れる。
「冗談だ……カイル」
「んだよー」と肩どうしをぶつけ合う二人。
「ルミナ……随分魔力が高いんだな……俺はこの杖で補強してるんだが……」とセラフィム。
「あ……はは……魔力だけは高くって……今のお師匠様に暴走して危なっかしいからって弟子にしていただいてるんです……」ルミナは笑いながらポニーテールをかく。
「ふむ……ルミナの爆発魔法は、力の衝動そのもの。感情を抑え込めば歪み、抑えきれなければ弾ける。あなたの中の魔力が暴走するのは、力を“閉じ込めよう”とするからなんだ」
「………………」ルミナは手のひらを眺める……。
「でも――治癒魔法は違う。押さえるのではなく、受け入れて、寄り添う。
ひと息ごとに魔力が世界と混じり合い、波のように満ちては還っていくイメージに..
ルミナ、あなたはきっと“溢れるほどの想い”を持っているのでしょう。
だからこそ、力が暴れたのです。
次は、流してごらんなさい。きっと上手くいく……その力を、誰かの痛みに――寄り添うように……」
「寄り添って……流す……」
セラフィム「ルミナ……君の手のひらには、偉大な力が宿っている。その力で、どうか多くの人の痛みを癒してあげてほしい」
ルミナ「……そんなこと、私にできるでしょうか」
セラフィム「ええ、きっとできます。
君の魔力は荒々しいけれど……その奥には“優しさ”がある。優しさのあるものが使う魔力は、いつか必ず――誰かを救う力になる……」
ルミナは太陽に小さな手を翳し、光を受けた。
「私の手のひらに、誰かの痛みを受けとめられる力が宿っているなら──
その痛みごと、光に変えたいです」
そう告げると、セラフィムは静かに目を細め、やわらかく微笑んだ。
アウレア王国の城下町に足を踏み入れた瞬間、ヴァリオンたちはその光景に息を呑んだ。




