アウレア王国への道 ー闇魔道騎士ルシアン
エルヴィアとリィナがいなくなって、がらくたバスは急に広くなった気がした。
いつも賑やかだった座席のあたりは、今はただ冷たい風が通り抜けるだけだ。
「……なんだか静かになっちゃったな」
ヴァリオンがぽつりとつぶやく。
その声さえ、少しだけ寂しそうに響いた。
ルミナ「はい。でも、不思議ですね。胸の奥が少し温かいんです」
セラフィム「人は、出会いと別れを繰り返して、少しずつ強くなるものだ」
カイル「……おれ、あいつらに“またな”くらい言っときゃよかったな」
ヴァリオン「...言わなくても、きっと伝わってるさ」
エンジンが、くぐもった音を立てて回り始める。
ガラクタバスはのんびりと動き出し、白い息のように排気を残して進んでいく。
揺れる車体の中、それぞれの胸に小さな灯がともる。
“また会おう”
言葉にならない約束が、静かな風の中へと流れていった。
浮遊バスが丘を越えると、
朝の光を受けて輝く巨大な白いアーチが見えてくる。
表面には古代文字のような文様が刻まれていて、
かすかに魔力が脈打つように光っている。
ルミナ「……あれが、中央区域への門……」
セラフィム「この地より先は、神々の御印が見守る世界。かつての聖戦も、この地で起きたと伝えられています」
ヴァリオン「……いよいよだな」
カイル「お、おい……まさか、また魔力で反応するタイプの門じゃないだろうな……?」
ヴァリオン「“また”って……なにか嫌な思い出でもあるのか?」
カイル「うっ……そ、それは……ちょっと前に魔力の干渉受けてうんともすんとも動かなくなっちまって...」
ガラクタバスのエンジンが“ぼふっ”と煙を上げ...ピタリと停止した...
ルミナ「……たぶん、通れませんね」
カイル「えぇぇぇっ!?」
「...予感的中ってやつか」とヴァリオンは真剣な顔でそう言った。
カイル「うるせえわああーっ!!! 痛いとこ冷静に食いついて来んな!!!」
ヴァリオン「……事実を言っただけだ」
カイル「そういうとこだよぉぉ!!」
セラフィム「……魔力干渉を受けているな。この先は、どうやら徒歩で進むしかないようだ」
カイル「徒歩ぉ!? だるうううう!!」
ヴァリオン「カイル……いいじゃないか。たまには地を踏みしめるのも悪くない」
カイル「お前は聖人かよ……!」
セラフィム「この世界では“地を歩む者”こそ、真に神に近づけるのですよ」
カイル「そんな説法いらねぇぇぇ!!」
中央地区手前の整備された街道。
石畳が敷かれ、道沿いには小さな木柵や街灯がぽつぽつと立っている。
人々の往来がちらほらとあり、冒険者や旅人が荷を背負って歩いていた。
一台の小さな荷馬車が軋む音を立てて通り過ぎる。大きな乗り物は入れないようだ。
ルミナ「……こんなに人がいるとは思いませんでした」
道の両脇では、商人の屋台が並び、旅人たちが笑顔で挨拶を交わしている。
冒険者たちは地図を広げ、情報を交換していた。
静かな活気が街道全体に満ちている。
「魔法薬はいかが~? 効果は保証しないけど!」
「本物のドラゴンのヒゲ、1本100ゴールド!」
露天商の声があちこちから響く。
胡散臭そうな品が並ぶ...。
カイル「ドラゴンのヒゲ……ちょっと買うかな……」
セラフィム「やめておけ」
ルミナ「それ、絶対に偽物ですよぉ」
ヴァリオン「いいな!!俺も買おうかな!!」
ルミナ「ええーっ!? 本気ですか、ヴァリオンさん!?」
セラフィム「……この一行、騙されやすさの統計が歪んでいるな」
カイル「誰が平均下げてんだよ!?俺じゃねえからな!!」
ルミナ「……4人だから五分五分ですね」
街道を進むと、ぽつんと立つ古びた石の道標があった。
淡い光が走り、空中に地図と文字がふわりと浮かび上がる。
まるで魔力で投影されているかのようだ。
• 右:アウレア王国 →
• 左:竜の谷、天空の滝、魔導騎士団
ヴァリオン「おお……これが魔法式の道標か。すごいな」
ルミナ「文字も地図も空中に……見やすいですね」
カイル「……これなら迷子にはならなそうだ」
セラフィム「便利だが、魔力の流れを見れば――この先が安全かどうかも分かるのだ」
「魔導騎士団と言うのは……?」とヴァリオン。
「まあ簡単に言うとギルドの名前だよ」と本当に簡単に説明するカイル。
「簡単に言い過ぎだ!魔導騎士団は選ばれし者しか入れんのだ。町にあるギルドとは比べ物にならないレベルの依頼とそれに釣り合った報酬額が約束されている」
「へえ……すごいな……どんな人たちがいるんだろう……」
「魔導騎士団に依頼する奴は一般市民の冒険者なんかじゃ見学すらできねーよ」
「そうなのか……一度見てみたかったな」
ヴァリオンは後ろ髪を引かれ、左への進路は諦め右に進む。
その時、魔導騎士団の方角から一人の人物がゆったりと歩いてきた。
鎧は黒と銀の魔法紋章で縁取りされ、剣の柄には淡く光る魔力が宿る。手には兜を脇に抱えている。
歩くたびに鎧の隙間から微かに魔法の光が漏れ、周囲の空気まで変わるかのようだ。
「……す、すごい迫力だ……」目を丸くするヴァリオン。
ルミナ「……あの方、まさか、魔導騎士団の……ルシアン……フォードさん」
カイル「……おお、本物だ……こりゃ格好いいな」
セラフィム「威厳と魔力が共存する……一目で只者ではないと分かるな……」
ルシアンが近づくにつれ、街道に吹いていた風がぴたりと止んだ。
鎧の金具が微かに鳴る音だけが響く。
周囲の人々は道の端に避け、息をひそめるように見守る。
ルシアンは一行の脇を通り過ぎる際、わずかに視線を動かす。
その一瞬の目配せに、ヴァリオンの心臓が高鳴る。
視線は前だけ。周囲の騒がしさに耳を貸すこともなく、ただ静かに歩くその姿は、まるで街道の中心に自然と威厳を落としているかのようだった。
ヴァリオン達は静かにその背中を目で追った。




