見えぬ素性のままに
草原を抜けると、背丈ほどの草薮が道を覆いはじめた。
ザク、ザク、と乾いた音だけが響く。
誰も口を開かず、風と足音だけが旅の同行者のようだった。
ふいに先頭を歩くカイルが立ち止まり、振り返る。
「……なあ、こうして一緒に歩くのに、名前も知らねぇのは妙だろ」
軽く肩をすくめて、面倒くさそうに笑う。
「自己紹介でもしとくか。ま、本名も明かすも偽名を使うのも、自由だし嫌なら無理強いはしない、その辺は任せるけどな」
その言葉に、一瞬、誰も反応しない。
沈黙。風の音。
やがて、魔法使いの女が眉を寄せて口を開いた。
「……じゃあ、あんたから言いなさいよ」
その声には、わずかな警戒と挑発が混じっていた。
男は片眉を上げ、口の端をゆるく吊り上げた。
「おう、いいぜ。俺はカイル。盗賊だ」
肩をすくめて、軽い調子で続ける。
「苗字はヒミツだ」
その軽さに、ようやく数人が息をついたように笑った。
ヒーラーの男は少し眉をひそめて観察する。
「なるほど、この男、警戒心が強くて用意周到だ」と心の中で呟く。
その空気を破るように、口を開いた。
「次は俺が名乗ろう...セラフィム。ヒーラーだ...旅をしながら怪我人の手当をしたりしている...怪しい者じゃない、年齢は56歳だ」
と自らを怪しくないと宣言したセラフィム。
周囲の冒険者たちは一瞬目を見開き、そして小さく頷く。
──年齢を最初に言うとは、なかなか自己アピールの上手い人だ、と誰もが思った。
「あ……私もヒーラーで名前はルミナです。と、言ってもまだ全然素人です....少しの治癒魔法...爆発魔法が使えます。こちらのヴァリオンさんと旅をしています」ルミナは丁寧にお辞儀をした。
「ほお……旅の仲間だったか」
「は、はい……ヴァリオンです!!!騎士を目指している最中です!!まだ初心者です...よろしくお願いします」と礼をするヴァリオン。
「初心者……?」
声が被った。
「へ……?」
「ヴァリオンさん!才能ありますよね!まだ剣を握ってから1ヶ月も経っていない初心者なんですよ!!」とルミナが熱を込めてそういう。
「そうなのか……すごいな」とカイル。
「そうなんですか……?」と瞬きをするヴァリオン。
「そうよお!!海底トンネルでの斬撃なんて初心者は普通倒れちゃうわよ!!!あ、私はリィナ!!!元素魔法の使い手よ!こっちはエルヴィア」とリィナはハキハキ話す!
「エルヴィアです……盾や障壁を得意とする防御魔法が得意です……よろしくお願いします」とこっちはお淑やかな印象を受ける。
草原を抜け、森へと進む一行。木々の間に差し込む光はまばらで、足元の草や落ち葉を踏む音だけが響く。時折、古びた建物のスクラップや朽ちかけた石造の跡が、森の奥にひっそりと潜んでいた。目立たぬ隠れ家や廃屋のように見えるそれらは、敵や野盗から身を隠すには最適な場所だった。
「ここら辺は、昔誰かが住んでいたんでしょうか…?」ルミナが首をかしげる。
「そうかもしれないな……いまでは森に埋もれ、忘れ去られていた場所なのだろうか……」とヴァリオンが答える。
カイルは慣れた様子で先頭を歩きながら、ゆるゆるした歩き方に口笛を吹きつつ、森の中の小道を軽快に進む。
「こういう隠れ家的な場所は、外からはほとんど見えん……いい場所を見つけたもんだな……」と感心するセラフィム。
エルヴィアが木々や苔を触り危険性が無いか解析する。リィナは獣や魔物避けも兼ねて必要に応じて火で照らしながら進む。
セラフィ厶は後ろから皆の体調を気にかけながら歩く。「皆、無理はするなよ。森の奥は想像以上に体力を奪う」
森の空気はひんやりとしていて、葉の匂いや湿った土の匂いが混ざり合い、一同は緊張感と興奮の入り混じった気持ちで進むのだった。
森を抜け、ようやく一行は小さな村にたどり着いた。広場には大小の野営テントが点在し、薪で炊かれた小さなかまどの煙がゆらゆらと立ち上っている。簡易な木製の棚や机がいくつか置かれ、村人たちがせわしなく物資を整理していた。
「うわ……想像よりずっと小さいわ……」とリィナ。
「でも、隠れ家的で悪くないわよ」とエルヴィア。
カイルは村人に目配せをすると、村の隅にある簡易な診療所や倉庫を指さして案内してくれる。エルヴィアとリィナは周囲の警戒を怠らずに村の安全を確認する。セラフィムは小さなテントの中で、さっそく休息用のスペースを整えていた。
「ここなら少人数でもなんとかやっていけそうですね」ルミナがつぶやくと、ヴァリオンはうなずき、森を抜けてきた疲れを少しだけ忘れたような表情を見せる。
夜が深まり、野営テントの周りに小さな焚き火を囲んで座る一行。火の粉がふわりと舞い上がり、木々の影が揺れる。冷えた空気の中、焚き火の温もりが体をほぐす。
「ふぅ……今日は長かったな」ヴァリオンが火を見つめ、深く息をつく。
「でも、無事にここまで来られてよかったです」ルミナが隣に座り、火の光に照らされた顔を少し赤らめる。
カイルは焚き火の向こうで軽く腕を組み、「たまにはこういう所も悪くないだろ?」とにっと笑う。
「ええ……のんびりとして身を潜められる拠点としては最高ですね」とエルヴィア。
「私はもっと刺激が欲しーい」とリィナ。
セラフィムは温かいお茶を皆に配りながら、「今日はみんな、よく頑張った」と微笑む。
「わあ……すいません……私回しますね」
とルミナも立ちお茶を渡していく。
焚き火のぱちぱちと弾ける音が、笑い声と混ざって夜気に溶けていく。
今はまだ、互いの素性も過去も知らぬまま。
それでも――仲間のように笑い合って、賑やかな夜が更けていった。
今回は、年齢も職業もバラバラな冒険者たちが、偶然にも出会い、打ち解けていく話でした。
最初は互いに警戒しながらも、焚き火を囲んで笑いあう姿を見ると、やけに意気投合するものだなあと感じます。
読んでくださった皆さんも、少しでもこの賑やかな夜の空気を感じてもらえていたら嬉しいです。




