表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明の誓い  作者:
30/46

信じる者 疑う者

偽哀麗の唇が震えた……

「……あなた……」


舞台袖から一人の男が現れる。

見た目はぼろ布をまとった浮浪者のようだが、その歩き方には無駄がなく、確実に戦闘慣れした足取りが感じられる。


「………………っ!!!」

男が無言で剣を抜くと、フードが風でかすかに揺れ、チラリと覗いた気品溢れる端正な顔立ちが観客の目に映る。

一瞬、息を呑む観客。混乱のステージに一種の静寂が訪れる。


男は華麗に剣を振るう。糸のように絡むマリオネットの腕が、一瞬で弾き飛ばされ、舞台上に鋭い衝撃が走る。


マナはその姿を見て、思わず舌打ち──だが、同時に心の奥で計算を巡らせる。


「アーヴェリエ王子……!!間違いない……見つけたあ……」


男は一歩踏み出すと、マリオネットの前に軽やかに跳び上がった。

宙で剣を振るうその動きは流れるようで、無駄がなく寸分の狂いも見当たらない。

「――これで終わりだ」

一刀両断の瞬間、観客席から息を呑む声が上がる。舞台上には圧倒的な静寂が訪れた。


着地し……チン…と剣をさやに納める。

その瞬間、どこからか「かっこいい…」という声が漏れた。


ヴァリオンは思わず目を見開く。まさか、皆が息を呑むほどの一瞬だったなんて…!

冒険者たちも、ざわめきながらも息を潜めてその姿を見つめる。


次の瞬間人間離れした跳躍力でその場を離れ見えなくなった。


「だ……誰だ……今の……」

「どっかで見たことあるような……」

と剣士は思い出そうとするも思い出せない...……。


次の瞬間、目の前に広がっていた壮麗な王都は跡形もなく消え、ただの更地が広がっていた。娯楽施設も店もステージも、大勢の群衆の賑わいも――すべて、風のように霧散していた。


「え……ええっ……!?今の、なに……!?」

誰もが声を漏らし、立ち尽くす。


「な……なんで俺たちだけ……?」

ヴァリオンが周囲を見回すと、ルミナや他の冒険者たちも唖然としていた。風だけが更地を吹き抜け、砂埃が巻き上がる。


「……幻だったのか、アウレア王国……?」

誰かが震える声で呟く。


地面に目をやると、何か奇妙な光が瞬いている。

まるで王国の形が薄く残っているかのような、かすかな残像――冒険者たちだけにかすかに映る。


「つまり……俺たちは幻のアウレアにいたってことか……?」

ヴァリオンは思わず息を呑み、呟く。


「マナさんも……幻だったんでしょうか……」

ルミナは、消えたアウレア王国を見つめ呟いた。


「マナ……? 俺もマナに誘われてここに来たんだ」

戦士と剣士が口を揃える。


「私もよ」「俺もだ」

「え……!?」


「皆さん……もしかして、トライデル港でマナさんに……?」

ルミナが恐る恐る問う。


「おう……ピラニクス討伐、一緒にやらされたんだ」

「私もよ!! 酒場で、2人の男を連れてて」

「え……俺は女だった」


「え…………」

驚きでルミナは呆然と立ち尽くす。


「もしかして……」

ヴァリオンがルミナに問いかけると、彼女は少し顔を曇らせ答える。

「マナさんが、私たちを何か利用した可能性があります。ヴァリオンさんが魔力切れを起こした時に、マナさんが魔力で魔法船を操縦したあの一瞬……違和感を感じました」


「あれ……確かにな……」

色々とおかしな点が合致してくる。


「私たち……洗脳にかかってたってこと……?」

魔法使いの女性が爪を噛み、声を震わせる。


「クソ……俺たち冒険歴10年だぞ!!

あんな小娘に、いいように操られていたなんて……」

戦士が地面を力強く叩きつけた。


「ところで……ここってどこなんですかね……」

ヴァリオンが辺りを見渡すと、小高い丘の上に、ただひたすら更地が広がっていた。


12人の冒険者たちは、誰も口を開けずに立ち尽くしている。

さっきまでの熱気も幻と消え、残ったのは乾いた風と、微かな砂の音だけだった。


ふと、一人の冒険者が荒野を見回し、口を開いた。

「ここは……多分、サリオン地域だな」


「サリオン……?」

ヴァリオンは眉をひそめ、荒涼とした景色を見渡す。


その時、地域に詳しそうな盗賊風の男が口角を上げた。

「まあ、落ち込むな。俺が拠点にしてる村がある。そこに行けば食事も寝床も確保できる。とりあえず、ついて来い」


その言葉に、ほんの一瞬、皆の表情に安堵が浮かぶ。

だがその安堵は、すぐに疑念の影に塗りつぶされた。


道は荒れた森を抜け、ゴツゴツとした岩場を縫うように続く。砂埃が舞い、疲労が足にまとわりつく。


「ねえ……ここって、ノクスティアからどのくらい離れてるの……?」

息を切らせた魔法使いの少女が尋ねた。


「そうだな……ノクスティアからだいたい60キロほど離れた、寂れた土地さ。身を隠すには持ってこいだよ」

案内役の男が、わざとらしく肩をすくめてみせた。


「……なにそれ。あんた、なにかに追われてるの?」

「さあね」

男の軽い口調が、逆に不気味に響く。


――この人について行って大丈夫なのだろうか。

全員が同じことを考えていた。


思えば、自己紹介すらしていない12人。

誰を信用して、誰を疑えばいいのか。

マナに操られていた記憶が、それぞれの胸に重く残っていた。


「俺たちは自分たちで進む。サリオン地域ってわかったなら、もう案内はいらねぇ」

戦士と剣士がそう言い放つと、場の空気が一層冷たくなる。


「……あっそう。好きにしな」

盗賊風の男は鼻で笑い、素知らぬ顔をした。


無言のまま、数人が反対方向へと歩き出す。

残った面々は、案内役を睨むように見ながらも、足を止めなかった。


気づけば、人数は半分になっていた。


ヴァリオンは目を細める。

――残ったのは魔法使い2人、盗賊風の男、それに年配のヒーラー。


残った6人は、互いに言葉少なに歩き出した。

足音だけが乾いた土地に響く。

誰もが疲れていて、誰もがまだ疑っていた。

だが、立ち止まるわけにはいかない。


(……今は、この案内人を信じるしかない。

疑って立ち止まるより、進んで確かめる方がマシだ……)


ヴァリオンは小さく息を吐き、剣の柄を握り直した。

風が吹き抜け、彼らの影を長く引きずりながら、丘の向こうへと伸ばしていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ