不思議な贈り物 ーヴァリオンとアスティア
ーーヴァリオンとアスティアは商店街の煉瓦敷きの道を歩いていた。街路樹が並ぶ間から柔らかい日差しがこぼれていた。だがいつもは活気溢れる町の筈が空気が重い。
店先は、ハラス・ヴァルド独特なセンスの派手な塗料で塗り替えられ、赤紫と黄緑が奇妙に混ざった色合いで目を刺す。普段なら笑顔で立っている店主達も今は肩を落とし、どこか虚ろな目で通行人を見送るだけだった。
「……おかしくないか?これ」ヴァリオンが呟く。
「うん。こりゃ魔法だな……あの4人の誰かのせいだろうな」魔法力を感知できるアスティアが答え、二人は町人たちの異変を慎重に観察しながら歩き続けた。
いつもはすれ違う時に挨拶してくる住民は疲れた表情、気怠そうに歩いている。
時には頭を抱えたり、肩を落としたり、動きが鈍い。
空を見上げるとうっすら霧がかかったようにも見える。
「あの霧のせいか……?俺も体がやけに重い気がするんだ……」ヴァリオンは手をグーパーしたり、肩を回したり体の異変を感じ取る。
「朝ランニングしてたらさー町全体があの霧に囲まれてたぜ。こりゃ取り返しつかなくなる前にどうにかしてえよな――」
アスティアは腕を首の後ろに抱えて眉を顰め、空を見上げていた。
「どうにかって……どうする気だ?」ヴァリオンはアスティアに食い気味に問いかけた。
「そりゃ――あの4人を追い出すしか無くねーか?」
「お……追い出すのか……」
「おうよ、なんならあの美人なお姉ちゃんには残ってもらうかー?」ニヤニヤするアスティアに「なななな……!?何を……」と真っ赤になりどもるヴァリオン。
アスティアはやれやれとため息をついて親指で通行人を指した。
「ん……?」アスティアが指した人は花束を持って身なりを執拗に気にしつつ、いそいそと歩いていた。
「花束なんか持ってどこへ行くんだ?墓参りか?」ヴァリオンの発言にガクッと拍子抜けするアスティア。
「あいつの後ついて行ってみ?」
アスティアはヴァリオンを親指でくいくいっと方角を指す。
ヴァリオンは意味がわからないまま、アスティアについて行く。
商店街の煉瓦道を更に進むヴァリオンとアスティア。
すると、前方に列を作る町人たちと共に、哀麗の姿が――!
「ほれ……目当てはあの美人姉ちゃんだよ、ああいう女はおっかねえぞ?ヴァリオ……」
だが時すでに遅し。
哀麗は、光を受けて髪は絹のように輝き、瞳は宝石のようにキラキラしている。
ふわりと揺れるドレスの裾、全てが眩しく、息を呑む美しさだ。
「ま、眩しい…」思わずヴァリオンは手で目を覆い、膝をついた。心臓が跳ねるのを感じる。
列に並ぶ町人たちの熱気や歓声も、今はすべて遠く、ただ彼女を直視できずにいた。
「おーい。大丈夫かー」アスティアは台詞を棒読みで呆れ顔で、渇いた笑い声をあげた。
未だ膝をついて地面を直視しているヴァリオン。
「あの列の奴らみーんな、あの姉ちゃんに誑かされてるんだぜ……目を覚ませって」
「……はっ!あの子、まさか……魔法を使ってるのか?だから……あんなに輝いて眩しくてだから目に影響して見れないのか!?心臓はバクバクするし、体は熱があるようだ!」ヴァリオンは立ち上がり拳を握り締め解き明かしたぞ!と、言わんばかりだ。
「……………………」アスティアは珍しく言葉に詰まった。
哀麗がヴァリオンに気付き軽く手をひらひら振ってきてヴァリオンの心臓はズキュン!と射抜かれた。
「ぐはあ……!?な、なんて魔法なんだ!?アスティア……助けてくれ……」
ハアハアと心臓を抑え苦しむヴァリオン。
「…………お前ウブだったんだな――そこまで純情なの長い付き合いでも知らなかったわ――」アスティアは意外な一面に呆れつつ冷めた顔をしている。
「お前……そりゃ魔法じゃ無くて恋だぜ」親切にアスティアはヴァリオンに教えてあげた。
「ババババババ……バカな……事を言うな!?こ、ここ恋なんて……!?」
ヴァリオンの顔はもう真っ赤を通り越して血が噴き出さないか心配なくらい赤い。
哀麗が優雅にこちらに駆け寄って来た。
「友達……?」哀麗はアスティアを上目遣いで見上げて来た。
うお……こりゃあ、上級者だ。
アスティアも一瞬ぐらついた。
「あ……ああ!親友なんだ!アスティアと言って、魔道具店の後継なんだ!」
ヴァリオンはアスティアを紹介した。
「ふうん……魔道具?面白そうね」
この女……うちの魔道具で何しようってんだ!?
「…………」
アスティアの疑うような目線に気付き、くすっと笑う哀麗。
「何が目的だ!」しばしの沈黙の末に口を開いたのはアスティアだった。
ヴァリオンはハッと我に返り2人を見た。
「私に聞かれてもね……?私は知らないわ」
さあ?っと手を翻す哀麗。
嘘をついている様には見えない。頭が余程切れるのか、演技だろうか?と、アスティアは勘繰るが、確かにこの姉ちゃんに聞いても仕方がない!
現に……この哀麗に会ってからのヴァリオンはさっきまでのいやーな魔法を弾いている。他の連中もそうだ。哀麗を見た途端シャキッとしてるっつーかなんっつーか。
「……てめえ!あいつらの仲間なのか!?」アスティアは思った事を単刀直入に聞いて口調を荒くした!
「仲間……?ふふっ」哀麗はただ微笑んだ。
「?」アスティアは眉を顰めた。
「可愛いこというのね?アスティアくん」
「かわ……いい!?だとー!?」
かわいい……アスティアはその言葉が一番苦手だった。かっこいい、男らしいと言われたいんだ……俺は。
「じゃあね、可愛いお二人さん」
再びショックを受けるアスティア!
「待て!訂正しろー!!」
吠えるアスティアに哀麗は足取り軽く、遠ざかって行ってしまった。
「くそ…っ!負けた…」
地面に拳を叩き付けるアスティア。
ヴァリオンが呆然としていると、空に誰か箒に跨っている人影が見えた。それは、最近占いの店を閉めたグリンドル婆さんだ。最近宅急便を募集していると母から聞いた。なんでも飛ぶだけだから年齢制限がないらしく高齢でも働けるとか言ってたっけ。でも老眼で近くが見えず更に目が霞むとか言ってなかったか?
ヴァリオンを見つけるとグリンドル婆さんは空から「ほーれ!」と拍子抜けした声をあげた。
グリンドル婆さんの目は霞み、老眼鏡の奥で目がくるくる。重たそうな袋は落下して行く。
「ヴァリオンにお届け物じゃーい」
「うええ!?」
どうやら落としどころを間違えたらしい重そうな袋は100m先ら辺に落ちて行ってる!
「わあああー!?」
ダッシュして間一髪袋を抱えて尻餅をつくヴァリオンはホッと息を吐く。
「おいおい!ばあさん危ねえぞ!」
アスティアが空に向かって叫ぶとグリンドル婆さんは「老眼だから勘弁しておくれよ~」と笑いながら、箒で飛び去って行ってしまった。
「…………お、おもー!アスティアー!手伝ってくれえ!」アスティアがグリンドル婆さんが危なっかしい飛び方をしていたので目が離せずにいたが、親友も中々大変な事になっていた。
アスティアが片側から持つとずっしりとした手応えがあった。筋肉には自信があったが、この袋はかなり重い。
2人で小麦粉の入った袋をヴァリオンの店まで運ぶ。
はあはあと息を切らす2人。
「悪い、アスティア。裏に在庫置き場があるからそっちに置くのにもう一踏ん張り頼むよ……」もう腕がパンパンだ……。ヴァリオンは腕を少し揉みほぐした。
「なあ……運んでる時気づいたんだけどさ……」
「うん?」
「見てろ……?」
アスティアが小麦粉に手をかざすと、微かに温かい光が指先に集まった。
「え、魔力か」とヴァリオンが顔を覗き込む。
「ああ。これただの小麦粉じゃないな……」とアスティアは真剣な顔でつぶやく。
小麦粉の表面が、ほんのりキラキラと光を帯び、風に舞うたびに微細な光が周囲に散る。
「……これ、料理に使ったら…何が起こるんだろうな…」
「さあなぁー?やってみる?」「やってみちゃうか」2人の顔が好奇心に満ち溢れた。




