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黎明の誓い  作者:
29/46

嫉妬に踊り狂うステージ

会場の照明が一斉に明るくなる。

観客のざわめきが一気に歓声へと変わる中、舞台の奥から華やかなドレス姿の女性が現れた。


「わぁ…!」

「きれい…!」


観客の目が一斉に彼女に注がれる。

その笑顔、しなやかな動き、優雅な仕草――すべてが計算されたかのように完璧で、まるで舞台全体が彼女のために用意されたかのようだった。


会場に、歌声が響き渡った。

高く、伸びやかで、まるで光の糸が空気を縫うように――。

その声に観客たちは息を呑み、心を奪われる。


「なんて綺麗な声……」


冒険者達やルミナや大勢の観客達は哀麗のショーに釘付けだ。

「素敵な歌声……哀麗さん……とっても美しいですね……ヴァリオンさん?」


隣にいたヴァリオンは眉を潜め、「違う……」と呟いた。



ヴァリオンは違和感を感じていた。

哀麗はもっともっと美しくて可憐で……髪が絹の様に綺麗で存在自体が宝石のようなキラキラしてるんだ……。



彼女の声は確かに哀麗のものに似ている。


響く音は美しく、技巧も完璧だった。

けれどヴァリオンの胸の奥には、どこか冷たい風が吹いていた。


ヴァリオンは眉を潜めたまま立ち上がる。

会場の照明が眩しく彼を照らす中、拳が震えその違和感は確信に変わっていた。


「お前は誰だ……!」

その声は最初、低く、しかしすぐに怒りを帯びて膨れ上がる。

「哀麗なんかじゃないッ! 本物の哀麗は――もっと、宝石みたいに輝いてるんだ!」


「は……?」

哀麗は歌を止め、苛立ちを隠そうともせずヴァリオンを睨んだ。


「ますます違う!!!」

ヴァリオンの声が響く。空気が一瞬、凍りつく。


「確かに……以前見た時は宝石みたいな人だった……」

「俺もそう思う」

観客席のあちこちで、同意の声が上がる。


「な……なに、この人たち……」

偽物の哀麗が怯んだように後ずさる。


しかしそのざわめきは止まらない。

「違う!」「本物を見せろ!」

ライオネス討伐の冒険者たちが次々と立ち上がり、声を張り上げた。


照明がヴァリオンを照らす。

彼はゆっくり立ち上がり、拳を握りしめる。


「本物は――もっと美しく、儚く、誰もが息をのむ宝石みたいなんだ!!」


「そうだあああ――――――!!!」

哀麗親衛隊の叫びが一斉に重なった。


歓声と怒号が入り混じる。

舞台の上、偽物哀麗の笑顔はわずかにひきつり、崩れ始める。


王都の広場に、“真実”を問う熱気が渦巻いた。



舞台袖、幕の裏。マナは小さく舌打ちをした。

「あの坊や……哀麗を知っていたのか……」

彼女の目は舞台上の偽物哀麗を追い、動きに合わせて少し眉をひそめる。


「厄介だなあ……イライラするなあ……ヴァリオン……あの観客達も哀麗なんかに入れ込んじゃってさ……」


眉がきつく寄せられ、握った拳がほんの少し震える。

胸の奥が熱く、嫉妬の炎が静かにメラメラと燃え上がるようだ。


「ち……っ、あんな女ずっとハラス・ヴォルトに縛られてりゃいいんだよ……ちょっと顔が良いからってチヤホヤされちゃってさ……本当に……イライラする」

小さなため息とともに、舌打ちが再び響く。

目の奥で炎が跳ねるように光り、舞台の喧騒さえも焦点をぼやけさせる。


幕の裏でマナの手が微かに動く。瞬間、偽哀麗の人形が小さく震え、髪がふわりと浮かび上がる。


握りしめた拳が微かに震えた。

嫉妬の炎が静かに、しかし確実に燃え上がる。



笑顔だった顔は、みるみる赤く染まり――

怒り、嘲り、憎悪が混ざった“何か”の顔へと変わっていった。


観客席の歓声が悲鳴に変わる。


マナの瞳が煌めく。

「哀麗の美しさなんて……全部、奪ってやる……!」


舞台の上、操り糸の切れたマリオネットが暴れ出す。

髪が宙を裂き、ドレスが狂気の花のように舞う。

それはまるで――嫉妬の化身そのものだった。



髪が宙を裂くように舞い、赤い瞳がぎらりと光る。

偽哀麗――いや、“嫉妬のマリオネット”は高笑いをあげ、グンっと宙へ浮かび上がった。


「……なに、あれ……!」

観客がどよめき、悲鳴が交じる。

マリオネットの動きは人間離れしており、腕が不自然な角度に曲がりながらも優雅に舞う。

その度に舞台の照明が明滅し、空気が焼けるように熱くなる。


「下がれ!」

戦士の声と共にヴァリオンが剣を抜いて、ルミナを庇うように前に立った。

魔法使いやヒーラー達は下がり、観客席の最前列――攻撃派達が次々と前に出る。


嫉妬のマリオネットが腕を広げた。

その指先から、緑がかった光の糸が放たれ、周囲の装飾や布を巻き上げる。

舞台は一瞬で嵐のように変わり、花びらが嵐の中を乱舞した。


「なんて魔力だ……」

誰かが息を呑む。

それは幻ではなく――本当に、怒りが形を持って動いている。


ヴァリオンは前へ踏み込み、声を張り上げた。

「お前は“哀麗”の名を汚すなッ!」


その瞬間、マリオネットの視線がヴァリオンを捉えた。

顔がひきつり、笑みとも怒りともつかぬ表情で――

「誰も……あの女のようには愛されないのよ!!」

と叫ぶ。


赤い糸がうねりながら放たれ、ヴァリオン達を絡め取ろうとする。

魔法使いの1人が杖を構え、光の障壁を展開する。

「防御は任せて」

その声にこくりと頷く前衛達!


糸と光がぶつかり、爆ぜる。

観客の悲鳴、火花、割れる舞台。

その中央で、ヴァリオンの叫びが響いた。


「本物の哀麗は――そんなものじゃないッ!!」


その言葉と同時に、上空から一筋の光が降り注ぐ。

嫉妬のマリオネットの動きが一瞬止まり、

赤い瞳が、どこか遠くを見るように揺らめいた。


その瞬間――


カラン、と。

足音が響いた。


静かすぎるほどの“ひとつの足音”。

それだけで、暴走していたマリオネットの動きがぴたりと止まった。


「……え?」

冒険者達はざわめく…

哀麗の偽物は、何かを見たように硬直した。

恐怖か、驚きか――その瞳の奥に、確かに“何か”が映っていた。


光の中、舞台の端。

暗がりからゆっくりと歩み出た影。

照明がその足元を照らす。


……ボロボロの革靴。

泥に汚れ、ほつれた裾が足首に絡みついている。

だが――その立ち姿だけで、空気が一変した。


その足元に視線を釘づけにされたまま、身体が勝手に後ずさる。



偽物哀麗の唇が震えた。

「……あなた……」


だが、声はそこまでしか出なかった。

彼女はまるで人形の糸を切られたように崩れ落ちた。


嫉妬って恐ろしいですね……舞台の上でも、誰かの気持ちひとつでこんなにも変わってしまうんですから。

寒くなってきましたが、読んでくださる皆さんも温かくして楽しんでくださいね!


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