嫉妬に踊り狂うステージ
会場の照明が一斉に明るくなる。
観客のざわめきが一気に歓声へと変わる中、舞台の奥から華やかなドレス姿の女性が現れた。
「わぁ…!」
「きれい…!」
観客の目が一斉に彼女に注がれる。
その笑顔、しなやかな動き、優雅な仕草――すべてが計算されたかのように完璧で、まるで舞台全体が彼女のために用意されたかのようだった。
会場に、歌声が響き渡った。
高く、伸びやかで、まるで光の糸が空気を縫うように――。
その声に観客たちは息を呑み、心を奪われる。
「なんて綺麗な声……」
冒険者達やルミナや大勢の観客達は哀麗のショーに釘付けだ。
「素敵な歌声……哀麗さん……とっても美しいですね……ヴァリオンさん?」
隣にいたヴァリオンは眉を潜め、「違う……」と呟いた。
ヴァリオンは違和感を感じていた。
哀麗はもっともっと美しくて可憐で……髪が絹の様に綺麗で存在自体が宝石のようなキラキラしてるんだ……。
彼女の声は確かに哀麗のものに似ている。
響く音は美しく、技巧も完璧だった。
けれどヴァリオンの胸の奥には、どこか冷たい風が吹いていた。
ヴァリオンは眉を潜めたまま立ち上がる。
会場の照明が眩しく彼を照らす中、拳が震えその違和感は確信に変わっていた。
「お前は誰だ……!」
その声は最初、低く、しかしすぐに怒りを帯びて膨れ上がる。
「哀麗なんかじゃないッ! 本物の哀麗は――もっと、宝石みたいに輝いてるんだ!」
「は……?」
哀麗は歌を止め、苛立ちを隠そうともせずヴァリオンを睨んだ。
「ますます違う!!!」
ヴァリオンの声が響く。空気が一瞬、凍りつく。
「確かに……以前見た時は宝石みたいな人だった……」
「俺もそう思う」
観客席のあちこちで、同意の声が上がる。
「な……なに、この人たち……」
偽物の哀麗が怯んだように後ずさる。
しかしそのざわめきは止まらない。
「違う!」「本物を見せろ!」
ライオネス討伐の冒険者たちが次々と立ち上がり、声を張り上げた。
照明がヴァリオンを照らす。
彼はゆっくり立ち上がり、拳を握りしめる。
「本物は――もっと美しく、儚く、誰もが息をのむ宝石みたいなんだ!!」
「そうだあああ――――――!!!」
哀麗親衛隊の叫びが一斉に重なった。
歓声と怒号が入り混じる。
舞台の上、偽物哀麗の笑顔はわずかにひきつり、崩れ始める。
王都の広場に、“真実”を問う熱気が渦巻いた。
舞台袖、幕の裏。マナは小さく舌打ちをした。
「あの坊や……哀麗を知っていたのか……」
彼女の目は舞台上の偽物哀麗を追い、動きに合わせて少し眉をひそめる。
「厄介だなあ……イライラするなあ……ヴァリオン……あの観客達も哀麗なんかに入れ込んじゃってさ……」
眉がきつく寄せられ、握った拳がほんの少し震える。
胸の奥が熱く、嫉妬の炎が静かにメラメラと燃え上がるようだ。
「ち……っ、あんな女ずっとハラス・ヴォルトに縛られてりゃいいんだよ……ちょっと顔が良いからってチヤホヤされちゃってさ……本当に……イライラする」
小さなため息とともに、舌打ちが再び響く。
目の奥で炎が跳ねるように光り、舞台の喧騒さえも焦点をぼやけさせる。
幕の裏でマナの手が微かに動く。瞬間、偽哀麗の人形が小さく震え、髪がふわりと浮かび上がる。
握りしめた拳が微かに震えた。
嫉妬の炎が静かに、しかし確実に燃え上がる。
笑顔だった顔は、みるみる赤く染まり――
怒り、嘲り、憎悪が混ざった“何か”の顔へと変わっていった。
観客席の歓声が悲鳴に変わる。
マナの瞳が煌めく。
「哀麗の美しさなんて……全部、奪ってやる……!」
舞台の上、操り糸の切れたマリオネットが暴れ出す。
髪が宙を裂き、ドレスが狂気の花のように舞う。
それはまるで――嫉妬の化身そのものだった。
髪が宙を裂くように舞い、赤い瞳がぎらりと光る。
偽哀麗――いや、“嫉妬のマリオネット”は高笑いをあげ、グンっと宙へ浮かび上がった。
「……なに、あれ……!」
観客がどよめき、悲鳴が交じる。
マリオネットの動きは人間離れしており、腕が不自然な角度に曲がりながらも優雅に舞う。
その度に舞台の照明が明滅し、空気が焼けるように熱くなる。
「下がれ!」
戦士の声と共にヴァリオンが剣を抜いて、ルミナを庇うように前に立った。
魔法使いやヒーラー達は下がり、観客席の最前列――攻撃派達が次々と前に出る。
嫉妬のマリオネットが腕を広げた。
その指先から、緑がかった光の糸が放たれ、周囲の装飾や布を巻き上げる。
舞台は一瞬で嵐のように変わり、花びらが嵐の中を乱舞した。
「なんて魔力だ……」
誰かが息を呑む。
それは幻ではなく――本当に、怒りが形を持って動いている。
ヴァリオンは前へ踏み込み、声を張り上げた。
「お前は“哀麗”の名を汚すなッ!」
その瞬間、マリオネットの視線がヴァリオンを捉えた。
顔がひきつり、笑みとも怒りともつかぬ表情で――
「誰も……あの女のようには愛されないのよ!!」
と叫ぶ。
赤い糸がうねりながら放たれ、ヴァリオン達を絡め取ろうとする。
魔法使いの1人が杖を構え、光の障壁を展開する。
「防御は任せて」
その声にこくりと頷く前衛達!
糸と光がぶつかり、爆ぜる。
観客の悲鳴、火花、割れる舞台。
その中央で、ヴァリオンの叫びが響いた。
「本物の哀麗は――そんなものじゃないッ!!」
その言葉と同時に、上空から一筋の光が降り注ぐ。
嫉妬のマリオネットの動きが一瞬止まり、
赤い瞳が、どこか遠くを見るように揺らめいた。
その瞬間――
カラン、と。
足音が響いた。
静かすぎるほどの“ひとつの足音”。
それだけで、暴走していたマリオネットの動きがぴたりと止まった。
「……え?」
冒険者達はざわめく…
哀麗の偽物は、何かを見たように硬直した。
恐怖か、驚きか――その瞳の奥に、確かに“何か”が映っていた。
光の中、舞台の端。
暗がりからゆっくりと歩み出た影。
照明がその足元を照らす。
……ボロボロの革靴。
泥に汚れ、ほつれた裾が足首に絡みついている。
だが――その立ち姿だけで、空気が一変した。
その足元に視線を釘づけにされたまま、身体が勝手に後ずさる。
偽物哀麗の唇が震えた。
「……あなた……」
だが、声はそこまでしか出なかった。
彼女はまるで人形の糸を切られたように崩れ落ちた。
嫉妬って恐ろしいですね……舞台の上でも、誰かの気持ちひとつでこんなにも変わってしまうんですから。
寒くなってきましたが、読んでくださる皆さんも温かくして楽しんでくださいね!




