笑う竜巻
ノクスティアに午後の光が街を優しく染めるころ、遠くから蹄の音が響いてきた。
「来た……!」ルミナが小さく声を上げる。ヴァリオンも耳を澄ませ、ゆっくりと馬車の姿を見定めた。
砂埃を巻き上げながら、2台の馬車が広場に近づく。
荷物用の大きな馬車には瓦礫や資材が積まれ、魔法使いたちが軽く指先を振ると、揺れや振動がふわりと抑えられている。
もう1台は人員用の馬車で、復興支援に来た冒険者や魔法使いたちが降りてきた。
「わあ……本当に来たんですね」ルミナの瞳が少し輝く。
「これでノクスティアの復興も、本格的に動き出せそうだな」ヴァリオンは馬車を見つめながら頷く。
そのとき、道端から小さな声がした。
「あ……昨日のおばあ様……」
先日助けたおばあさんが杖を頼りにゆっくりと近づいてくる。手には小さなおにぎりが2つ、そして柔らかく光るリングとブレスレット。
「旅のご加護に、これを受け取りなさい」
おばあさんの手渡したのは、水色の石がはまったリングと青い石のブレスレットだった。
「いざという時にもっておきなさい。力になるでしょう」
ヴァリオンとルミナは顔を見合わせ、にっこり笑う。
「ありがとう。大切に使います!」
おばあさんは目を細め、優しく微笑んだ。
「リングは魔力を1度だけ全回復させる効果があります。ブレスレットは1度だけどんな攻撃からも身を守るバリアを発動させる効果です」
ルミナは感激の声を上げ、ルミナはリングをヴァリオンはブレスレットをはめる。
「よく似合っているよ...」とおばあさんは顔をくしゃっと寄せ笑った。
2人ははにかみながら笑顔でリングとブレスレットを見せあった。
そしてほかほかのおにぎりを受け取って胸がじんわり暖かくなった。
「ありがとうございます!」二人は同時にお礼を告げる。
おばあさんは満足そうに頷き、杖をつきながら手を振った。
「若いおふたり……気をつけて行きなさいよ。道中、怪我などせぬようにね」
二人は笑顔で馬車に乗り込み、大勢の住民と手を振るおばあさんに見送られながら、ゆっくりとノクスティアを離れていった。
馬車に乗り込むと、あっ、と声が漏れる。
そこにいたのは、海底トンネルでライオネルさんの魔族化の闘いに参加していたメンバー達の一部だった。
大剣を軽々と振っていた剣士、連続打撃系の戦士、そして女性魔法使いの二人。
「あ……皆さん」
「偶然ですね!!」
二人は揃って軽くお辞儀をした。
ルミナは魔法使いのお姉さんの真ん中に座らされ、またも可愛がられる。
ヴァリオンは戦士と剣士の端に座り、目をキラキラさせながら言った。
「おふたりの剣技と打撃、凄かったです!」
ガタガタガタ――!
車輪が石を跳ね、馬車が大きく傾く。
「うわっ……!す、すごい揺れますね!!」
ヴァリオンは窓枠を掴み、必死に体勢を整える。
「こ……この道が王国に繋がるメインルートなんですか?」
ルミナも揺れる体を押さえながら尋ねた。
「ノクスティアを抜けると、だいたいこんな感じだったなー」
無骨な戦士が苦笑しながら少し曖昧に答える。
「森を越えると砂漠化するけど、安定した道に変わるよ」
活発そうな魔法使いが補足した。
「あの……皆さん、アウレア王国にはどうして?」
大人しそうな魔法使いのお姉さんが小さく尋ねる。
「最近、“哀麗”って歌姫が戻ってきたらしいじゃん?俺たちは哀麗を拝んでみたくてね……美人なんだってな――」
「哀麗……?」
その名に、ヴァリオンは思わず反応した。
「知ってるのか?」
「い、いえ……少しだけ、名前を聞いたことがあって」
ルミナはヴァリオンの顔を横目で見つめる。
(哀麗……誓いを立てた哀麗は、ヴァリオンさんの故郷にいるはずです……偽物……でしょうか)
馬車はなおもガタガタと揺れながら、森を抜けていく。
木々の影が窓を流れ、外の空気が徐々に乾燥していくのを感じた。
森を抜けた瞬間、乾いた風が肌を刺す。
「うわ……あっつ……!」ルミナが顔をしかめる。
目の前には、果てしない砂の大地が広がっていた。
遠くで陽炎がゆらめき、大地そのものが揺れているかのようだ。
「ここが……“嵐庭”地帯……?」
「そう呼ばれてるだけで、昔は緑豊かな場所だったらしいよ」戦士が呟く。
ヴァリオンは砂に目を細め、遠くの空を見つめた。
灰色の竜巻がゆっくりと地表へ降りていく。
「……冗談、だろ?」剣士が震える声で言った。
「あれが嵐庭だよ。怒らせなきゃ大丈夫、って噂だけどな」戦士が引きつった顔で答える。
「そんな“噂”で安心できるかよ!」
女性陣はルミナにしがみついた。張りつめた空気が漂う。
「……な、なんか変な風、強くない?」
魔法使いのお姉さんが目を細めた瞬間――
――ゴゴゴゴゴッ!!
突風が砂を巻き上げ、地平の彼方から“それ”が現れた。
「ワハハハハァーー!!今日も元気に暴れてやるぜぇーー!!!」
砂塵の渦の中から、巨大な砂嵐が笑いながら迫る。
馬が嘶き、御者が悲鳴を上げる。
「うわあああああーー」
「やばい!!来る!!」
「ちょ、ちょっと!?今の嵐、笑ってたよね!?!」
「ルミナ、しっかり掴まって!!」
馬車はギシギシと音を立てながら、砂の津波を避けるように必死に走る。
嵐庭――“笑う砂嵐”が通り過ぎるたびに、砂が舞い上がり、空が茶色く染まっていく。
馬が怯え、車輪が浮く。
「オラオラオラァーーーッ!!!バカにすんじゃねえぞぉぉぉぉーーーー」
次の瞬間、嵐庭の拳(砂の渦)がドガァンとぶつかり、馬車がぐるんっと宙を舞う!
「うぎゃああああっ!!」
「わあああああ!?!?!?」
地面にドサァァッと落ちた馬車。
砂煙の中、全員がひっくり返り、髪も服も砂まみれ。
「……い、生きてる……?」
「ひっくり返された……馬車ごと……」
「ワハハハハハーーーッ!!まったなぁぁぁ!!!」
嵐庭は満足げに去っていった。
「な……なんだったんだ……」
砂まみれで仰向けになるヴァリオン。
1台目の馬車も、嵐庭の猛威でひっくり返されていた。
「あれ……」
「あ……」
どうやらこちらの馬車の乗員も、ライオネル討伐に参加していたメンバーのようだ。
「すごい偶然ね……」
「にしてはできすぎじゃねえか……」
砂を払い、馬車に乗っていた12人は顔を見合わせ、思わず考え込む。
ワハハハー――再びあの笑い声が響く。
「うわああーー!また来たぞぉぉー!馬車に入れええー!」
嵐庭がバタバタと砂を巻き上げ、突撃してくる。
「うわははははあーーー!何してるんだああああーーー!俺も混ぜろおおお――」
「うわあああーーお前なんか混ぜたら吹っ飛ぶわあああ――」
「バカにしやがってえええ――――」
12人は悲鳴をあげながら各馬車に飛び乗り、嵐庭から逃れるように魔法を使い猛スピードで砂漠地帯を抜けた。
「も……もう大丈夫みたいだ……」
ヴァリオンは窓枠から顔を出し、周囲を見渡す。
「はああ……怖かったです……」
ルミナも小さく息をつく。
「知り合いの戦士は嵐庭にお手玉にされて遊ばれたって話だぜ……」
「いやいや……俺の友達なんか、嵐庭の渦の中で洗濯機みたいに回され、全裸で放り出されてバカ笑いされたらしいぜ」
「うわあ……」
一同、思わず青ざめる。
嵐庭、構ってちゃんっぽくて、遭遇したら最後、笑いながら全力で追いかけてきます( ̄▽ ̄;)
ちなみに彼(?)にはお友達の「嵐霰」「嵐雨」などがいるらしいです。
どうやら全員テンションが高い模様。できれば遭いたくない……笑




