小さなぬくもり
翌日から瓦礫の撤去や都市の修復に、ヴァリオンとルミナも手を貸す。
「やっぱり、ここまで被害が大きいと放っておけませんね」
ルミナがそう言いながら、崩れた屋根の下から物資を運び出す。
ヴァリオンも瓦礫を押しのけながら協力し、感謝されるたびに胸が温かくなった。
「おー偉いなあ」
声をかけてきたのは、昨日情報をくれた冒険者だ。30代半ばほどの男で、盗賊風の装備を身に着けている。
「はい、少し手伝ってから旅立とうと思いまして」
「ふーん?どこに行く予定なんだ?」
「はい……黎明の山に」
「ええー、随分遠いなあ」
「そうなんですよ……次の目的地はアウレア王国なんですけどね」
「おー、アウレア王国か!なら一緒に馬車に乗って行こうぜ!途中、砂漠化してる地域があってな。ちょっとしたモンスターの出現スポットなんだ」
「へえ……どんなモンスターなんですか?」
「竜巻系のモンスターでな!笑いながら突進してくるんだよ」
「ええー!いきなりですか!?」
「ああ……しかも喋るんだぜ。怒らせたらずーっと竜巻の中で説教されるんだ」
盗賊風の男は肩をすくめて笑う。
「なんか変わったモンスターさんもいるんですね……」
「ああ……捕まったらそれはそれで大変だ」
「てなわけで、明後日馬車が来るからアウレア王国まで一直線らしいぜ!」
「ありがとうございます!」
二人はぺこりと頭を下げた。
午後になると、食糧支援の物資が届くらしい。
まさか――嫌な予感がしたヴァリオンの胸中を的中させるように、遠くから聞き覚えのある声が響いた。
「はいはいー!食糧支援じゃよーん!! パンもお肉も、ホイホイ投げていくわよー!」
グリンドル婆さんだ!!
空から飛んできたパンをヴァリオンが必死にキャッチ。
ルミナはお肉の入った小袋を受け止めながら「あわわっ!?」と慌てている。
「ほーれほーれ、あっ、ほい、ほーれっー!」
グリンドル婆さんの掛け声とともに、次々と食料が舞い落ちていく。
メガネをかけているのに、どう見ても狙いが定まっていない。
都市の人々は笑いながら、落ちてくる食料を拾い集めていく。
「婆さん!投げすぎですって!」
「元気出せばええのよー!ほら次ー!」
瓦礫の上で回転しながら、グリンドル婆さんはさらに勢いを増していく。
「ほほほ……明日も来るからねえー!元気出すんだよー!」
くるくる回りながら箒に跨って、夕空へと飛び去っていった。
炊き出しのスープにパンを頬張り、人々の笑顔が広がっていく。
「あったかい……!」誰かのその一言に、周囲も自然と微笑んだ。
空中に浮かぶ瓦礫や割れたガラスを、魔法使いたちが軽やかに操り、
ゴミの山にそっと積み上げていく。
「カタ、カタ」と乾いた音が、風に混じって響いた。
「おーい! 誰か、子供が瓦礫の下敷きになってるぞー!」
男たちの叫びに、周囲が一斉に動き出す。
崩れた壁の隙間から、小さな手が覗いた。
掘り出されたのは泥と涙にまみれた少年だった。
「うええええ――っ!」
泣き出した声に、誰もが胸を撫で下ろす。
「見つかって……良かった……」
誰かがそう呟いた。
「まだいるかもしれないわね……」
魔法使いが、目を細め、両手を掲げる。
「建物、浮かせるわ」
ググッ、と空気が震え、地面に張り付いていた建物がゆっくりと持ち上がる。
魔力の風が吹き抜け、瓦礫の間から光が差し込んだ。
「うおおおおおお!」
人々の驚嘆が一斉に上がる。
その下から現れたのは、息絶えた人々――。
重傷者、血に染まった衣服、震える手で寄り添う兄弟。
それぞれの形で、生きようと、もがいた痕跡がそこにあった。
海底トンネルの爆発で巻き込まれた犠牲者は多く、
冒険者の中にも、まだ意識が戻らない者がいる。
「……死者は四十人を超えたそうです」
魔法使いが、静かに報告する。
「.....救助が間に合わなかった人もいる」
別の冒険者が唇を噛み、目を伏せた。
「海の底にも、まだ……」
その言葉は風に溶け、誰も続きを言えなかった。
海底トンネルに向かうより先にノクスティアで救助を行うのが先だったのか....?冒険者達は自問自答していた...。
瓦礫の間に、ルミナがそっと膝をつく。
手にしたパンとスープを、蹲る人々に差し出した。
震える手がそれを受け取る。
小さく「ありがとう」と呟く声。
ノクスティアにはまだ深い悲しみに包まれている。
それでも、その手の中に、ほんの少しの温もりと希望の光が灯っていた。
「明後日にはアウレア王国から馬車が来るそうだ。修復魔法の使い手を数名、派遣してくれるらしい」
その知らせに、人々の顔がぱっと明るくなった。
「本当に……!?」
「これで街が少しは立ち直れる……!」
喜びと安堵の声があちこちで上がる。
――そして夕方。
沈みかけた陽が、瓦礫の上を淡く照らしていた。
都市の外れ、石畳の道の端でひとりの老婆が腰を押さえ、蹲っている。
痛みに顔を歪め、立ち上がろうとしても、足が震えていた。
「大丈夫ですか!?」
ルミナがすぐに駆け寄る。
ヴァリオンも後ろから走り寄り、しゃがみ込んだ。
「無理しないでください。僕が家までお送りします」
そう言って、ヴァリオンはそっと老婆を背負う。
細い肩を包み込むように支え、静かに歩き出した。
その背中はしっかりしていて、温かかった。
「まあ……優しい子だねぇ……」
老婆は少し涙ぐみ、かすかな笑みを浮かべた。
その間にルミナは近くの小さな市場へ走り、野菜やパン、水を抱えて戻ってくる。
夕暮れの光に照らされながら、二人が老婆の家の前で再び合流した。
「これ、少しですが……よかったら」
ルミナが差し出す食糧に、老婆の手が震えた。
「ありがとう……ありがとうねぇ……」
涙を拭いながら、老婆は何度も頭を下げた。
「動けなくなって……誰にも声をかけられなくてね……本当に……あなたたちが来てくれて良かった……」
その声に、ヴァリオンとルミナは静かに頷いた。
遠くで風が吹き抜け、瓦礫の間に吊るされた布がふわりと揺れた。
今日も読んでくださってありがとうございます。
壊れてしまったノクスティア市にも、人のぬくもりはちゃんと残っています。
ほんの少しでも、心があたたかくなってくれたら嬉しいです。




