表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黎明の誓い  作者:
25/46

揺れる想い

煙が晴れ、そこに倒れていたのはボロボロの男だった。

泥に汚れた顔には、欲に刻まれたような深い皺。

口元はわずかに歪み、倒れているというのに、どこか欲にまみれた影が残っていた。

「あ……広場で捜索願が出てた……ライオネルさん」

ルミナの声に、一同が息をのんだ。



「あの魔族は……ライオネルさんだったのか?だが、なぜ……」

剣を持ったまま戦士は愕然とする。


そっと首元に手を伸ばし、脈を確かめる僧侶風の男が言った。

「死んではいないようだが……重症だな」


ここにいる冒険者たちの総攻撃を受けて、ライオネルはここまでボロボロになっていた。

誰も言葉を発せず、ただ混乱と戸惑いが場を包む。


「治癒魔法……使える者はいるか?他にヒーラーは――」

「俺が1人でやれる……」僧侶風の男はそう短く告げた。


「あ.....」小さな声でルミナが手を挙げかけたが、途中で止めた。

自分の治癒魔法では範囲が狭く、重傷者を癒すには力が足りない。

指先が震えるのを、彼女はそっと握りしめた。


「だが、待て……もしこの人が本当に魔族だったのなら、治すべきではない。ギルドに突き出すべきだ」

「だが、元は人間なんだろう!? 見殺しには――!」

冒険者たちの間で意見が割れ、空気が一気に張り詰める。


ヴァリオンは目を伏せ、荒い呼吸を繰り返すライオネルを見下ろした。

「……と、とりあえず……ノクスティアに戻って、ギルドに報告をしたらどうでしょう...?俺たちでは判断でき無いかと思います...」


その言葉に数人が頷く。

「……そうだな」


魔法使いがライオネルをそっと結界魔法で囲い、慎重に持ち上げた。

瓦礫と静寂の中、誰もが胸に重たいものを抱えたまま、帰路につく。


都市に戻ると、人々がざわついていた。

立ち止まって様子を伺う者、避けて道を譲る者──混乱の余韻が街中に残っている。

その中を縫うようにして、一行はギルドへ向かった。


ギルドの扉をくぐると、ギルド長が険しい表情で出迎える。

「ご苦労だったな……君たちのおかげで、この騒動はひとまず終息した。中で温まるといい……」

その声の裏には、まだ拭いきれない緊張が滲んでいた。


案内されたのは、ギルド奥の一室。

魔法の結界が張られた部屋の中央に、ライオネルは慎重に寝かされる。


僧侶風の男が静かに手をかざし、治癒魔法を唱えた。

淡い光がライオネルの体を包み込み、傷と疲労をじわじわと癒していく。

周囲の冒険者たちも次々に治癒を受け、ようやく部屋の空気に安堵が戻り始めた。


やがて──

ライオネルの指先がぴくりと動き、瞼がゆっくりと開いた。


「……ここは……?」

弱々しい声。しかし意識ははっきりしている。


ヴァリオンとルミナ、そして冒険者たちが息をのむ中、ライオネルはふらりと上体を起こした。

「……記憶はあるかね?」

ギルド長が低い声で問いかける。


「わしは……どうしたんだ……? なんでここに……? 仕事に行こうとしたところまでは覚えておるが……」

ライオネルは頭を押さえ、眉を寄せた。


ギルド長は一拍置いて、静かに言葉を落とす。

「実は……君は、魔族化していたんだ」


ライオネルの顔から血の気が引いた。

「……な、何だと……!?」

目が大きく見開かれ、声が震える。

信じがたい現実が、ゆっくりと胸に突き刺さっていく。


周囲の冒険者たちは静かに見守る。ライオネルはゆっくりと肩を落とし、息を整えながら事態を受け止めようとするが、そのショックはまだ消えない。


ライオネルはギルド長や冒険者たちの話を聞くうちに、やがて表情が沈んでいく。

「なんてことを……」

小さく呟き、目を閉じて頭を抱える。


目の前には海底トンネルの惨状、都市の酷い有様、崩れ落ちた石壁、瓦礫、傷ついた街や港の景色。

胸の奥で込み上げる無力感と、自分が招いたかもしれない事態への責任感。


「……だが……っ!!!わしのせいではないっ!!!誰かの陰謀だ!わしは被害者だ!!!」

ライオネルは両手で頭を抱え、叫ぶように声を上げた。


「魔族化していたせいじゃ……!!わしを魔族化したものの責任じゃ!!!」


「犯人を捕まえろ!!」

ライオネルは声を張り上げ、拳をぎゅっと握りしめた。目に光が宿り、眉間の皺を更に寄せ、怒りと焦燥が混じった表情は、周囲の冒険者たちを圧倒する。


ライオネルはノクスティアで安全を確保され、すぐにアウレア王国へ護送されることになった。


都市では処置が限られるため、王国での正式な協議が必要と判断されたのだ。


ライオネルは、冒険者たちに囲まれながら強引に護送されていった。


「わしは悪くないぞ――!」


声を振り絞り、最後まで叫び続けるライオネル。

ギルドの門を抜け、護送の馬車が動き出しても、彼の声は街のざわめきにかき消されることなく、なお力強く響いていた。


周囲の冒険者たちは息を呑み、王国へ向かう護送路を静かに見守る。


「ライオネルさん……可哀想ですね」

ルミナが見送った後にそう呟いた、

「そうだよな……魔族化されてしまった為に起きた出来事だったからな……」

それでも、ヴァリオンの胸の奥に残る重たい違和感が消えなかった。



隣の盗賊風の男が小声でヴァリオンに囁いた。

「知ってるか?魔族化ってな……ただの人間は誰でもなる訳じゃないんだ。悪意や濁った心のある者だけが、あの禁忌魔法の影響を受けやすいらしい」

ヴァリオンは眉をひそめ、その話に乗った。

「……つまり、ライオネルは元々、悪意のある人間だった可能性が高いってことか……」


「そうなるな……噂でしか聞いたことないけどな……ライオネルさんは裏社会と繋がりがあるって話もあるんだ」


「それって……」とルミナの瞳が揺れる。


「本人も叫んでたけど……もしかしたら、利用されていただけなのかもしれない」


「ライオネルさんが禁忌魔法の使い手と協力関係にあったら……どうなるんだ!?」

後ろ姿に声をかける戦士。


「そうなったら処罰は免れないだろうな……」と盗賊風の男は答えてくれた。


一同は顔を見合わせてしばし沈黙する。


いきなりですが——

皆さんの中に、ひとりで傷を抱えている方はいませんか?

もし居場所がないと感じるときがあったら、この物語だけは、あなたの味方でいられたら嬉しいです。

ほんの一瞬でも、心が休まる時間になれたら幸せです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ