海底トンネルを抜けた先
――海底トンネル――
海底トンネルの中は、まるで別世界の回廊だった。壁一面のガラス越しに広がる深海は、透き通った青と緑が混ざり合い、光を受けてまるで宝石箱の中のように輝く。
無数の魚たちが列を作って泳ぎ、光を反射する鱗が星のように瞬く。時折、深海の生物がゆったりと体をくねらせ、淡い光の帯を残して通り過ぎる。
天井から垂れる照明は、海の色と溶け合い、幻想的なオーロラのようにトンネル内を彩る。列車が静かに進むたびに、ガラス越しの海の世界がゆらりと揺れ、まるで自分が海そのものを漂っているかのような錯覚に陥る。
トンネル内は冒険者や観光客で賑わい、子どもたちのはしゃぐ声やカップルの楽しげな笑い声が、静かな水中世界に柔らかく響いていた。
ここは、地上では味わえない神秘と圧倒的な美しさが共存する空間。足を踏み入れる者すべてが、息を呑まずにはいられない――そんな世界だった。
「うわああーーー」
2人は上を見あげて感慨深い声をあげた。
「すごいな……」
「綺麗です……」
ルミナが目を輝かせて光の反射に見入る。そんな横顔にふふっと笑ってヴァリオンはベンチに腰を下ろしてしばらくこの壮大な景色を楽しんだ。
「はっ!!!すいません!待たせてしまって……」
「いいよ」
「恥ずかしいです……さあ行きましょう」
「もういいのか?」
「はい!!!」
「……ゆっくり行こうか」
「…………は、はい」
2人は海底トンネルの神秘的な美しさに足を止め、周囲の人々の楽しげな様子を横目にゆっくりとトンネルを抜けて行った。
海底トンネルを抜けると、そこはまるで“光の港”だった。
ノクスティア市――透明な海を模したガラスの街。
昼は陽光が海面で反射して街全体を淡く包み、夜になれば青い光を帯びた街灯と海底からの照明が輝き、空気そのものがきらめいて見える。
通りには観光客や冒険者たちも行き交い、カップルが手をつないで歩く横を、鎧姿の冒険者たちが談笑しながら通り過ぎる。屋台の前には子どもたちが列を作り、焼き立ての饅頭や色とりどりのゼリーに目を輝かせていた。
「わあ……人がいっぱい……」
ルミナは目を丸くして通行人を見渡す。色鮮やかな衣装や装備を身にまとった冒険者たちの姿に、思わず息を呑む。
「うーん、美味そうな匂いがする」
ヴァリオンは立ち止まり、潮風に混ざる焼き菓子の匂いを深呼吸で楽しんだ。
「ねえ、ヴァリオンさん、あの店も気になる……」
ルミナはガラス細工やアクセサリーを並べた店先を指さす。
「よし、じゃあまずそっちに寄ってから、深海ソーダでも飲もうか」
ヴァリオンが笑顔で応じ、二人は賑やかな通りをゆっくり歩き始めた。
途中、軽やかな笛の音が聞こえ、港の演奏団が観光客を楽しませている。ルミナは音に合わせて自然と小さく手拍子を打ち、ヴァリオンも微笑みながら隣で同じようにリズムを取った。
「あ……見て下さい!!あの小さな屋台、海底トンネル饅頭がありますよ」
ルミナが嬉しそうに指を差す。ヴァリオンも目を輝かせ、ほかほかの饅頭を手に取った。
「今日は観光気分で美味いもの沢山みつけよう」
「はい!ゆっくり街を楽しみましょう!」
二人は海底都市の光に包まれながら、心地よい潮風と街の活気を肌で感じ、ノクスティア市の魅力に夢中になった。
「今日は普通の宿に泊まりましょう!!」
「ああ...トライデルの宿はベッドが窮屈だったな」
宿屋について見ると、受付の前には、観光客や冒険者たちが列を作っていた。
子供を連れた家族、騒がしいカップル、荷物を抱えた旅人……宿屋の賑わいは、活気に満ちている。
「すみません……あいにく空いてるお部屋は一つだけでして」
受付の女性が申し訳なさそうに頭を下げた。
部屋に入って見るとベッドが一つだけ。
ルミナはちらりとヴァリオンを見上げる。
「……構わない。俺は床でも平気だ」
「だ、ダメですよ!そんなの!」
ルミナは慌てて手を振った。
「床じゃあヴァリオンさん、風邪ひきますよ!」
「俺なら平気だよ」
「じゃあ私が床で」
「君は女の子だ、ベッドを使うんだ」
「ヴァリオンさんだってちゃんと休んで欲しい……」
そんなやり取りが数分続いたところで、案内人の女性が苦笑いしながら口を挟んだ。
「あの……ベッドはダブルですので」
「……え?」
二人の声がぴたりと止まる。
一拍の沈黙。ルミナがそっと視線を落とすと、ヴァリオンも目を逸らして微かに顔を赤らめていた。
「……では、失礼いたします」
(カラン…とドアベルの音)
残されたのは、赤く染まるルミナと、無言で荷物を握りしめるヴァリオンだけだった。
湯上がりで髪をタオルで拭くルミナ。少し濡れた髪の毛が肩に触れ、ふんわりと湯気と海の香りが漂う。
ヴァリオンは浴衣の襟を整えながら、手が微かに震えているのに気づかないふりをして背中を向けた。
お部屋に運ばれてきた料理に、二人の視線が向く。色鮮やかな海の幸の料理に、ルミナは小さく「いただきます」と呟き、箸を持つ手が少し震えていた。
「んー美味しい――」
「本当だ!! うまいな」
二人で箸を進めるうち、視線がふと交わる。ほんの一瞬、顔が赤くなるのを互いに感じ取り、慌てて目を逸らす。
「……お腹いっぱいで幸せですー」
「ああ……満腹っていいな」
そして、いよいよベッドの前に立つ。二人は少し距離を空け、背中を向けて横になる。
ルミナは小さく息を吐き、心臓がドクン、と跳ねるのを感じる。
ヴァリオンも拳をぎゅっと握り、無意識に呼吸を整えた。
背中越しに、ルミナが小声で問いかける。
「……あの、明日はどうしますか?」
ヴァリオンは少し肩を震わせ、声を潜めて答える。
「え、あ、そ、それは……そうだな……」
沈黙の中、互いの呼吸だけがはっきりと聞こえ、二人の心臓は確かに跳ねていた。
ルミナは目を閉じてそっと手を胸に当て、ヴァリオンは視線を布団の隙間に落とす。
「ここに大きな広場があるみたいなので、そこに行って仲間を探しに行きますか…?」
「あ……ああ……行ってみようか」
ヴァリオンはぎゅっと拳を握り、無意識に力を込めた。
ルミナも、ほんのり顔を赤らめ、背中の温かさを感じていた。
その距離のわずかさに、二人は互いの存在を強く意識せずにはいられなかった。
ルミナはすっかりまどろんで、小さく寝息を立て始めた。
「……すぅ……すぅ……」
隣で横たわるヴァリオンは、どうも眠れない。背中を向けたまま目をつぶるが、心臓はドキドキ、頭はまだ冴えている。
「……眠れない」
小さく呟くと、結局ヴァリオンはそっとベッドを降り、床に寝転んだ。
ルミナは朝起きるとヴァリオンが床で寝ていることに驚いて思わず「そんな固い所で寝たんですか!?」と声をあげた。
「ああ...おはよう、いや...なんとなく...」と口ごもるヴァリオン。
ヴァリオンはそそくさと支度を始める。
まるでギクシャクしたロボットのように、手元を気にしながら服を整える。
ルミナは思わず吹き出しそうになりながら声をかけた。
「……次からは、別々の部屋を借りましょうか」
「ああ...女性と同じベッドでは緊張して眠れないからな...」と顔を赤くするヴァリオン。
ルミナはその言葉に、くすぐったいような、でもちょっとおかしいような笑顔を浮かべた。
「……ふふ、そうなんですか……」
ヴァリオンはまだ少し赤くなった顔で目を逸らす。
その様子に、ルミナは小さく微笑み、朝の淡い光の中で互いの距離を意識しながら、少し心が温かくなるのを感じた。
海底トンネル...私も行ってみたいです
ルミナとヴァリオン、1つのベッドで寝るお決まりイベント…ヴァリオンには刺激が強かったようです(笑)




