三姉妹
ルミナは暖簾をくぐると、ふわりと立ち込める湯気と石鹸の香り。深呼吸して、心の中で小さくガッツポーズを作った。
「はあー!こんなに大きいお風呂……初めてです…」
体と髪を洗った後、髪をお団子にして、女湯の湯船に足を入れると、柔らかいお湯が肌に広がり、日々の疲れがふっと抜けていく。目を上げると、周囲には同じように湯に浸かる女性たちがちらほら。
お……大きい……!?皆さん……お胸が……すごいです!!
思わず自分の胸と比べるルミナ。
「おっ爆発魔法の子じゃないか!」
と1人のショートカットのお姉さんがルミナに気付く。
「きゃー!本当だ、かわいい!」
頭をなでなでされるルミナは、はわわわと慌てふためく。
「頑張ってたねー?何匹倒せたの?私達もピラニクス退治に来てたんだよー?」
あっという間に巨乳なお姉さん達に囲まれてしまうルミナ。
一方、出入口で待つヴァリオン。
浴衣って言うのはどうも落ち着かないな……。手にはピカピカになった装備品を持っている。ルミナの魔法袋に入れといて貰わなきゃだな……。
すると女湯から4人組の女性陣が賑やかに出て来た。
4人組か……ルミナじゃ無いなと視線を逸らそうと思った矢先、真ん中にニコニコしていたルミナ。
「あ、ヴァリオンさん!」
楽しすぎてすっかり忘れてました!
「ルミナ……知り合いか?」
「あ、いえ……」「え?彼氏?彼氏?」
と興味津々なお姉さん達にヴァリオンはタジタジ。
「彼もかわいーい!」
「一緒に飲みましょーよー」と誘われ、あれよあれよと言う間に一緒のテーブルについた。
「私たち三姉妹で旅してるの。私がマナ、長女よ」
マナはサバサバしたお姉さん。
「リナでーす!次女よー!」元気でお茶目なリナ。
「ハナよ。ルミナちゃん、ヴァリオンくん、そんなキンチョーしないで気楽にいこー?」ハナはすでにお酒片手に出来上がっている様子。
三姉妹の皆はルミナにあれもこれもと食べさせている。すっかりルミナはご機嫌だ。
「えっと、皆さんはどこを目指してるんですか?」
ヴァリオンは肉料理をナイフとフォークで切れ目を入れながら聞いた。
「中央大陸だよー南大陸も飽きたから中央大陸にそろそろ移動しようと思ってー」とハナ。
「私たち、転々としてるのさ」とマナ。
「たのしーよー」とリナ。
驚いた……故郷から出ず平和に暮らしていたから知らなかったが、家を持たずに旅をしている人達もいるんだな。
……故郷だけが全てでは無いんだ。
「ヴァリオンくん?だっけ?結構かーわいーいよね」とハナはヴァリオンに胸を押し付けてきた。
うっ、酒臭い!
ヴァリオンはハナの絡みに引き気味だ。
「ハナ!絡みすぎだよ」とマナが釘を刺す。
「ルミナちゃんと付き合ってないなら、私なんかどうー?」とハナがぐいっと顔を近づけてきた。
「お、俺には好きな……人がいます!」
「うっわ……ピュア――」とリナ。
「え!?どんな人ですか!」とルミナまで反応する。
女子の勢いに圧倒され、ヴァリオンは思わずテラスへと逃げ出し、風に当たって深呼吸した。
「あ――らら、嫌われちゃったね」とリナ。
ガックリと肩を落とすハナ。
「ぐいぐい行き過ぎだよ」とマナが呆れる。
「ほえー……でもハナさん、綺麗なので、絶対にそのうちに恋人できますよ!ファイトです!」
ルミナは励ましの言葉をかける。
「ルミナちゃーん」
ルミナに抱きつき、メソメソするハナ。
「はあ――哀麗さんみたいになれたらなー」と口にすると、
「アイレイさん?」とルミナは首をかしげた。
どこかで聞いたことがある名前だが思い出せない。
「私達は哀麗みたくなりたくて、各地でショーしたり歌ったりしてるのさ。
まあ、私は2人の護衛みたいなもんだけどな?」とマナ。
「南大陸ではなかなか人気が出なくて、移動しているのさ」とぼやくマナ。
「美しくて可愛くて、歌がとびきり上手くて……キラキラ輝く魔法を使っているのよ」とうっとりするハナ。
「じゃあ、次は中央大陸にある、哀麗さんが活躍していた王国に行ってみようか」とマナ。
ルミナはハッとした!!!
哀麗...ハラス・ヴォルトと共に誓いを立てた人物の1人...。
「その王国って言うのはどこなんですか!?」とルミナ。
マナはそう言うと、ほんの一瞬だけ目を光らせた。
普段の笑顔の裏に、何か企みがあることをほのめかして──。
ヴァリオンは酒場のウッドデッキで風に当たっていた。
まさかあんなに強引に顔を近づけてくるなんて――。
思い出しただけで赤面し、両手で顔を覆う。
「やあ……ここで飲んでいいかな?」
「あ……えっと、確か……マナさん。」
「ああ、マナで構わないよ。」
マナはジョッキを手に、隣の椅子へ腰を下ろした。
「未成年にはジュースだ。」
マナは笑いながら、トロピカルドリンクを差し出す。
「い……いただきます。」
ストローを啜るヴァリオン。
「ごめんね? ハナが悪酔いしてさ。君みたいな年下の、純粋そうな子が好みでね。」
「い、いえ……。」
「それより――良かったら明日、ピラニクス退治を一緒にどうだい?」
「えっ!?」
「遠くから見てたけど、ルミナちゃんの魔法も、君の斬撃も見事だった。
私は弓使いで遠距離攻撃が得意だし、きっと今日より効率よく倒せる。もちろん報酬は半分こだ。」
「リナさんとハナさんは……?」
「あの2人は戦闘はまるでダメでね。私達も早くトンネルを抜けたいんだ。」
「は、はい……! 後方支援がいてくれるなら、助かります!」
「じゃ、決まりだね!」
マナはヴァリオンの手を握り、「約束な!」と白い歯を見せて笑った。
その腕には、女性とは思えないほどの筋肉が浮かんでいる。
「あ……はは……女なのに、逞しすぎるよね?
リナやハナは可愛いのに、私はこの通り。性格も男っぽいし……変だろ?」
「……そうですか?」
キョトンとするヴァリオン。
「いいんだ、わかってるからさ。」
マナはジョッキを一気に飲み干した。その背中は少しだけ寂しげに見える。
「……そんなこと、ないと思いますよ。」
「え……?」
「あ、いや。格好いい女性がいたっていいじゃないですか。
人の魅力はそれぞれ違いますし。俺なんか昔はよく女の子に間違われてましたよ。」
そう言って笑うヴァリオン。
「そ……そう、か?」
「はい!」
「ありがとう。君は優しいな。」
「そ、そんなこと……。」
「で? 好きな人って、どんな人なんだい?」
「や、やめてくださいよ――!」
再び真っ赤になるヴァリオン。
その様子にマナはくすりと笑い、星空を見上げた。
「……いいな。私も、恋してみたいな。」
その目に映る星は、まるで彼女の中の“もう一人の少女”のようにキラキラと輝いていた。
ヴァリオンが酒場を後にしたあと、
マナはゆっくりとジョッキを回し、泡が静かに弾けるのを見つめていた。
――優しい子だな。
本当に、何も知らない顔をして。
「……悪いね、坊や。」
小さく呟く。声は誰にも届かない。
マナはポケットから一枚の古びたメダルを取り出した。
中央に刻まれた紋章は、アウレア王国のもの。
“哀麗”の名を出したのも、全て計算のうち。
彼らを王国に向かわせる――それが自分の任務。
夜風が吹き抜け、マナの髪を揺らす。
どこか遠くで、ルミナの笑い声が響いた。
……聞かせないでよ、そんな声。
罪悪感が、また戻ってきちまうじゃないか。
マナは空になったジョッキを置き、席を立った。
その瞳は、先ほどまでの優しい光を失い、
任務を遂行する者の鋭い輝きを放っていた。
ここまで読んでくれてありがとうございます!(´▽`)今回のお話はどうでしたか?
さて、ヴァリオンとルミナ、これからどうなっちゃうのか…実は私もまだ考えてません(笑)
マナには気をつけて、ヴァリオン!
これからの展開を皆と一緒に見守って行けたら嬉しいです!




