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黎明の誓い  作者:
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異変 ー涙の哀麗

 翌朝には4人組の噂は大分広まっていた。

朝食の席で、今そこで母親たちの噂話聞いたままの情報を母はヴァリオンに捲し立てた。

「都市開発にするらしいよ!楽しみだねえ!」うきうきと饒舌に語り続ける母。


 その時、いきなり「リンリーン!」と、一家に一台常備されている、魔道拡声鈴から音が響いてヴァリオンと母は手を止めた。


リンリーン

「町衆評議からの緊急放送です!本日、広場にて町の美化運動を実施します!なるべく全市民の協力をお願いします!」

鈴の澄んだ音に続いて町長の太めの声が響いた。

「美化運動?」ヴァリオンと母は顔を見合わせた。

「随分急だねえ……私は朝の仕込みがあるからヴァリオン行って来ておくれ」と母に頼まれ、分かったよとそう答えた。


 ヴァリオンは動きやすい服装に着替えて店を出ると町人達も広場に向かっていると、欠伸をしたり、寝癖をつけたままとか、不満を垂れ流す若者達もいた。

その群衆の中で一際目立つ鮮やかな金髪の後ろ姿を見つけた。

「おはよう!アスティア!まいったよな?いきなりの美化運動なんてさあ」

「おーヴァリオン!おっす!ほんと参るよなー!母ちゃんに行って来な!って尻まで叩かれちまってよー」

「あはは、うちもさ?相変わらずだね、おばさん」

うちの母も強いが、アスティアの母も負けじと強いなあっと思い浮かべ頬をぽりぽりとかいた。


 広場には町長や住民たちも大勢集まり、手に箒や雑巾、塗料を持った者達もちらほら。

町長が両手を挙げて呼びかける。

「皆さん!町の美化運動を始めます!今日一日で街をピカピカにしましょう!」


一斉に広場から「おおー!」と掛け声が上がる。

ヴァリオンは小さくため息をつき、アスティアの方を見る。

「随分な気合の入れようだね?」

「まったくだ。でも手伝わないわけにはいかないだろう」と諦めるアスティア。


二人は仕方なく手袋をはめ、箒を手にして町の美化運動に加わるのだった。


 最初の頃は真面目に掃除していた2人だったが次第に飽きて来てしまい、アスティアが、ヴァリオンの箒に軽くバシッと当てて来たので「やったな!?」と乗っかり2人は箒でチャンバラごっこを開始してしまう。


「ちゃんとやらんか!」といつも口うるさいで有名な頑固な武器屋のじいさんに咎められるも、他の若者達もサボり出してしまったので、追っかけ回して注意して回る。

「もういいだろー?疲れたし。ねみー」

欠伸をするアスティアに若者達も帰ろうぜーと言い始める。

アスティア達に「今時の若者はこれだから」と眉を顰める武器屋のじいさん。


すると町長がゆっくりとアスティア達に近づいてきた。

普段の温和な表情は消え、目には普段見せない鋭い光が宿る。

「ちょっと待たれい!」町長は木刀を取り出すと、アスティアの手の甲をパシッと叩く。

「命令だ!美化運動を、再開せい!」


皆は思わず固まる。アスティア達は箒を握った手が止まり、口をポカンと開けたまま。普段の温厚な町長がこんなに強く言うなんて…驚きと違和感で困惑する。


「町長…………?」ヴァリオンが小声で呟く。

町長は眉一つ動かさず、再び鋭い視線で帰ろうとした面々を見据える。

「帰るのは許さん!!今度こそ掃除と美化運動に集中せよ!」


「は……はい!」箒を握る手に力を込め、皆は、やっと現実に引き戻される。

ヴァリオンとアスティアは互いに小さく頷き合って慌てて作業に取りかかるのだった。


静まり切った重い雰囲気の中で掃除に尽力する町人達。

「なんか……いつもの町長らしくなかったよな」と、ヴァリオンはアスティアに小声で問いかけた。

「ああ……いつもはこれこれアスティアよ、いかんぞ?って笑ってる感じなのになー?口うるせえ武器屋のじいさんも真っ青だったぜ」

「うーん…………」

町長のあんなに険しい顔を見たのは初めてだ。


落ち葉を集めていた2人は塗料を持った男達と町長で何やら揉めているので、野次馬根性で2人はこっそりと見に行った。


町長が「ええい!つべこべ言わずに午前中で、この街の看板や建物を美しく塗るのじゃ!」と声を荒げていた。

担当の人が用意した見本の板を見せると、派手すぎる色彩、ギラギラの装飾、どれも悪趣味な色合いだ。


ヴァリオンとアスティアは目を丸くした。

「え…あんなんじゃ街の雰囲気めちゃくちゃじゃん…」と、ギャラリーもざわめき出す。


町長は「これぞ美化の見本!」と力説するけれど、住民や若者勢から「ちょっと…違うんじゃ…?」と声が上がり始める。


町長は「早くせんか!ハラス・ヴォルト様のご命令じゃ!」

「ハラス……ヴォルト?」ヴァリオンがそう繰り返すと、「ああ、あの4人組の一番派手な男だよ」近所のおじさんがそう教えてくれた。

ああ……あの派手なマントの男か。


「ならば直接抗議しに行くぞい!」と町長を押し退けて武器屋の主人達でハラス・ヴォルトの元へと足早に駆けて行った。

ヴァリオンの足元に図案の一枚が踵にコツンっと当たった。

「…………確かにこれは違うよなあ」

リュミールの町並みには合わないような色合いだ。ハラス・ヴォルトは一体何をどうしたいと言うのだ?



 結局武器屋の主人達は戻って来ず、ヴァリオンは午前中は早めに切り上げ店の手伝いをしていた。

「大変だ!大変だ!外に出てみろよ!」

アスティアがひどく慌てた様子でヴァリオンの腕を引っ張った。

「な……なんだよ?どうしたって言うんだよ……!?な…………!?」

前につんのめりそうになりつつ、エプロンのまま店の外に出ると驚きのあまり目を見開いた。

建物という建物は派手派手しい塗料が塗られていた。ギラギラした装飾も、悪趣味なオブジェなど。奇抜な紋様も入っていた。

落ち着いた雰囲気のリュミールはそこにはいなくなっていた。

「な……なんてこったい……」ヴァリオンの母は自分の店も黒い色や金や紫の禍々しい色に変えられていた。

「うちまで……!」

「しかもこの塗料高級な魔道具だぜ!特殊クリーナーが無いと絶対に落ちねえ!」

アスティアが指でなぞると、薄い膜でもある様な感触がした。

「金の無駄遣いだねえ……」パンが何個焼けるのやら……と考えてしまう。


ーーーハラス・ヴォルトはリュミールホテルの最高級室に宿泊していた。

「哀麗、明日は私のモチーフを入れていくぞ。もちろん仕上がったじゃろうな!」

ハラス・ヴァルドは居丈高に哀麗のいる部屋をノックもせず、開け放って鼻息を荒くしながら現れた。

だがそこには哀麗の姿はなかった。

机の上にには一枚の紙が置かれていた。


小さく丸っこくして、目がキラッとしていて、羽がハート型のコウモリのイラストが描かれていた。

「ぬわ……ぬわんじゃこれはああああ!?私のモチーフがハーツ…………!?だと!?哀麗――――やり直しじゃあ!どこへ行った!哀麗――――――」

ハラス・ヴァルドの雄叫びが宿屋の窓から木霊した。


 その頃、哀麗は宿屋から少し離れた木陰にあった木の柵にちょこんと座り、そよ風に髪を揺らしながら遠くの景色をぼんやり眺めていた。

「綺麗……」壮大な景色に時間を忘れてぼーっとする。

だが、眉を少し寄せた「なんだか、何か足りないわ……」

そうつぶやくと、ぽろりと一筋の涙が頬を伝う。

(これで…イルミネーションみたいにできるかしら)

涙は光を帯びて、周りに小さなきらめきを散らす。まるで夜空に浮かぶ星々のように、景色が少しずつ輝き出すのをイメージする。

「どうした――――――!!」

「きゃあ!!」突然に肩をがっしりと掴まれた哀麗はいきなりの出来事に悲鳴をあげた。

目の前には黒髪の町人らしき青年が眉を下げて不安気な表示で見つめて来た。

「な……なに……?」

びっくりしている様子にはっと我に返ったヴァリオンは肩を離して、こほんと咳払いをした。

哀麗は乱れたスカートの乱れを少し直して、若者の背中を見上げた。

耳まで赤くなった青年は、哀麗にとっては物珍しくもなんともなかった。


「ねえ、この景色美しいと思わない?」哀麗がヴァリオンに声をかけると振り向いて「ああ……ここからの景色は絶景だよ……」と同意した。

まさかあの美女が1人で泣いているなんて!

ハラス・ヴァルドとやらに何かされたんだろうか!とヴァリオンは頭の中でありとあらゆる可能性を試行錯誤していた!

哀麗はスッと横にズレたので低い木の柵には1人分のスペースが空いた。

す……座れという意味だろうか!?

ヴァリオンはドギマギしながら足を半分だけ柵に乗せて遠慮がちに背中を丸めて腰を下ろした。


哀麗は風に髪を靡かせながら、静かに景色を見つめている。

その隣に座るヴァリオンは、胸の鼓動が落ち着かない。さっき涙が零れた理由を聞きたいのに、言葉が喉に詰まって出てこない。

(どうして泣いてたんだ…?いや、でも…顔を見てると…聞けない…)


視線が合いそうになるたびに、慌てて空や街並みに目を逸らすヴァリオン。

哀麗はそんな彼の様子を横目で見て、小さく笑った。

「…ねえ、景色って、こうして誰かと見るとずっと綺麗に見えるのね」

ヴァリオンの心臓は、更に跳ね上がった。

哀麗は、ヴァリオンの目をまっすぐ見つめつつ、風を耳にかけながらふっと笑う。

何気ない仕草でヴァリオンの腕に自分の腕を絡ませた。

「ねえ、こうして景色を見てるとちょっと恋人同士みたいじゃない?」

「~~~~っ!!!」

ヴァリオンは声にならない声をあげ、弾かれた様に離れて距離を取り立ち上がった!!


黙って見上げる哀麗の潤んだ瞳がヴァリオンの目を捉えて離さない。

ヴァリオンの顔が一気に真っ赤に染まる。

心臓は破裂しそうで、目を合わせることすらできない。


哀麗はそんなウブな反応に楽しげに笑う。

「ふふ、冗談よ」

冗談――そう言われても、ヴァリオンの耳まで真っ赤なままだった。


「あ……いけない。もう戻らなきゃ……じゃあね?楽しかったわ」


くるっと背を向けて歩き出した瞬間、ヴァリオンがちょっと慌てたように声をかける――。


「ま、待って……!君の名前、教えてくれないか」


一瞬立ち止まると、振り向かないで少し間が空く……耳に髪をかけてヴァリオンにちらっと横顔だけ見せた。


「哀麗。……覚えなくていいけど」


「哀……麗……絶対に忘れない!」ヴァリオンは哀麗の名前を胸に刻んだ。


哀麗はヴァリオンの返事を待たずにスッと歩き出していく。

ヴァリオンはそんな後ろ姿をいつまでも惚けて見送っていた。


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