初めての報酬
2人は漁師のおじさんとトライデル港を抜け、小型の魔法帆船が波を切る。
「わぁ…海が広がっていて風がとっても気持ちいいですね!」とルミナはポニーテールを揺らしている。
「ああっ、すごいな!こんな広大な海を見るのは初めてだ……」
船の甲板に立つ二人。潮の香りと波の音に包まれ、少し遠くでカモメが鳴く。
「ヴァリオンさん、今日の漁師さんたちとのお仕事頑張りましょうね!1匹1ゴールドですからね、2人で100ゴールド、夕食代宿代も欲しいですねえ……」
「ふむ…まぁ頑張ろう!俺たちも皆に負けないようにしないとな」
周りを見ると他の冒険者達も船でちらほら見かける。皆海底トンネルで足止めを喰らっているのだろう…。
早い者勝ちだ……!と言わんばかりにバチバチと火花が散る。
二人が乗った魔法船は少しずつ目的地へ近づく。
興奮気味に小さな拳を握り「今日は私も攻撃魔法を使っちゃいますよ!」と、ロッドを翳すルミナ。
ヴァリオンは思わず「無茶だけはするなよ」と微笑みながら、自分も今回は斬撃を出して攻撃の手数を増やさねば!と意気込んでいた。
やがて、沖合の影が少しずつ近づいてくる――
ピラニクスが棲む海域だ。
「ルミナ……俺達が討伐するピラニクスはどんな海魚なんだ?ピラニアとは違うのか?」
「はい。ピラニアに魔族の血が入った海洋適応型の亜種です。大量発生して船や小魚を襲うので、漁師さんも大変です……」
「船もか……転覆なんかしたら大変だな……」
「まあ……これは魔法船なので結界は張ってあるかと思いますが……ちょっと怖いですね」
ルミナも思わず心配になる。
槍や網を構えた漁師たちが「いくぞー!」と叫び声が聞こえて来たので、ヴァリオンとルミナも身構える。
他の冒険者や漁師さん達も戦闘体制に入った!
水面がピチャピチャと跳ねる音、ピラニクスの赤い目が光る。水面からギラギラの群れが飛び出して来た!
ピラニクスだ!
小さな船の周りを跳ね回り、ギザギザの歯を見せて襲い掛かる。
『発射だー!』と網や爆発物を投げ、群れを船の周囲にまとめた。」
船の下からも一斉にボコボコとぶつかる音がする。
ヴァリオンは跳ねたピラニクスを斬撃で狙い一刀両断。
他の冒険者達も次々にピラニクスを退治していく。
ルミナはロッドを構えて集中した。
ロッドの先端が沸騰しているかの様にボコボコと音をさせる。
ルミナが手を掲げると、小さな光の粒が集まり、眩い赤と橙の光に変わってきらめいた。
「ルミナスブレイクッ!」
その掛け声と同時に、光が爆発し、周囲を一瞬で包み込む。波しぶきや水面も光に反射して、目がくらむほど眩しい――。
ピラニクスたちは驚きの声をあげ、ジュッと焼けこげた匂いが漂って海に浮いた。
「おお――――っ!」どよめきが起きる。
ルミナは一気に注目を集めてしまった。
「すごいじゃないか!ルミナ!!その魔法も師匠から教わったのか!?」
「えへへ……まぁ失敗から生まれた魔法なんで誰かから習ったわけじゃないんですけどね……」
「あ……だから自分の……名前入りだったんだな……」ヴァリオンは気を遣った様な複雑な顔をした。
「い、いいじゃないですか――別に!」
頬を膨らませて怒るルミナ。
――結局今日の報酬は89ゴールドだった。
「一人分の海底トンネル代にはなりましたけど……100ゴールドにも届きませんでしたね……」
「仕方ないよ、俺たち頑張ったし、ルミナがすごかったよ!宿代と夕食代にして明日も頑張ろう」
「はい!そうですね!!」
――宿屋に入ると、一階は活気ある酒場になっていた。木のカウンターやテーブルには、漁師や冒険者たちが集まり、海の香りと焼き魚の香ばしい匂いが混ざり合っている。杯を交わす音や笑い声、木の床を踏みしめる足音が絶え間なく響き、港町らしい賑やかさがあふれていた。
奥に進むと大浴場になっていた。
部屋に入ると、ベッドが等間隔で並ぶ簡素な空間が広がっていた。
壁沿いにぎっしりと配置されたベッドは、どれもシーツと枕だけ。
テーブルもランプも必要最小限で、荷物を置く隙間すらほとんどない。
カーテンを閉めればプライバシーは確保されるけれど、部屋全体の簡素さは隠せない。
ここは、ただ寝るためだけの場所――そんな雰囲気だった。
さすが一泊10ゴールド……だな。
ヴァリオンは心の中だけでつぶやいた。
2人は自分の寝床代を支払い、札をもらった。男女で分けられているので、かなり離れた場所になっている。
「酒場をご利用になられるのなら、大浴場は無料でございます。勿論何度入って頂いても構いません」
受付のお姉さんにそう言われ、「大浴場……」とルミナは目をキラキラさせていた。
「今日は大分汚れたし……大浴場に行こうか」「はい!」間髪入れずに返事をしたルミナ。
「あ、お客さま、ローブや装備など瞬時に洗えてピカピカになる魔法洗濯機が脱衣所にございますので、有料。になりますが是非ご利用下さいませ」
「あ……はい」
有料っと言った時の圧が強かった気がする…。
浴場の入り口には、男湯・女湯を示す暖簾が揺れていた。
「ここが…男湯か、風呂から出たら出入口付近で待っているからゆっくり入っておいで」男の自分はルミナより風呂から上がるのは早いはずだろう。
「そんな……悪いですよ……っ、なるべく急ぎますから」
「良いって、飲み物でも飲んでるから」
「う……すいません。ヴァリオンさん」
ヴァリオンは少し緊張しながら、ふわりと揺れる藍色の暖簾をくぐる。
一方、ルミナは橙色の暖簾の向こうへと足を踏み入れた。
暖簾越しに、ちらりと向こう側が見える──互いの姿がぼんやり影になる程度だが、互いに視線を合わせないように背を向ける。
ヴァリオンが男湯の脱衣所に足を踏み入れると、簡素ながらも整頓された棚とフックが並んでいた。
壁際には小さな魔法洗濯機──ふたを開けると、ぽんっと衣服を放り込めば、くるくると魔法で洗われて、あっという間に乾く。
「え…宿代と同じくらいの値段じゃないか、これ…」
ヴァリオンは小さくつぶやき、手持ちのゴールドを数えながらため息をつく。
ふと脱衣所の隅を見ると、他の客たちは黙々と服を脱ぎ、棚に置き、浴場へと消えていく。
「よし、俺も…」
心の中で決意し、ヴァリオンは自分の衣服を魔法洗濯機に放り込んだ。
洗濯機の中で衣服がくるくると踊る様子に、思わず少し笑みがこぼれる。
あっという間に乾燥まで終わらせた装備一式が綺麗な状態になっていた。
「おおっ!アイロンをかけたみたいにピシッとしている!」
男湯に足を踏み入れると、湯気がふわりと立ち込め、ぽかぽかと温かい。まずは体を洗う。海の潮風やピラニクスの返り血で張り付いた汚れを念入りに落とす。
湯船に浸かり「ふぅ…やっと落ち着ける」と息を吐いた。
肩まで湯に浸かると、全身の疲れが溶けていくような感覚。思わず目を閉じて、息を整える。海と戦いと旅立ちの緊張を全部洗い流すように、湯を全身に感じた。
今回はヴァリオンとルミナの初めてのお仕事回でした!
海の魔物ピラニクスとの戦いは少し大変でしたが、2人らしい頑張りが書けたかなと思います。
次回は――女湯からのスタート!(笑)
お楽しみに!




