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黎明の誓い  作者:
18/46

トライデル港

「ヴァリオンさん、あの橋を渡って行くんですよ」

ルミナが指を指した方向を見ると海沿いに長い橋が掛かっている。


「へえ……気持ちよさそうだな?」


「はい!あの橋は師匠が結界を張ってくれてあります!早速行きましょう!」


「じゃあ、あの気味悪い魚と戦わなくて済むわけだ?」


「ですです!」と言ってルミナはピースサインをして、2人は笑い合った。


「行きましょ……!」

「ああ、引っ張るなよ……ルミナ」

ルミナがニコニコしてヴァリオンの腕を引くと2人は駆け出して行った。


 海風が二人の髪を揺らす。塩の匂いが混ざった潮風が肌に心地よく、ヴァリオンは思わず深呼吸した。ルミナは笑顔で隣を歩きながら、「この橋を渡りきれば港町です、気をつけてくださいね」


「ああ、ありがとう。結界があるなら安心だな」


ルミナの軽やかな足取りに合わせ、ヴァリオンも自然と歩幅を合わせる。木製の橋は少し軋むが、魔物避けの結界が光の輪になって二人を守っていた。波の音、遠くで鳴くカモメの声が、静かな旅の時間を彩っている。


橋を渡る途中、ヴァリオンはふと海を見下ろした。波が太陽に反射してキラキラと輝き、まるで水面に小さな星が散らばっているみたいだ。


「ルミナ……海って良いよな、なんだかホッとする」


「そうですね……私も海は好きです。だけど、こんな強風な日は髪も服もぐちゃぐちゃになってしまいますけどね?」

ルミナはにこりと笑いながら髪をかき上げる。その仕草に、ヴァリオンも髪がぐしゃぐしゃになってるのを手で確認して「本当だ」と言って笑う。


「…………」

広い海がどこまでも広がっている。ヴァリオンは静かに波を見つめ、胸の奥まで染み渡るような穏やかな気持ちになる。


ハラス・ヴォルトが来てからの日常の喧騒や戦いの疲れが、少しずつ薄れていく瞬間だった。


はたと我に返ると隣には柔らかく微笑むルミナ。

「あ……ごめん。足を止めてしまって」

「いいえ……私も海を見て癒されてました、少し眺めてから行きませんか?」

「…………ああ」


波の音と潮風だけが二人を包み込み、穏やかな時間がゆっくりと流れていった。


やがて、遠くに白い港の灯が見え始めた。

それが、トライデル港だった。




――トライデル港――――


やがて視界が開け、三つの海底トンネルを擁するトライデル港が現れた。

漁師たちの掛け声が港に響き、船が軋む音や網を引き上げる音が混ざり合う。

干し魚や新鮮な海鮮の香りが立ち込め、港の倉庫からは忙しなく人が行き交う。

小さな市場には、魚介を売る屋台や、加工品を手に取る人々で賑わい、活気に満ちている。


「うわあ――!大きな港町だな……」


「はい!中でもここは海底トンネルが通っていて、それぞれ、漁師用・商人用・一般用と用途が分かれているんですよ!船も歩きでも人が行き交う港町なんです」


「海底トンネル!!それはすごいなあ……」


「ええ、まず海底トンネルに向かいましょう!確か料金がかかった気がします……すると少し仕事をしてお金を稼がねばならなくなりますから」


「お金か……」パン屋以外で働いた事無いなと頭を掻くヴァリオン。


海底トンネル付近は人だかりができていた。

「わ……っわあ……っ」

人混みの波に押され、ルミナの小さな体はすっかり埋もれてしまった。


「ヴァ、ヴァリオンさーんっ!」

「ルミナ!」とヴァリオンは声を張り、咄嗟に手を伸ばす。


ぎゅっと小さな手を握った瞬間、ルミナをぐいっと自分の体に引き込んだ!


「!!」ルミナは思わずヴァリオンの顔を見上げた。

「わあ!?ご、ごめん…!」みるみる赤くなるヴァリオンはパッと離れた。

「いえ……助かりました……」

心なしかルミナの頬もほんのり色付いている。


二人は一瞬の間、背中を向け、少し離れて立ち尽くした。


握った手の温もりが、まだ離れた指先に残っていた。


ざわめく港町の中、二人は少しだけの時間がほんの一瞬、止まったようだった。



ーー海底トンネルへの列は延々と続き、やっと辿り着いた料金所で二人は息をつく。


「ふう…やっと…」

ルミナが料金表を見上げた瞬間、目が丸くなる。

「え…50ゴールド…?」

ルミナは思わず二度見してしまう。

「こんなに値上がりを!?以前は25ゴールドではありませんでしたか!?」

ルミナは警備員に話しかけると「ああ、先月辺りからかな?値上がりしたんだ、利用客が多すぎてな……中で居座っちまった奴もいてな……魔族も増えて来たから侵入しない様に、警備隊を増やしたんだ、その人件費さ」


「うちのパンだったら50個分か……」

ヴァリオンはパンで換算した。


とぼとぼと海底トンネルに背を向けて歩き出す2人。


「お仕事探さなきゃですね……」

「あ、ああ……仕事はどこで探すんだ?俺は自宅が店だったから……その……仕事を受注した事がなくて」

「ええ、ギルドに依頼書が貼ってありますのでそこで探します、まずはギルドに案内しますね?」

ルミナは胸をドンと叩き先を歩く。


 海沿いの賑やかな通りを抜けると、少し高台にギルドの建物が見えてきた。石造りの建物は威厳がありつつ、入り口には「冒険者ギルド トライデル支部」と彫られた看板が揺れている。風に乗って潮の香りと焼き魚の匂いが混ざり、街の活気を感じさせる。


扉を開けると、中は木造の温かみある空間。壁には様々な掲示板が並び、依頼の内容が紙に書かれ、誰でも確認できるようになっている。小さな子どもや若い冒険者、時には年季の入ったベテランもちらほら。ざわめきの中、ギルドの受付係が淡々と依頼人と話し、報酬の交渉をしていた。


ヴァリオンとルミナは足を止め、掲示板に目を向ける。

「護衛依頼…モンスター退治…海の魔物…」ルミナが小声で読み上げる。

「へえ……結構色々あるんだな……」


すると、漁師が困り顔でやってきた。

「最近、港近くの海域で魚の魔物が暴れてな…手伝ってくれる冒険者はいないか?」


掲示板に載っている依頼以上の緊急案件。ヴァリオンはルミナの手をぎゅっと握り、二人で深呼吸。


「よし、受けよう!」


ルミナも笑顔で頷き、二人は冒険の第一歩を踏み出した!

今回はヴァリオンとルミナの、のんびり海を眺めながら橋を渡って港町に到着するまでの穏やかな時間が、読んでくださった皆さんがほっと一息つける瞬間になれば嬉しいです。


次回も駆け出しの二人のほんわか旅と、ちょっとしたハラハラドキドキをお届けできるよう頑張ります!


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