迫る狂気の足音
今回、少しショッキングな描写があります。苦手な方はご注意ください。
ハラス丸が「使えん奴め」と吐き捨てた瞬間、アスティアの口元が無意識にひくひくと震えた。
その目は、怒りで燃え上がりそうで、でも必死に感情を押さえ込むように冷静を装っている。
ハラス丸が片手を振り上げ、嘲るように『いけいけ』とジェスチャーした。
その仕草に、アスティアの胸の奥で怒りが更に沸き上がる。
「……っ!では行って参ります!」
アスティアはナイトデビルの館を出てすぐに、むしゃくしゃしてベンチを蹴り、ゴミ箱を蹴り、暴れまくった!
「ムガアアアアア――――ハラス丸やろお――――――!!」
アスティアは怒りながらズカズカ大股に歩いてたら、見えない壁に顔をぶつけた。
結界を蹴り続けて声を張り上げた。
「ジャマだっつーの!!でらんねーし!!あー!むしゃくしゃするー!!あいつの雑用もその範囲内でしか行動できねーし!!」
アスティアは両足を高く蹴り上げた。
更に頭突きもして、結界に連続でガンガンと頭を打ちつける。
「くそっ、くそっ、くそっ!」
「ハラス丸の野郎――――――!」
空に向かって声を張り上げた!
すると、ふわっと結晶に乗った哀麗が空から現れて目が合った。
「…………ハラス丸に命じられてきたのかよ……」
「そんなところ……」
結晶からヒラリと身軽に降りた哀麗。
「な……っ、何しに来たんだよ、からかいにでもきたのかよ」
だがアスティアはあさっての方を向いて言葉を発している。
「…………?なんで目逸らしてるの?」
「――――――――っ!!」
地下牢でこいつの笑顔を見た時から顔を直視できない。
アスティアは、覗き込む哀麗からも更に、目を逸らすと、ポケットに手を突っ込んで口を尖らせた。
くっそ……なんで俺、こんなにちょろいんだよ…!!
頬は赤く染まり、心臓は跳ねるばかり。
視線を合わせる勇気なんて全然なくて、今は哀麗の全てが可愛く見えていた。
す、すまねえ――――――!
ヴァリオンー!!
天を仰いでどこかにいる親友に謝罪した。
哀麗はつられて空を見る。「?」謎の行動に首を傾げる哀麗。
「な、なんだよ……じろじろ見んなし!」
顔が赤くなるだろ!
つーかなんなんだよ!?かっ、かわっ、可愛すぎじゃねえか!こいつ!!
哀麗はじっとアスティアの目を見て、顔を近付けて来た。
アスティアはドキドキと心臓が脈打つ。
ごくり……と喉を鳴らす。
アスティアの視線は、つい哀麗の柔らかそうな唇や豊かな胸元に行ってしまう。
次第にそっとアスティアの耳元で哀麗は囁いた。
「…………っ!!」
「…………パルスには気を付けた方が良いわよ」
耳がゾワゾワした。
「…………っ!?は……っ?」
夢見心地になっていたアスティアは冷水を被った気分になった。
「それだけ……あんまり結界を刺激しない方が身の為よ?アスティアくん……」
そう言って哀麗は結晶を作り、乗り心地の柔らかそうな球体に乗った。
ふわっと空に浮かんでいく哀麗。
スカートが少し翻って、アスティアは屈んで中を見ようとした。
パンツ見えねーかな……。
不審な動きと、不埒な考えをチラつかせていたアスティアと目が合う哀麗。
「……ねえ、話聞いてた?」
呆れたように眉を顰め、ちょっと笑みを浮かべる哀麗。
「はっ……は、はいっ!」
慌てて顔を背けるアスティア。
思わず敬語になってしまう。
見惚れてしまった自分が恥ずかしくて、胸の高鳴りまで自覚してしまう。
「あ……?ああ?き、聞いてたよ!」
内心を見透かされた気がして動揺するアスティア。
「ふーん……」
「………………」
汗が止まらないアスティア。
「……えっちね」
小悪魔の様に微笑む哀麗にアスティアは顔を真っ赤にする。
「じゃ、忠告はしたからね」
と、飛び去って行ってしまった。
「バ……バレてたか……」
女ってのは視線で分かるもんだよな……。
「あ――――――っ!!!」
屈んで頭を抱えて頭をガシガシと掻き乱すアスティア。
寝ても覚めても、食事中も、仕事中もあいつの事が頭から離れねえ!!
よからぬ妄想まで…………。
そしてすうって思いっきり息を吸って……
「………………っ可愛すぎる――――――!」
アスティアはありったけの声で心の内を叫んだ。
――薄暗くなった頃。
アスティアはヴァリオンの家にある小麦の小屋に行く。頭を撫でてやり餌を与える。はぐはぐと食べ進める小麦。
小麦が寝ていた下には割れない大皿が敷かれていた。
「よほど気に入ったんだな!?冷たくて気持ちいーのかあ?こむぎ!」
「わん!!」
「早く町を元に戻してやるからなー?したらヴァリオンも帰って来るからな?」
頭をそう撫でると尻尾をフリフリしている小麦。
「……お前が洗脳されずにこうして元気にいるお陰で今日も耐えれるよ……小麦」
普段は洗脳された住民やハラス・ヴォルト達に気を張って、肩の力も背中の張りも抜けない日々。
でも小麦の柔らかな毛に触れると、肩の力がふっと抜け、背中が軽くなるのを感じた。
アスティアにとっては、ほんの一時だけ、息をつける時だった。
後は……哀麗の姿が浮かび、ポーッとしていると頭を振り考えを振り払う。
アスティアは裏口から厨房に入った。
そして、摩訶不思議小麦粉をボウルに取り台にバン!っと、乗せた。
ヴァリオンの家の手前にある。誰もいないパン屋の厨房。随分宿主がいないだけで雰囲気がガラリと変わる。
アスティアは小麦粉を手に取り、コネコネと生地を捏ねては焼いていた。
丸に、瓶の形、壷の形、ドーナツ型などを作って見た。焼けるまで待つアスティア。
毎晩試行錯誤しているが、跳ねたパンばかりが出来る……。
何故なんだ!?
丸…やけに弾むボール?
壷…ゴンゴン転がる何か。
瓶…ピョンピョン跳ねている何か。
ドーナツ…輪っかがクルクル回りながら跳ねてる。
「何でだああああ――――!!」
これじゃあ全部おもちゃだ!!
ヴァリオンは剣やブーメランも作り出していたのに…。
「めげねえぜ!まだだあー!」
「ぎゃあー!?何で跳ねんだよ!?」
小麦はアスティアの声が聞こえ、首を傾げていた。
――夜になり、路地を歩くアスティア。
「はあ……なんかできねえもんかな……」
失敗にめげているアスティアが歩く先わ月明かりが細く石畳を照らす。
…ふと足を止める。
――影。
自分のものとは違う、もう一つの長い影が、地面に伸びていた。
それはゆらりと揺れ、まるでアスティアを見下ろすように覆いかぶさってくる。
アスティアが顔を上げると、
教会の尖塔――十字架の真下、月を背にして誰かが立っている。
誰だ……?女……?子供……?
ふとした風が吹き抜け、月光が一瞬だけ影を伸ばした。
1人の少年が立っていた。
いつもはフードを被っていたが今は顔を出している……。
「……パルス?」
答えはない。
ただ、月光に照らされたその顔が、狂気じみた笑みを浮かべた。
唇がゆっくりと吊り上がり、
その瞳はまるで人ではない何かのように光を宿していた……。
ぞくり、と背筋が凍る。
何か――人間ではないものを見ている気がした。
「お前、なんでそんな顔してんだよ……」
言葉が震えた。自分でも分かる程に……。
パルスはその言葉を無視するように、首を傾けた。
月光が頬を滑り、歪んだ笑みがさらに深くなる。
パルスは羽の様に軽やかに、石畳にふわっと降りて、アスティアに歩み寄った。
「アスティア。……ねえ、なんで?なんで?なんで?」
「は……?な、何がだよ」
「なんでぇ?なんでぇぇぇえ!?うあああああああ――ヒャハハ……ヒヒ……ははは……」
叫びと笑いが混じり合い、夜が歪んだ。
アスティアの心臓が、一つ脈打つ。
(やばい――こいつ、まともじゃない……)
パルスは、なおも「なんで」を繰り返していた。
声が掠れ、息が笑いとも嗚咽ともつかない音に変わる。
次の瞬間――
ふっと力が抜けたように、肩がだらりと落ちた。
首も、糸の切れた人形のように傾く。
月光に照らされたその顔からは、感情というものがすっかり抜け落ちていた。
ただ、微かに口角だけが吊り上がっている。
笑っているのか、壊れているのか、アスティアにはわからなかった。
「お、落ち着いた……のか?お……おい……どうした?」
僅かに安堵したその瞬間、パルスが顔を上げた。
狂気に濁った瞳がまっすぐアスティアを射抜く。
唇がゆっくりと歪んだ。
「――あたま……壊れてるよ?」
ぞくりと背筋を冷たいものが走った。
「ばんっ」
その声と同時に、パルスの人差し指から弾丸が発射され、アスティアの視界に光が走った。
パルスの指先から、アスティアの額に向かって来た。
「え……?」
瞬きする間も与えず、弾丸が無情にもアスティアの脳天を貫いた……。
血の感触、脳を突き破る強い衝撃、熱い痛み……
視界は真っ赤に染め上がった……。
アスティアはその場に後ろに倒れた……。
瞬く間に血の海に沈むアスティアの後頭部。
「あは……あはあは……ヒャハハハ……アスティア……アスティアアア……!」
それを見てパルスは狂気じみた笑い声をあげていた……。
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回パルスの狂気を張り切って出してみましたが苦手な方いたらすいません。伝わりましたか?(^^;;
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