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黎明の誓い  作者:
13/46

地下牢に灯る明かり ― 哀麗とアスティア

館の地下牢。ひんやりと湿った空気が石壁を這う。


カツン……カツン……。

石畳に冷たく響くヒールの音。


地下牢の湿った空気を切り裂くたびに、アスティアは彼女が近付いて来る事を意識した。

鉄格子の向こうに現れたのは、―哀麗。

手にはトレイを持ち、湯気の立つ皿が一つ。



「…今日も来てくれたのか」

アスティアは鉄格子越しに声をひそめる。内心では少し安堵していた。


「ええ…冷めないうちにどうぞ」

トレイを鉄格子の下から差し出してアスティアは待ってましたと言わんばかりに受け取った。


昨日と同じように、ガツガツと平らげた。


アスティアが鉄格子越しに膝を抱えて座ってる哀麗の後ろ姿に声をかけた。


「なあ…お前、ハラス丸に何か握られてるのか?」


哀麗は少し顔を伏せて、戸惑いの色を浮かべる。

「…そんなこと、ないわよ」

小さく首を振るとイヤリングが軽く揺れた。


アスティアは少し身を乗り出して、優しい口調で続けた。


「悩みがあるなら、聞くぜ?俺に話せることなら、なんだって聞いてやる!!」

親指を自分に指すアスティア。


「…………」


「ヴァリオンの事も……心配で様子見に行ったんじゃ……ねえのか?」


「…………」

哀麗は膝を抱えたまま黙っている。


「お…おい……?」

もしかして泣いてるのか?


クルッと振り向く哀麗。その美貌に一瞬戸惑うアスティア。


「…分からないの……でも」


「小麦くんに触れるたび、忘れていた気持ちを思い出す気がするの……今こうして食事を届けている、それも何か意味がある気がするのよ。それに、アスティアくんの食べっぷりは見ていて気持ちがいいのよ?」


アスティアは鉄格子越しに哀麗の膝を抱える姿を見て、わずかに笑った。


「なんか難しい事はよくわからねーが……お前…いい奴、なんだな」


哀麗は顔を伏せたまま、耳を傾ける。



「正直、澄ましてるだけの姉ちゃんかと思ってたけどよ?いい奴じゃん!」


その言葉に、哀麗の唇が僅かに動く。


その言葉と共に、ニカッと笑うアスティア。


思わず哀麗はフッと息を漏らした。

肩の力が抜け、僅かに気持ちがほぐれた。



「…そう…かな」

髪を耳にかけ、伏し目がちに微笑を浮かべた。



「そろそろ行かなきゃ」

立ち上がりアスティアの方を向くと髪が揺れ、花が舞ったかの様な可憐さだった。


「お…おお…」

アスティアは思わず目で追った。


「今の、ちょっと見直しちゃったかも……」

哀麗の素直な笑顔は一輪の花が咲いたかの様に愛らしく澄んでいた。


その言葉を残し、哀麗はそっと立ち去る。


地下牢には、わずかな温もりと、静かな空気だけが残った。



 アスティアはしばし呆然と立ち尽くす。

そして、誰もいなくなった事を確認すると、思わず口元が緩む。


「か…可愛いじゃねえか…」


思わず頬が赤くなる。

一人でこっそり、照れ隠しのように頭をかく。


 

 ーー1週間、地下牢で過ごしたアスティアは、毎日の哀麗の食事運びと言葉を交わす事で、心を保っていた。


だが、閉ざされた空間での孤独と、不自由かつ陰気な空気にため息ばかりが出る。


ーその日の午後。

鉄格子の向こうに、ハラス丸がゆっくり姿を現した。


「アスティアよ…そろそろ話そうか」

声は穏やかだが、底知れぬ威圧感が漂う。


アスティアは体を硬くする。

「……なんの用だ?」


「そう構えるな」

ハラス丸はにやりと笑った。


「お前の力は無駄にはしたくない。このまま何も出来ないまま地下牢で転がっていては可哀想だ、わしの部下になればここから出してやろう」


その言葉には甘さも含まれていた。だが明白な脅迫だ。


アスティアの心は怒りと葛藤で揺れる。

(クソッ…こんな奴に従うなんて…)


鉄格子越しに目を逸らす。



ハラス丸は一歩近づき、低い声で続けた。

「命令に従えば、自由に動ける範囲も増える。嫌なら…死ぬだけだぞ」



アスティアはしばらく黙って考えた。


心の中では、ヴァリオンの帰還や町の取り戻しを強く願っている。


(生き延びなきゃ…まずは生き延びなきゃ、何も始まらねえ…)


やがて、アスティアは顔を上げ、微かに歯を噛みしめる。

「……わかった。お前の部下になる」

声は低いが、強い意志がこもっていた。


ハラス丸は満足げに頷き、微笑む。

「よかろう…これからのことは楽しみにしておれ」


アスティアの胸の奥で、怒りと決意の炎が再び燃え上がった。


(絶対に、あんな奴に屈しない。町も、仲間も、取り戻す…!)


――アスティアはぼんやりその時の事を考えていた。

結界魔法からは外には出られないし。


何よりヴァリオンがいない今何をしてもつまらない。


――アスティアは今日もハラス丸に従い愛想よく振る舞った。


「では!行ってまいります!」


 パルスは眉をひそめ、忠実なふりをして部屋を出ていったアスティアを見送っていた。


(アイツ……僕の精神魔法が効いていない……結界魔法は効いている……僕の精神魔法だけが効かないのかな……)



唆るなあ…。

そういう人、壊したくなっちゃうんだよね……。


パルスはフードの奥で笑みを浮かべた。


フードの奥では闇に沈む瞳がかすかに光を帯びる。


「……アスティアか…見つけた」


まるで獲物を見つけた捕食者のように、喉の奥で笑いが漏れた。


それは歓喜でも、怒りでもない。

ただ、久しく触れていなかった“おもちゃ”を前にした、純粋な好奇心――狂気に似た笑みだった。

最後まで読んでくれた方々ありがとうございます!


今回はアスティアと哀麗の静かな時間…と思いきや、最後には不穏なパルス登場。


次回はさらに、彼の“狂気っぷり”を上乗せしたいと思います!(アスティアくん、がんばれ…!)


もし少しでも続きが気になったら、ブクマや応援などなどしてくれると励みになります!


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