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黎明の誓い  作者:
12/46

忠誠の盾と儚き華

 館の扉が重々しく開く。冷たい風が廊下を走り抜け、室内の空気をかき混ぜた。

その先に立つのは――短く切り揃えられた髪のアスティア。


以前の少年らしい面影は残しつつも、どこか凛とした、ひり付くような雰囲気を纏っている。


「来たか……アスティア」

声の主、ハラス・ヴォルトの目がアスティアを鋭く射抜く。


「はい!」

アスティアは言葉少なに頷く。

手にはわずかな緊張が走り、指先が微かに震れる。だが、表情は微動だにせず、まるで自分の意思など捨て去ったかのように整っている。


「さあ、今日も任務をこなせ」


ハラス・ヴォルトは、右手を開いてアスティアに向けた。腕にかけてある、魔力のオーラが漂う数珠はジャラジャラと音を立てていた。


ハラス丸の命令が静かに、しかし重く館内に響く。


「この町の食料・資源を全てわしに献上せよ!アスティアよ、門で受け取り、足りなければどんな手段を使ってでも更に搾り取るんだ!良いな?」



「仰せのままに……」

膝をつき体を震わせるアスティア。


目の前の命令――屈辱と覚悟が入り混じった任務を前に、アスティアの心は燃えていた。

外見はにこやかにしているが、その胸の中はブチギレ状態。今にも火花を散らしそうな熱を秘めている。



身に纏っている物は全部ハラス丸から支給されたものだ。マントは赤を基調にし、黒の縁取した内側は少し暗めの赤がひらりと揺れる。背中にはコウモリのマークが入っている。

トップスは、黒ベースに赤の模様や装飾がある。ブーツは膝丈で黒。

赤のベルトや紐でアクセントになっている。手袋や小物は黒で統一、指先や手首に赤のラインが入っている。


 リュミールホテルは改築され、ハラス・ヴォルトの棲家、通称「デビルナイトの館」に変更された。

魔法文字で浮かぶ看板が掲げられていた。手招きするハート型の翼を持ったコウモリの映像が浮かんでいた。


「ちっ……」こんな服に館……センスが悪過ぎて吐き気がするぜ……。


 町を見渡せば、ハラス丸なんかの為にあくせく働かされる住民たちの姿が目に入る。


今日も館の入り口には長蛇の列。献上品の山が並び、疲れ切った町人たちの表情には憂いと諦めが交錯していた。


「ふざけんな…」アスティアの心が熱くなる。


毎日毎日同じ命令ばっかしやがって!

いや、俺だってこんな命令、受けたくねえ!

それでも俺は今、ハラス丸の命令を遂行するふりをしなければならない!



献上品を受け取るアスティアは無表情でご苦労さんと声をかける。正気の無い住民達は献上品をアスティアに渡しては働き、また渡しにやって来る……。


しかし心の奥底では、怒りと憎悪が渦巻き、指先が小さく震えていた。


また町人がやって来る。目は虚ろで、無表情。魔法で操られているのがわかる。

体力自慢の牛飼いのおやっさんと、昔は偉い王様の護衛だったらしい大工のおっちゃんだ。


「ちっ……」再び舌打ちをして、献上品を受け取る。


「見回りに行って来ます!」にこやかに他の門番に声をかけて颯爽とマントを翻しキビキビと歩み出す。


内心、今にも血管はブチギレそうである。

(ハラス丸のやろぉぉぉぉ――――偉そうに指図してんじゃねえええー)


絶対に俺はこの町を取り戻してやる…!

あんな奴に屈しない!諦めねえ!絶対に!



――数週間前、ヴァリオンを始末したとブレイブがハラス丸に報告しているのを聞いた。


目の前が真っ白になった……。

唯一無二の親友だった。


「ハラス・ヴォルト様……ヴァリオンを始末してまいりました……」



「よくやったな、ブレイブ。お主程忠実な者はいない」

「お前は忠実だ」「お前がいなければ私は困る」

その偽りの報告にハラス・ヴォルトからは甘い言葉をかけた。



「う……嘘だろ!?てめえ!!」

涙が溢れ、喉が詰まる。全身が震え、拳を握りしめるが、抑えられない怒りと悲しみが胸を締め付ける。


唯一無二の親友を…よくも……!


涙が溢れて来る。だが屈強な町人達に抑え込まれて身動きが取れない。


ハラス丸はアスティアを無視して、微笑を浮かべ、低い声でブレイブに話を続けた。

「だが、忘れるなよ――裏切るな。わしを、わしのために忠誠を誓ったんだからな?ブレイブ……」


一瞬ブレイブの体が揺れた。


「………………?」

アスティアは違和感を感じていた。

ブレイブの奴……何か隠しているのか?


ハラス丸に忠誠を誓った?どういう事だ……。

哀麗もパルスも沈黙を守っている。

パルスは分からねえが、哀麗の方は目を伏せて浮かない顔をしている。


「のう……?ブレイブ」


ブレイブは――はい……。

その言葉と微笑みに、目の奥の光がスッと抜け落ちる。

理性も疑念も、いつの間にか消え失せ、ただひたすらに忠誠を誓う姿だけが残っていた。


アスティアは館の地下室に作られた牢屋に入れられた……。


なんなんだ……?ブレイブの奴……ハラス丸に好きで従ってる訳じゃ無いのか?


 地下牢の薄暗い空間で、アスティアは天井の石のひびをぼんやりと見つめていた。ひんやりと湿った空気と、遠くで響く水滴の音だけが、静寂を破る。腹は減っていたが、支給される食事は最低限。


心の奥には、ヴァリオンが始末されたという報せが耳に入ったときのことが、頭をぐるぐると駆け巡る。


そのとき、かすかな物音が聞こえた。石の床をそっと踏みしめる足音――

「…誰だ?」アスティアは身を固くした。


影の中から、細い手が差し伸べられた。小さな皿に乗せられた食事が、光を受けてちらりと輝く。


「…食事……足りないでしょ、食べて」

そこに現れたのは、哀麗だった。彼女は目を伏せ、慎重にアスティアに近づく。


アスティアは息を呑んだ。

「お前…なんで…?」驚きと安堵が入り混じる。


「別に……食べ盛りだと思って」  


「あ、ありがてえ……」

アスティアは皿に乗った食事をあっという間に平らげた。


アスティアは鉄格子をぎゅっと掴んで「頼みがある!」と哀麗に詰め寄った。   


「な、なに……?」 


「ヴァリオンの家がパン屋なんだけど、その奥に犬がいる!そいつに餌をやって来てくれないか!腹空かせてるはずだ!」

と、必死に頼むアスティア。


「せめて……あいつだけは……」

ヴァリオンが死んだ今アスティアには小麦しかいなかった。


「…………いいわよ」と哀麗は承諾。 


「本当か!?ありがとう!」  


「じゃ……行って来るわね」

と哀麗は立ち上がった。


「…………」ホッと胸を撫で下ろすアスティア。だがヴァリオンを失った精神的なダメージは大きい。


「…………ヴァリオンくんは生きてるわよ」

哀麗の口から発せられた言葉にアスティアの目に輝きが戻る。


「な……なんで……わかるのか?お前」


「……見てたから」


「な……っなんで」

何で助けてくれなかったんだと喉から出かかったが、こいつは敵だったと認識を改めた。


「……それだけ。明日も来るわ」


その言葉に、アスティアはキョトンと立ち尽くしていた。



 哀麗は早速ヴァリオンの家の裏にいる小麦の元にやって来た。

小麦は哀麗を見るなりはしゃいで歓迎した。


「よしよし……」

トレイにはまだ残っていた餌があった。


「今日もかわいいね……小麦くん……」

小麦は哀麗に抱っこされ尻尾をふりふりしている。


すると涙がツッと流れ落ちた……。


小麦が涙を舐めとって無垢な顔を向けて「くすぐったい……」と哀麗は笑った。


「わん!!」っと小麦は返事するように吠えた。


「小麦くん…ごめんね…私、あのくらいしかできなくて…」

声にならない声が喉から漏れ、膝を抱えたまま体を小さく揺らす。

涙がぽろぽろと溢れ、髪の毛や肩に滴り落ちる。


息が詰まり、胸が締め付けられるように痛む。

目の奥が熱くなり、嗚咽をこらえきれずに小さな震え声が漏れた。


小麦が不安そうに鼻を鳴らして寄り添う。

その温もりに、哀麗は少しだけ落ち着きを取り戻すが、涙は止まらない。

膝を抱えたまま、ひっそりと泣き続けた。



今回のお話も最後まで読んでくださり、ありがとうございます。


アスティアや哀麗の姿を書きながら、私自身も「心が折れそうなときでも、誰かの優しさや小さな光に救われる」という気持ちを思い出しました。


読んでくださった皆さんにも、ほんの少しでもそんな温かさを感じてもらえたら嬉しいです。


次回も、アスティアや仲間たちの心の動きに寄り添いながら、物語を紡いでいけたらと思っています。


※明日は休みのため更新はお休みします。

次回は明後日更新予定です。お楽しみに!


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