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黎明の誓い  作者:
11/46

旅立ちの夜明け ーヴァリオンとルミナ

ヴァリオン……少しは落ち着いたかの……」


「はい……」

ヴァリオンは静かに腰を下ろし正座をした。

まだ胸の奥にはハラス・ヴォルトへの怒りが残っている。言葉にできない苛立ち、ただただ奴が許せない。


だが、少しずつ呼吸を整え、頭を冷やすように心を落ち着けていく。

(怒りに任せて行動しても、何も解決しない…前に進むんだ……!)

少なくとも、ヴァリオンの中で前に進む覚悟だけは固まった。


「うむ……では祭壇に向かうにはここからは長い旅になるだろう……そこでルミナを同行させては貰えぬだろうか……ルミナは善の心を持っておる。黎明の誓いの1人になれるであろう」

「え……それはすごく助かります!」

「うむ……まだ駆け出しの子じゃが2人で力を合わせて困難を乗り越えるのじゃ」

「は、はい!」


「今日はぐっすり眠り、明日の朝から出発するが良い。わしからお主に初心者用の騎士の装備を与えよう……ルミナを頼んだぞ?」

「わ、分かりました!」


 ヴァリオンはルミナの部屋をノックした。

「あ、はい……どうぞー」

「は、入るよ……?」

ヴァリオンは遠慮がちにドアを開ける。


ルミナの部屋は、窓から差し込む光がやわらかく反射する、白と水色を基調とした静かな空間だった。少し消毒液の匂いがした。

棚には整然と本が並び、薬草が干されていて、机の上には瓶やメモが貼られていた。


「すいません、散らかっていて、明日の準備をしていて……」

「こんなに?」

ルミナの目の前には、寝袋や小型ブランケット。保存食やスナック類。薬・応急セット。ライト。本や日記帳。小銭・鍵・身だしなみ用品などが並べられていた。


「あ、着替えや、替えのローブも持って行かないと……」

「す、すごい量だね……ルミナ」

やはり女の子は男に比べて荷物の量が違う……。

「はい!でもご心配なく、これに入れますから」

ルミナは小さな可愛らしい巾着袋をじゃんっと見せてきた。

「これは……?」

「これはですね魔法の袋なんですよ!旅のお供には欠かせないアイテムなんです!ご覧あれ!」

ルミナが1番かさばるであろう寝袋を魔法袋にピタッとくっ付けると、袋がぷくっと膨らみ、次の瞬間には元の大きさに戻る。寝袋は一瞬で魔法袋に吸い込まれていった。

「え!?き、消えた!?」

「中を見てみて下さい」

「え……吸われないだろうな……」

「ご心配なく!」


ヴァリオンが中を恐々と覗くと寝袋は元のサイズで存在していた。

「えっ?す、すごいな!どうなっているんだ」

「はい!この中は別空間になっていて、外からは重さは全く感じません!でも中にはちゃんと入ってるんですよ!」

「へえ……すごいな……で?取り出す時はどうするんだ?」

「はい!念じれば良いんですよ!ヴァリオンさんもお荷物あれば一緒にしておきますよ」

「ああ……ありがとう」



ルミナはニコニコと魔法袋にあれよあれよと言う間に全てを収納し終えた。

「制限とかはあるのか?」

「ありますよ!確か重さが200キロまでだった気がします」

「へえ……大分入るじゃないか……」

「はい!発明してくれた方には感謝しかありません!!」


さっきまでハラス丸のことで苛立っていたはずなのに、ルミナの笑顔を見ていると、胸の奥のざらつきが少しずつ溶けていくのを感じた。


「なんか……すごいな?」

「はい!魔道具ってすごいですよね!」

「ははっ」

「?」

ヴァリオンはルミナを讃えたのだが、少々言葉足らずだった様だ………。


2人はルミナの部屋で談笑をしていた。

「この魔法袋、めっちゃ便利じゃないか!」

「えへへ、掘り出し物だったんですよ!」


ルミナが笑いながら魔法袋をぽんぽん叩いていると、

背後から低い声が落ちてきた。


「――ちょっといいかい?2人とも」


「は、はい!もちろんです!」

ルミナは椅子を用意してそこにゆっくりと腰をおろす師匠。

ヴァリオンとルミナは自然と正座をする。


古びた羊皮紙の地図を手に眉間に皺を寄せている。


師匠はゆっくりと机の上に地図を広げた。

紙の端は焼け焦げ、古いインクが滲んでいる。


「……行き先を、改めて確認しておこう。

黎明の祭壇についてじゃ……」


ルミナとヴァリオンの笑みがすっと消える。

空気が、ひやりとした静けさに変わった。


「ここが君たちの目指す場所――黎明の祭壇だ。」

師匠の声は低く、しかし部屋中に響くように堂々としていた。

「北大陸に位置する、暁光山脈。その最奥。雲海に覆われ、年に数日しか光が差さぬ高みに存在する。古代の神々が最初に太陽を呼び覚ましたと伝わる場所――それが黎明の祭壇だ」


ルミナは息をのんだ。

「雲より高い……断崖の上……」

ヴァリオンは眉をひそめ、指で道をなぞる。

「なるほど……この山を越えるのか。」


師匠は一瞬目を閉じ、静かに続けた。

「祭壇の光が、君たちの誓いを試す。

石造りの階段、崩れかけた橋、そして風の精霊たち――道は容易ではない。だが、そこに立てば、初めて太陽の力と、黎明の誓いの意味を知ることになるだろう」


ルミナは小さく息をつき、ヴァリオンは地図を見つめたまま唇を引き結んだ。

二人の前に広がるのは、ただの山ではない。

古の神秘が眠る、天空に浮かぶ試練の道だった。


師匠は静かにうなずき、目を二人に向ける。

「覚悟はいいかい?ここから先は、お主達自身の力と決意だけが頼りだ……」


「は、はい!」

2人はそう返事をした。


「良い返事じゃ……」師匠は地図を広げたまま、静かに微笑み視線を二人に向けた。

ごくり……と小さく息を呑むルミナとヴァリオン。

その空気を味わいながら、師匠はゆっくり口を開く。


「うむ……では、目先の目的を示そう……まずは魔力の渦を抜け、トライデル港にある海底トンネルを進むのだ。その先には人の住む都市がある。人口も多く、活気に満ちておる」


師匠の指先が地図上の都市を指す。

「そこでは、仲間を探すもよし、路銀を稼ぐもよし、情報を集めるもよし――じゃ。

まずは目の前の道を確実に進むこと。覚えておくのだ」


ルミナは地図をじっと見つめ、小さく頷いた。

ヴァリオンも無言で、次の行動を思案している。

険しい山脈の祭壇も、まずはこの都市までの道程を越えねばならない。


「期待しておるぞ?2人とも……」師匠はそう言い残し、地図を丸め、辛そうな体を起こし、静かに部屋を後にした。


二人に残ったのは、旅立ちへの決意と不安と、そして少しの期待だった。



――――翌朝ヴァリオンは夜明け前に目覚めてしまったのでトレーニングをしていた。

……今日はいよいよ旅に出る日だ。


「俺…本当に、出来るだろうか…」

心の奥で問いかける声に、答えは返ってこない。旅立つ決意はしたはずなのに、仲間のこと、リュミールのこと、守らなければならない物の重さが胸にのしかかる。


けれど、ほんの少しだけ希望もあった。この旅で自分は成長できるかもしれない――仲間と助け合いながら、強くなれるかもしれない――。その思いが胸をぎゅっと押す。


ヴァリオンは砂浜に座り、じっと夜明け前の静けさを味わった。遠くで鳥のさえずりが聞こえ、夜が明ける前の空気が少しずつ柔らかくなる。

深呼吸をひとつ。目を閉じると、決意の火が小さく心の中で灯る。


夜が明けていく……太陽の光が顔を温かく撫で、決意を背中に押してくれるようだった。

「…………頑張ろう…!」

小さな声に、自分自身への励ましを込める。今日、この一歩から、俺の旅は本当に始まるのだ。


――――リビングでいつものお茶を啜っている師匠の前に座るヴァリオンとルミナ。


「これを使いな」

杖をシュンっと振ると、剣と盾が現れた。

「うわあ――!?」

「初心者用の剣と、リフレクトトレイの初心者用の盾だ。剣は斬撃も出せるし、盾は少しの魔法なら跳ね返す事が出来る。少々荒く使っても壊れやしないよ」

「あ……ありがとうございます!」

剣を手に取ると割と軽い。長さは標準的な騎士剣だ。刃は淡い青の光を帯びている。


盾も青系の光沢が入っている。魔力を帯びると表面に波紋のような光が広がる様だ。

丸型でシンプルで軽量だから持ちやすい。


デザインは剣と合わせてあって、青い紋様が剣と盾並ぶと光で共鳴する。

「カッコいいですね!ヴァリオンさんによく似合ってます!」

「そ、そうかな……?」

剣と盾を構えて見るヴァリオンだが、師匠の目が冷たい。

「あ……あの?」

「ヴァリオン、立ってみい、服も出してやる」

「あ!」そう言えばルミナが用意した寝巻きだった!!


師匠は軽くほいっと杖を振った。


「おお……!」

色合は深い青を基調に、白や銀の差し色。清潔感と凛々しさを感じさせる。

騎士用のタイトなジャケット風。胸元には簡易の紋章刺繍も付いている。

肩と腕に軽い革の補強があり、動きやすく丈夫。

黒に近い濃紺のパンツ。膝のあたりに補強布。

マントは短めで邪魔にならない、内側は淡い水色。風が吹くとちらりと見えて爽やか。

ブーツは膝下までの革製。剣と盾に合わせて銀の飾り留めがついている。


「気に入ったかい?まあ全部初心者向けだから替えが欲しけりゃ何処かの町で売るなり買うなりして後は好きな物を手に入れな」

「とても気に入りました!」

「騎士様って感じでステキです!」

ルミナにパチパチと拍手され照れるヴァリオン。


「気をつけるんだよ、2人とも」

「は、はい……」「はい!」


 ――海辺に立つヴァリオンとルミナ。潮風が頬を打ち、波の音が絶え間なく耳に響く。

「さあ……そこに立ちな」

師匠が指先を空にかざすと、2人はふわりと浮かぶと気付けば渦の上に浮いていた。


ヴァリオンは、眼下の景色に息を呑んだ。

眼下に広がるのは、底が見えぬ魔力の渦。青白く淡く光る渦は、螺旋を描いて中心へと吸い込まれていく。

光の粒が踊るたび、ヴァリオンの影や服に反射して、まるで生き物のように蠢いている。


「ここに…入るのか…?」

身体の芯から冷たいものが這い上がる。風がヒューッと唸り、海水がゴォォと渦に巻かれて落ちる音が聞こえる。

心臓がドクン…ドクン…と脈を打ち、目の前の美しさと恐怖が、言葉にならない圧迫感を生む。


ヴァリオンは小さく身をすくめ、渦の中心に吸い込まれる自分を想像する。

その光の中で、自分は一体どうなってしまうのだろう――。


「気をつけろ…!」

「はい!」ルミナはそう返事をした。

心の準備もままならないヴァリオンは、踏ん張るが、体は魔法によって落下していき、渦に吸い込まれる。


波に押され、回転する海水に包まれ、目の前が暗くなる。


 そして一瞬の眩しい光。渦を抜けると、目の前には見知らぬ陸地の水平線が広がっていた。

まずは11話お読みいただきありがとうございます!

ついにヴァリオンとルミナの旅立ちの時がやってきました。

これから二人は様々な経験を重ね、仲間や新たな出会い、困難に直面しながら成長していきます。


次回はヴァリオンの故郷リュミールのお話になります!明日夕方に更新予定ですので、楽しみにしてくれると嬉しいです!


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