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黎明の誓い  作者:
1/4

リュミール

初めまして、初投稿です!

至らない点もあるかと思いますがゆるりと楽しんで頂ければ嬉しいです。

「ヴァリオン!おつかいたのむよ」

町のパン屋である主人は息子であるヴァリオンに買い出しを頼んだ。

黒髪に優しげな端正な顔立ちに少し痩せ気味な息子にいつも口うるさく食べることを注意しているが、体格は変わらずだ。

自分は食べたら食べた分以上に脂肪がついてしまうと言うのに……。

「何買ってくるんだ?」

ヴァリオンは庭でペットである小麦を撫でながら、穏やかな笑顔で頼まれた。

悪戯っ子な小麦は、母の声がするとすぐにヴァリオンの足元に隠れてしまう。

昨日も母のお気に入りのサンダルを齧ってしまい、こってりと絞られた様だった。


「アスティアの所に行けばわかるよ!」

「ふうん……?」

アスティアとは、ヴァリオンの親友である。金髪に元気はつらつとした賑やかな性格の青年だ。


 ヴァリオンはリュミールの町を歩き出す。

リュミールは緑豊かな平原の中央にある町で、周囲に小川や森が点在して、四季折々の風景が美しい。

人口は数千人規模で、住民は農業・工芸・商業に従事。温和な性格が多く、互いに助け合うコミュニティがとても気に入っている。

木造や石造の低めの建物が並び、中央広場には噴水や市場がある。屋根は赤やオレンジで統一され、温かみのある町並みだ。

商店街に入ると、ハーブや花を使ったジャム・お菓子のいい匂いが漂う。

手作り陶器や木工品もずらっと並ぶ。

清流で育てた魚や川エビも活きが良く、新鮮だ。

朝市や季節祭りが盛んで、町民は皆平和を重んじる民族だし、音楽や舞踏のイベントが多く、リュミール音楽祭もある。

大型倉庫も点在し、物資を管理するには困らない。

教会や集会所にも活気あふれる住民が集まって和気藹々と過ごしている。

町門・見張り塔もしっかりとしていていざとなったら町の出入りを封鎖して敵の侵入を防げる。


 

 街を眺めなつつものんびり歩いている内に、目当ての店に着いた。

その中で1人、親友のアスティアはつまらなそうに店番をしていた。

アスティアの家は雑貨屋だ。魔道具なんかも揃っていて変わった品物ばかり陳列されている。

•小さな光る石:触るとほんのり温かくなる。

•音を増幅する小さなラッパ:吹くとちょっとだけ小動物が反応。

•魔法の砂時計:時間をほんの少し遅く見せる

•ミニチュアの風車:回すと小さな風が吹く

•魔法の香炉:焚くと香りでほんのり元気になる

などなどが店に並んでいてヴァリオンは誰が買うんだろうか…と、視界に入れながらレジに近付く。


「やあ、アスティア。随分と態度の酷い店員だな?」

ヴァリオンはアスティアをやや茶化すとアスティアは目を輝かせて飛び跳ねた!

「ヴァリオンじゃねーかあ!ちょーど退屈してたんだよ!」

アスティアは飛び跳ねるのが昔からの癖だ。

「ちゃんと真面目に店番しないと怒られても知らないぞ?」

ヴァリオンはまたもやアスティアを茶化す。店の店主であるアスティアの父は今品物入手のために旅路に出ていた。

筋骨隆々のアスティアでも顔が真っ青になるくらい怖い親父さんだ。


すると何やら町の外が騒がしい。

「なんだ?」

ヴァリオンが呟くと「ああ、なんか異国から来たらしい観光客が来てんだよ、もの珍しいんじゃねーか」とアスティアはまた退屈そうに店番を再開した。

「異国……?住むには最適だが、観光する名所なんかあっただろうか…?」

ヴァリオンはそう俯瞰する。

「知らねー何か建てようとかしてんじゃねーか?でっかいカジノとかよ!」

アスティアは身を乗り出して、あれやこれやと願望をならべ目を細めニコニコしていた。

「あ……母さんから何か頼まれてなかったか?受け取りに来たんだけど」

ヴァリオンは用事を思い出しアスティアに尋ねた。

「ああ、これだろ?」

アスティアはなんの変哲もない大皿を出して見せた。

「普通の皿じゃないか……」

「いんや!違うな!」

「何が……?」

ヴァリオンはくるくる回して皿を確認するが別に変わった品物では無さそうだ。

「その名も!割れない大皿ああああんあ――」アスティア持ち前の声量と近くにあった太鼓を叩き、やけに調和のあった紹介をしてくれた。

「………………ふうん、まあ店に置くにはいいかもな」

ヴァリオンはやけに冷めた口調で答えた。

「んだよー!ノリ悪いなあっ!もうっ!」

頬を膨らますアスティア。

「割れない皿を布か何かで包んでくれ」

「だから割れないっつーの!」

「何があるかわからないだろ?」

にやっとするヴァリオンに、近くにあったよくわからない布で皿を巻いてやった。


 

 アスティアの店を出て布に包まれた皿を小脇に抱えて、来た道を引き返すヴァリオン。

すると遠目からでも目立つ四人の男女が宝石店の前で物色していた。


貴族か王族だろうか?一際豪華絢爛な身なりの男が扇子を持って店主と揉めていた。

黒と赤を基調とした長いマント。金属の装飾が肩や胸に散りばめられていて、張り付けた様な笑顔でやけに威圧感がある。

砂埃でも目立つような革の長靴を履いていた。


その隣には騎士だろうか?軽装の戦士風で革鎧に金属の肩当て、手首には飾り付きのブレスレット。片手に短剣、もう片手は軽く包帯で固定された過去の戦傷跡を隠している。靴は山歩き用の丈夫そうなブーツ。


後列にはやけに不気味な雰囲気漂う男。霧のような長衣、暗めの紫や灰色のグラデーション。風でヒラヒラ動く裾とフードで顔が影になり、表情がほとんど読めない。

背中には異形の黒い羽のような飾りがあり、異様な雰囲気を放っていた。


一人、息を呑むほどの美女が佇んでいた。美しくも可憐だ。締まったシルエットのワンピースに異国風刺繍。肩から腕にかけて薄手のマント。歩くたび揺れる生地で妖艶さ醸し出す。

靴は光沢のあるブーツ、髪は風に揺れている。


ヴァリオンが惚けて足を止めていたら、美女が視線に気付き、ふわりと振り向く。

長い髪が軽く揺れ、耳飾りが光を受けてきらりと瞬く。その一瞬の仕草に、周囲の視線も自然と集まる。

そして、ふとヴァリオンと目が合う。気まぐれに微笑まれたその笑顔に、胸がきゅっと熱くなり、思わず顔が赤くなる。

「…あ、あれ…?」小さな声を漏らすヴァリオンに、女性の微笑みはさらに優雅さを増して、空気さえも揺れるかのようだった。

「…………っっ」顔の火照りを誤魔化す様に手の甲で鼻を擦る仕草をした。

美女はそれを面白がるかの様に少女の様にくすくすと笑った。

無性に子供扱いされた様な擽ったい様な腹が立つ様な感情が心臓を益々揺らした。

ヴァリオンは居た堪れず、帰路を足早に急ぐ。


町中を足早に通り過ぎる最中、あの美女の仕草や笑顔が頭の中で反芻されていた。


ヴァリオンがそんな事を考えていると、肩にヒュンと小さな鳥が舞い降りた。

「わあああ――?」ヴァリオンは思わず大きな声で叫んでしまった。

小さな鳥はつぶらな瞳をこちらに向けて、くちばしに小さな巻物をくわえている。

「ん?誰だ?」とヴァリオンが目を向けると、鳥は器用にくちばしで巻物をポトリと手に落とした。


「なんだ……報せか……」ヴァリオンが巻物を開くと、筆跡は父のもの。

『今は北の運河に到着。良い小麦が手に入ったから明後日には届く!町は変わりないか?母さんの腰は大丈夫か?』

ふむ、とヴァリオンは小さくうなずいた。元気そうだとわかり少し安心するが、父の行動は突飛だからいつも驚く。

今回も摩訶不思議な小麦粉を手に入れてくる!と言ったと思ったら翌日にはもぬけの殻であった。


鳥は小さくピヨッと鳴き、ヴァリオンの肩にしがみついた。

「お前、なかなか人懐っこいな…」

肩の小さな羽音に、ヴァリオンはほんの少し微笑むのだった。


 パン屋に帰宅すると母に父からの巻き物と布に包まれた大皿を渡した。

母は巻き物を読み上げるとはあっとため息をついた。

「なんだい、摩訶不思議な小麦粉って。うちは魔法パンは作って無いって言うのにさ」ぶつくさと父への不満を垂れ流す母に「はは……父さん元気そうで良かったじゃ無いか」ヴァリオンは乾いた笑いを浮かべるしか出来なかった。

「元気だけが取り柄みたいな人だからねえ……仕方ない人だよ。皿もいらないって言ったのに、2人で今頃わいわい旅をして色々また謎の魔道具なんかを仕入れて来るんだろうねー」

2人とはアスティアの父とヴァリオンの父の事である。2人は冒険仲間だっただけあって面白そうな情報を仕入れる度にどこかへ旅に出てしまう。

アスティアの店にある魔道具はどれもこれも珍しいが使い道に困る物が多い。

在庫だけが貯まる一方である。


「はあ……大体割れない皿ってこんな皿どうすんだい、パンの陳列に使うには不自然じゃ無いか」カゴや木で出来た物がよかったとまたぶつくさ言い始める母にあははとまた笑って、裏口から店を出て小麦の元に逃げた。

小麦は元気にわん!っと吠えて膝に勢いよく突撃して来た!

「あはは!勢い良すぎだよ!小麦ー父さんにも困ったよなー?」

と小麦に問いかけるとわん!っとキレのいい返事が返って来た、

「分かってるのかー?小麦ー」

うりうりと顔を近付けると小麦もはっはっはと息を切らしてじゃれ付いてくる。


 ――風呂を終え、ベッドに横たわるヴァリオン。今日も平和な一日が終わろうとしている。

目を閉じると、ふとあの美しく可憐な美女の姿が浮かんだ。

風に揺れる長い髪、耳飾りのきらめき、そして悪戯に微笑む唇。どこか挑発的で、無邪気で、見つめた者の胸をざわつかせる。

まるで意図せずに人を惹きつけてしまう、その存在そのものが小さな魔法のようだ。

思わず胸がざわつき、眠ろうとしても、甘くほろ苦い余韻が消えない。

「…あんなに魅力的なんて、反則だな…」

そう呟きごろっと寝返りを打った。




ここまで読んでいただきありがとうございました!

次もヴァリオン達のお話を楽しんでいただけたらありがたいです!

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