表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

8

 カーテンから漏れ出る朝日が、顔に当たって瞼が開く。

 寝起きは悪い方ではないが、今日は格段に目覚めがいい。

 労働がなく、楽しみがあるときは、自然と活力が湧いてくる。

 腹筋に力をこめ、上半身を起こす。

 キッチンの方から懐かしい匂いがやってきた。

 まだ少し眠たい眼を擦り、立ち上がる。

「おはようございます。早いですね」

 のぞみさんが、エプロン姿で台所に立っていた。

「おはよう。三連勤後の海人君はゆっくりしてて」

 のぞみさんの気遣いに感謝し、椅子に深く腰掛ける。

 優雅な朝の一時が、そこには流れていた。

「コーヒーか紅茶どっちがいい?」

「紅茶でお願いします」

「はーい」

 パンが焼ける香ばしい匂いに、食欲が刺激される。

「お客さま、こちらブレックファーストになります」

 ウェイターになったのぞみさんが、目玉焼きが乗ったトーストを運んできてくれた。

「ありがとうございます」

 手を合わせ、感謝の言葉を口にする。

「いただきます」

 半熟な目玉焼きの黄身が割れ、トーストの上に流れ出る。

 トーストにかぶりつき、気づいたら完食していた。

「ごちそうさまでした。美味しかったです」

「どういたしまして」

 得意げなシェフが、俺の顔を見てニヤニヤしていた。

「何ですか?」

「ほっぺたについてるよ」

 言われた頬付近を触って、手を見ると卵がついていた。

 恥ずかしさと焦りに陥っている俺の前に、ティッシュが差し出された。

「はい、これ」

「ありがとうございます」

 のぞみさんからティッシュを受け取り、素早くふき取る。

「ここまだついてるよ」

 のぞみさんの右手が伸びてきて、人差し指が頬に当たる。

「これでとれたよ」

 そう言ったのぞみさんは、自分の指についた卵を舐めとった。

 少し刺激が強すぎたのか、背筋がぞくぞくした。

 妖艶に写るその人の姿は、この先も忘れないだろう。

「お兄ちゃん、お姉ちゃんおはよう」」

 振り返ると、乃愛が目を擦りながら起きてきた。

「乃愛ちゃん、おはよう」

 二人の兄妹と一人の他人の一日が、今日も始まる。


 車窓から流れ去る景色を眺める。

 車に揺られて、眠気がやってくる。

「ママ、今から何買いに行くの?」

「明日、海に遊びに行くからその時いるもの」

 ん?今何って言った?

「「やったー、海だ」」

 乃愛と心音ちゃんの歓喜の声で、空耳ではないことに気づく。

「のぞみさん、海行くなんて聞いてないですよ」

 無意識に少し鋭い口調になっていた。

「あれ?海人君に言ってなかったっけ?」

「聞いてませんよ」

「海人君、海水浴嫌だった?」

「そんなことはないですけど」

 上手く言い返せなかったが、不思議と悪い気はしなかった。

 俺は、再び車窓に視線を移す。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ