20
文化祭も無事終わり、息つく暇のなく冬がやってきた。
冬の朝は、例外なく布団から出るのが至難の業となる。
「お兄ちゃん、朝ごはんできたって」
乃愛の元気な声が、眠りの世界に戻ろうとする俺の意識を引き戻した。
「さむっ」
冷え切った空気が、体の中へ入ってきた。布団の誘惑をまだ完全に断ち切れていなかった。
「海人君起きた?」
キッチンの方から、のぞみさんの声が聞こえてきた。寝ぐせによってぼさぼさになっている髪をかきながら、リビングへ向かう。
「今日は、海人君が主役の日なんだからね」
主役という言葉に、テンションが上がってくるのを感じた。
「ご飯早く食べてその髪直してね」
窓から差し込む朝日までもが、俺の誕生日を祝福してくれている気がした。
「海人ももう16歳かー。時が経つのは早いな」
「綾音さん、おばさんみたいなこと言うのは、やめてください」
「誰がおばさんだって?」
綾音さんの拳が、頭上から降ってきた。
「暴力反対」
「そんなことよりみんなが来るまでに用意済ませちゃうよ」
袖をまくった綾音さんによって俺の訴えは、あっさりと受け流された。
「海人君お誕生日おめでとう」
「晴香来てくれてありがとう」
誕生日を祝ってくれる幼馴染の存在に感謝した。
「その子が晴香ちゃん?」
のぞみさんが、やってきた。
「はい」
「海人君、この人がのぞみさん?」
「そうだよ。晴香ちゃんよろしくね」
「よろしくお願いします」
のぞみさんと晴香が、友好の握手を交わしていた。
テーブルには、数々の美味しそうな料理が並んでいた。四人用のテーブルに八人で囲む。
「はい。みんな手を合わせて」
綾音さんの合図で、一斉に手を合わせる。
「いただきます」
目の前に広がる料理達に、食欲が促進させられる。
大量にあった料理も、平らげられ食器は次々と下げられていった。
「海人君、昔から生クリーム好きだったよね」
「よく覚えてたね」
「幼馴染なら当たり前だよ」
そう言いながら、口へとケーキを運ぶ。すると、左の方から手が伸びてきた。
「海人君、ほっぺたにクリームついてるよ」
のぞみさんが、生クリームがついている指を舐めた。妖艶なその姿に心を奪われた。
「のぞみさんあんまり変なことしないでください」
晴香に叱られたのぞみさんは、小さく舌を出す。いたずらっぽく笑うのぞみさんは、俺が初めて見た姿だった。
「まぁ、私は海人君と一緒に寝てるけどね」
のぞみさんが、謎のマウントをとっていた。
「それって乃愛ちゃんもですよね?」
「だから??」
今までに感じたことのないのぞみさんの圧を感じた。
「私は、二人でお風呂入ったことありますよ」
「でも、それって小さい時の話でしょ?」
のぞみさんも晴香も引く様子がなかった。綾音さんに助けを求めようと視線を向けると、大斗共に笑っていた。
「綾音さん助けてくださいよ」
「海人、頑張れよ」
綾音さんの横で笑っている大斗の声に、若干の殺意を覚える。
「大斗も助けろよ」
俺の助けを求める声にも、大斗はただ笑っているだけだった。




