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いつもは、二つの布団が並ぶこの部屋も今日は、一つ布団が増えていた。
「妹ちゃん、かわいいね」
「起こさないでくださいよ」
乃愛を起こさないように、声を落とす。
「分かってるって」
布団に潜り込んだのを確認して、電気の紐を引っ張る。常夜灯だけが、俺たちを映し出していた。
「見ず知らずの人にお風呂を貸した挙句、泊めちゃうお人よしさんが将来騙されないか、お姉さん心配だよ」
「今からでも帰ります?」
「うそうそ。君には、本当に感謝しているんだよ」
少し口角を上げ、目を閉じる。隣のあの人は、もう寝たのだろうか。寝返りを打ち、様子を窺う。
「何見てるの?えっち」
「早く寝てください」
この人には、何もかも見透かされている錯覚に陥る。でも、俺はこの人のことを何も知らない。
携帯のアラーム音が、目覚めの刻を告げる。
布団を畳む時、隣の布団に目をやり、昨日の夜が夢でないことに安堵する。
いつものように、朝食の準備にとりかかる。コトコトと音を立てている鍋の中のみそ汁が、食欲をかき立てる。
「おはよう」
「おはようございます」
彼女は、まだ眠たそうに目を擦る。
「私、なにか手伝うことある?」
「そこに茶碗三つ出しているんで、ご飯盛っててください」
「はーい」
小さな食卓が、彩られる。
いつもより数の多い卵焼きも、切り分ける。
「お兄ちゃん、おはよう~」
乃愛が、いつもより早く起きてきた。
「お邪魔しています」
乃愛が、目を丸くする。
「お兄ちゃん、この人だーれ?」
少し真剣に考える。
「分からない」
正体不明のこの人は、微笑みを浮かべていた。
「結局、あなたは誰なんですか?」
「謎多きお姉さんかな?」
「答えになってませんよ」
「世の中答えばっかり追い求めては、ダメなのだよ。少年よ」
そう言った彼女は、膝をついて乃愛の目線に合わせる。
「お姉ちゃんって呼んでくれると嬉しいな」
「うん!お姉ちゃん」
「お名前は?」
「のあ」
「乃愛ちゃんか、可愛い名前だね」
乃愛の笑顔は、いつ見ても元気を与えてくれる。
「二人とも、朝ごはん冷めるよ」
「いただきます」
「いただきます」
「いただきまーす」
出来立ての料理が、湯気を立てている。
「お兄ちゃんのお料理とってもおいしいね」
「うん!」
乃愛が、元気よく頷いてくれた。
いつもより、賑やかな食卓に朝日が差し込む。
今日も一日が、始まった。