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「疲れたね」

「ほんとそれ」

 大斗と愛菜と別れ、晴香と帰り道を歩いている。

「晴香、よく頑張っていたからね」

「海人君だって頑張ってたよ」

「俺は言われたことをしてただけ」

「文句も言わずにしてくれるのって本当に助かるんだよ」

「そうかな?」

「そうだよ。ありがとうね」

 晴香の言葉と真上で輝く秋の夜空が、疲れを吹き飛ばしてくれたみたいだ。


 家にたどり着いた俺は、うつ伏せでソファーに身を沈めた。

「お疲れ様」

 背後からのぞみさんの労いの言葉が耳に届く。その言葉に返答する力さえ俺には残されていなかった。

「疲れていると思うけど、こんなところで寝てたら風邪ひくよ」

「分かってますよ」

「そう言っている割には、そこから動く気配ないけど?」

「動きます。動きますよ。あと五分後に」

 俺は、更に顔をソファーに押し付ける。

「制服にシワできちゃうよ」

「分かっています」

「本当に分かっているの?」

 のぞみさんの小言が、止まらない。両耳を両手で押さえ、外部からの音の遮断を試みる。

 両手を強引に両耳から剝がされる。

「お風呂に早く入って、寝たいなら布団で寝てよね」

 耳元で大きな声を出され、あやうく鼓膜が犠牲になるところだった。これ以上反論することなく、おとなしく風呂場へと向かう。

 そして、気がついたら布団に入っていて、息をするかのように眠りについた。


 時はあっという間に過ぎ去り、明日はもう文化祭。

「とりあえず準備が終わって良かったね」

 学校からの帰り道、このところ晴香と歩くことが多くなった。

「海人君は、他のクラスの出し物誰かと回るの?」

「大斗は愛菜と回るみたいだし、どうしようかな」

 晴香が前に出て、俺の方へ振り返る。

「それなら私と回らない?」


 喧騒に包まれた学校の姿に、文化祭の力を実感する。

「晴香はどこ行きたい?」

「何か美味しいもの食べたい」

「三組が、屋台やっているらしいけど、行ってみる?」

「うん。行こう」

 屋台が設置されているグラウンドに向かう。

「焼きそば二つ」

 鉄板の上で香り立つ匂いに、食欲が刺激される。

「はい。焼きそば二つね」

 焼きそばを受け取り、晴香に手渡す。

「海人君ありがと」

「座って食べよ」

 晴香とベンチに座る。割りばしを割り、手を合わせる。隣の晴香も手を合わせる。

「「いただきます」」


「次は、お化け屋敷にでも行く?」

「え?」

「二年生の先輩たちが、お化け屋敷やってるって大斗が言ってたからさ」

 晴香は、少し考える素振りを見せてから口を開いた。

「私怖いの苦手だけど、海人君と一緒なら行ってみたい」


「中は暗いから足元には注意してください」

 受け付けの人に言われ、気を引き締める。

「晴香、しっかり後ろついて来いよ」

「うん」

 俺たちは、暗がりへと足を出す。 

「雰囲気出ているね」

「もう怖い?」

 俺の口元が緩んだ。

「怖くないし!」

「怖くないよね。分かってるよ」

「ホントだからね」

 ・・・・・

「ぎゃああぁぁぁ」

 晴香の絶叫が校舎全体に響き渡った。俺をおいて、脱兎のごとく走り去る晴香の姿に驚かすお化け側が驚いていた。

 晴香を追いかけ、出口から出ると膝に手をついて息を切らしている晴香の姿があった。

「流石、バスケ部。足速いね」

「うるさい」

 言い返せる元気があって、少し安心した。

「晴香ってあんなに声出せるんだね」

「もううるさい」

 晴香の容赦のないボディーブローを受ける。

「ごめんごめん」

「どうしよっかなー」

 晴香が、ニヤニヤしながら首をかしげる。

「分かった。何かおごるよ」

「やったー!」

 目の前で咲き乱れる笑顔の花に、俺の頬を緩んだ。


 空が夕暮れに染まる頃。

「楽しかったー」

 この日何度も聞いた晴香の声が、両方の耳から入ってくる。

「海人君は今日楽しかった?」

 その問いの答えは、一つしかない。

「楽しかったに決まってるよ」

 満足感に満たされていた。




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