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「私、アルバイト始めることにした」

 お風呂上りに、のぞみさんから報告を受けた。

「何のバイトですか?」

「スーパーのバイトだよ。綾音さんと同じところ」

「綾音さんと一緒なら安心ですね」

「うん!」

 のぞみさんは、笑顔で大きく頷いていた。

「無理だけはしないでくださいよ」

 一瞬の不安がよぎった。

「大丈夫だって。でも、心配してくれてありがとう」

 白熱灯に照らされたのぞみさんの笑顔は、安心と一抹の不安を俺に与えてきた。


 九月も中盤に差し掛かってきたのに、気温は相変わらず高いままだった。

 何をすることもなく、家の中でぼーっとしていたら携帯が鳴った。

 電話をかけてきた主は、大斗だった。

「海人、今何してる?」

「何もしてない」

「そうだと思ったよ」

 電話の向こうで大斗の笑い声が聞こえてきた。

「それより何の用?」

「俺も海人と一緒で暇だから、遊びに行かない?」

「どこに?」

「電車で映画でも見に行こう」

「いいよ」

「晴香と愛菜も誘っていい?」

 大斗は、昔から幼馴染四人での遊びを誘ってくる。そのおかげで、高校になった今でも晴香と愛菜と変わらず仲が良いまま過ごせている。

「いいよ」

「集合はいつもの駅前で」

「分かった」


 集合時間より少し早めに着いてしまった。

 休日というのに駅前の人は、数えるほどしかいなかった。

「海人君が早いなんて珍しいね」

 聞き慣れた声が、耳に届く。

「たまには早く来ることだってあるよ」

 小柄な晴香と話すときは、自然と見下ろす格好になる。

「大斗と愛菜は一緒に来る?」

「そうみたい。愛菜が、もうすぐ着くって言ってた」

「分かった。そういえば、映画って何見るか決まってる?」

「決まってないよ。海人君見たい映画とかある?」

「ないかな。晴香は?」

 晴香は、一瞬考えるそぶりを見せた。

「恋愛系の映画が流行ってるらしいから、それ見てみたいかも」

「それいいね」

 いつの間にか来ていた大斗が割り込んできた。

「大斗その映画知ってた?」

「うん。知ってる」

 大斗が、柄にもなく爽やかな笑顔をこちらに向けてきた。

「私もその映画見たい」

 大斗の隣にいた愛菜も賛成したため、恋愛系に決定した。


 映画の前の広告が、大きなスクリーンに映し出されている。

 俺の膝の上には、箱一杯に入ったポップコーンがあった。

「晴香、いつでもポップコーンとっていいからね」

「分かった。ありがとう」

 俺と晴香の前は、大斗と愛菜が座っていた。

 広告も終わり、映画の本編が始まろうとしていた。

 薄暗く照らす小さな照明も消え、スクリーンの世界に引き込まれていく。

 

 ポップコーンに手を伸ばすと、何かと当たる感触があった。

 隣を見ると晴香と目が合う。恥ずかしさのあまり、スクリーンに目線を戻す。

 スクリーンの向こうでは、雨に打たれてずぶ濡れになっている主人公がヒロインの名前を叫んでいた。

 横目でスクリーンの光に照らされた晴香の横顔を盗み見た。そして、俺はまたスクリーンの方を向き直る。


 感動の結末を迎え、エンドロールが流れ始めた。エンディング曲が、映画のラストを彩り、余韻をもたらした。映画館の中では、すすり泣いている音が聞こえている。

 映画館内の電気がつけられる。明るさに慣れるまで少し時間がかかった。

 無意識に体を伸ばす。

「海人君、映画よかったね」

 隣の晴香が話しかけて来た。

「うん。おもしろかった」

 具体的な感想は、出てこなかった。

「晴香と海人君そろそろ出るよ」

 出口の方で愛菜が呼んでいた。

 俺と晴香は、スクリーンを後にする。


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