16
空腹に耐え、待ち望んだ昼食を告げるチャイムが鳴った。
「海人、一緒に食おうぜ」
「うん」
大斗の誘いに二つ返事を返す。
大斗と共に弁当を広げていると、愛菜と晴香がやってきた。
「私たちも一緒に食べていい?」
「うん。いいよ」
机を移動して、四人で机を引っ付ける。
「海人の弁当美味しそうじゃん」
大斗が、覗き込んできた。
俺の弁当は、いつもより色とりどりだった。
「それものぞみさんっていう人が作ったの?」
「うん。朝早くに起きて作ってくれたんだ」
愛菜の質問に、すぐに答える。
「海人君が作るお弁当の方が負いそうだったけどな」
「ありがとう。晴香」
「う、うん」
何故だか大斗と愛菜が見つめ合って、苦笑いを浮かべていた。
二学期が始まって、三週間が経とうとしていた。
授業中の廊下は静かで新鮮だ。
入学してから一度も訪れたことのない空き教室の扉を開く。
「飯島君、そこに座って」
石野先生に促され、席に座る。
「急に担任が変わって驚いたよね」
「まぁはい」
俺と先生の間にある机が、窓から入ってきた太陽の光に照らされ輝いていた。
「毎学期二者面談するんですか?」
「ううん。本当は一学期にするんだけど、今回は担任が変わったから特別に二学期にもしてるだけだよ」
「そうなんですね」
「高校の生活は、もう慣れた?」
「まぁまぁですかね」
先生の話を半分聞いて、半分聞き流していた。
「これから全然変えても良いんだけど、今のところ考えている進路とかある?」
「一応就職で」
「一応?」
「進学する気はないので、就職かなって」
「無気力って感じだね」
図星を突かれたが、
「そんなことはないですよ」
「なるほどねー」
石野先生のことを見ていたら、とある疑問が浮かんでくる。
「先生は、何で教師になったんですか?」
「え?」
「学校の先生ってブラックなイメージしかないんですが」
石野先生は、少し微笑んでいた。
「確かに飯島君が言うように、教師はブラックだよ。やりがいの搾取もいいところだよ」
目の前のこの先生は、躊躇うこともなくそんなことを言った。
「ならなんで?」
「人が成長する過程を見守りたいからかな。さらに贅沢を言うなら、その成長を手助け出来たら最高かな」
その言葉は、綺麗ごとにしか聞こえなかった。
「まぁ、時間はたくさんあるからゆっくり考えたらいいよ」
「分かりました。考えときます」
その場しのぎの言葉を吐く。
「何かあったら相談してね」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ、次の人呼んできて」
席を立って、後ろの扉から出ていく。
廊下は、先程よりも静かだった。