15
長くて楽しい夏休みも昨日で終わってしまった。
今日からまた始まる無意味に思える時間的拘束への憂鬱と、九月に入っても燦然と輝き続ける灼熱の太陽光に足取りが必然と重くなる。
学校が、嫌いだ。というよりも、学校に行く意味が見いだせない。進学するつもりなんかなく、卒業したら就職する道しか見えなかった。無難に高卒という肩書を得るために、惰性的に通っている。
つまらないことを考えていたら、教室の扉の前まで来ていた。クラスには不満は無いが、満足だと思ったことはこの三か月一度もなかった。
扉をあけるとともに、夏休みの一か月とは打って変わるつまらない一日がスタートする。
「海人おはよ」
机に腰掛けた漁師の町に似合う小麦色の肌の幼馴染が、挨拶をしてきた。
「大斗おはよ。愛菜は?」
「今日は、晴香と一緒に来るんだってさ」
愛する彼女と一緒に登校できなくて、少し拗ねている大斗だった。
後ろで扉が開けられた音がした。
「「おはよ」」
「二人ともおはよ」
「海人君焼けたね」
「そうかな?」
晴香に言われて、炎天下での海水浴を思い出す。
「海に行っていたからかな?」
「へぇー、そうなんだ」
大斗が、俺に視線を向ける。
「綾音さん達と行ったんだよな?」
「うん。それと乃愛とこの前言ったのぞみさんと一緒に行った」
「のぞみさんって居候の?」
「居候って言っても、乃愛の世話とか家事とか色々してくれているよ」
晴香の居候という言葉に、違和感を覚えて思わず反論してしまった。
それと同時に、始業の刻を告げるチャイムが鳴った。
チャイムが鳴り終わる頃、前の扉が開かれた。
見覚えのない女性の先生が入ってきた。
少し教室の中がざわざわする。
「あの先生、誰?」
俺も隣の大斗に話しかける。
「分からない」
大斗は、首を左右に振った。
女性の先生は、教卓の前に立ち、口を開いた。
「突然のことで驚くかもしれないけど、担任だった中谷先生はご病気をなされて休職中です。その代わり今学期からは、私がこのクラスの担任を受け持つことになりました」
凛とした佇まいのその先生は、落ち着きを放っていた。
「まずは、私の自己紹介からね」
そう言いながら、黒板に字を書き始めた。
「私の名前は、石野 花奈って言います」
石野先生が、手に付いたチョークの粉を振り落としていた。
「担当科目は、日本史です」
淡々とした口調の自己紹介に飽きてきて、窓の景色を眺め出す。
「学校は退屈で嫌なことが多い場所だと思っている人もいると思います。実際私もそうだった」
俺は、思わぬ発言に先生の方を向く。
「学校を好きになって欲しいとは思いませんが、あなた方一人一人の人生にとって思い出したくなるような時間が一秒でも増えるような学校生活を送って欲しいとは思っています」
石野先生と一瞬目が合った気がした。
ホームルームが終わった後も、石野先生の言葉が頭の中でこだまし続けていた。