13
空がすっかり暗くなる頃。
和太鼓の音色が、広場でこだまする。会場の真ん中に設置された舞台の上で、町の男たちが太鼓を豪快に叩いていた。
その舞台を取り囲むように、老若男女の町の人々が盆踊りを踊り始めていた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃんいこうよ」
「「うん」」
乃愛に弾ける笑顔でせがまれ、思わずのぞみさんと返答がシンクロした。
「ママもいこうよ」
「本当の盆踊りってやつを見せてやる」
綾音さんは、腕まくりをしていて乗り気だ。
俺たちは、盆踊りの波に取り込まれていく。
踊り、踊られ、踊らされ。
踊りの輪から抜け出し、花火がよく見える場所に移動する。
「ママ、のどかわいた!」
「のあも!」
盆踊りを一生懸命踊っていた心音ちゃんと乃愛が、綾音さんにせがんでいた。
「もうちょっとしたら花火が上がるけど、我慢できない?」
「「できない」」
二人の少女は、首を激しく横に振る。
「この二人の飲み物買いに行ってくるよ」
「お願いします」
「ほら、二人とも早く買いに行くよ」
「「はーい」」
綾音さんとその後ろについていく二人の仲のいい少女たちを見送る。
「打ち上げ花火見るの久々かも」
「この町の花火は、大きくはないけどとっても綺麗ですよ」
「ほんと?楽しみ!」
あなたの笑顔が眩しすぎて、思わず顔を逸らしてしまう。
夜風が火照った顔を冷ましてくれる。
「まもなく打つ上げ花火が上がります」
放送で花火の開始が、アナウンスされた。
「もうすぐみたいだね」
のぞみさんは、目を輝かせ花火が打ち上げられるのを待ちきれない様子だ。
アナウンスがあってから、徐々に人が集まってきた。
「彩音さんたち、間に合うのかな?」
独り言のようにつぶやいた。
「海人君と二人っきりで見れたら嬉しいけどな」
「皆さんお待たせしました!花火が打ちあがるまで、5!4!」
のぞみさんの方を見る。
「ん?」
俺の視線に気づいて、のぞみさんが首をかしげる。
「3!」
「さっき何か言いました?」
「2!」
「何でもない。ほら、もう上がるよ花火」
「1!」
のぞみさんに言われ、花火が上がる方向に向き直る。
「0!!」
夜空に火の種が放たれ、大きな花が爆音と共に咲いた。
「きれい」
そう呟く花火に照らされたのぞみさんの横顔も、花火に負けず劣らず綺麗だった。
次々と夏の夜空に咲き乱れる花火が打ちあがっても、俺はあなたから目を離すことが出来なかった。儚く散りゆく花火に見惚れるあなたの顔を忘れることはないだろう。
のぞみさんは、送り続けていた視線に気づいたのか、俺と目を合わせまた首を傾げた。
「綺麗ですね」
花火の音に負けないように声を張った。
「うん!!本当にきれいだね」
のぞみさんは、嬉しそうに大きく頷いた。
花火が鳴り止み、まばらな拍手がされている最中、一番大きな花の種が空高く舞い上がる。そして、大きな音と光とともに大輪を咲かせた。
「結局、戻ってこれなかったよ」
「花火は見れました?」
「なんとかね」
夏祭りから家路に着く俺達を月明かりが照らしてくれていた。
「乃愛、心音ちゃん花火きれいだった?」
「音がすごくおおきかったけど、とってもきれいだったよ」
「それでね、お花がさいているみたいだった」
乃愛と心音ちゃんが、素直な感想を教えてくれる。
「うんうん。きれいだったよね」
のぞみさんも、同意の相槌を打つ。
「お兄ちゃんも花火見てた?」
「うん。綺麗だったね、とっても」
俺の脳裏には、照らされたあなたの横顔があった。
「海人、嬉しそうだね」
こういう時の綾音さんは鋭い。
「夏祭りに来て本当に良かったって思ったから」
思わず本音が漏れて、恥ずかしくなる。
「私も皆と来れて良かった。出来れば、来年も再来年も行きたいな」
のぞみさんの、その言葉に激しく同意する。