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 夏祭りの会場に近づくにつれて、賑やかな声が聞こえてくる。その声が耳に届く度に、気持ちが高揚してくる。

「心音も乃愛も私たちから離れないでね」

「「はーい」」

 この町に、こんなにも多くの人が住んでいたのかと毎年の如く感じる。

 広場の入り口から屋台が立ち並び、食欲をそそる香ばしい匂いが風に乗って運ばれてきた。

「ベビーカステラ買って!」

早速、心音ちゃんが綾音さんにせがんでいた。

「分かったから!あんまり服引っ張るな」

 綾音さんは、財布を取り出し屋台の方に向かう。

「乃愛と一緒に仲良く食べるんだよ」

「「うん」」

「海人たちも何か食べる?」

「俺、イカ焼き食べたいです」

「イカ焼きかー、私もそうしようかな。確か、もう少し行ったらイカ焼きの屋台あったと思う」

「ベビーカステラお待ちどう、少しおまけしといたよ」

「ありがとう、悪いね」

「あんたの旦那には、いつも世話になっているからね。そちらが、和樹が言っていた子?」

「うん。のぞみだよ」

「初めまして」

 のぞみさんは、軽く会釈をした。

「この町には慣れたかい?」

「まだ少し慣れていないけど、皆に優しくしてもらっているから段々慣れてきました」

「それなら良かった。夏祭り楽しみな」

「はい」

 ベビーカステラの屋台から離れ、流れに沿って進む。

 さっきからすでに俺は、イカ焼きの口になっていた。

 イカ焼きの屋台が、見えてくるとお腹が空いてきた。

「のぞみは何食べる?」

「私いちご飴がいいです」

「いちご飴ね、オッケー」

 のぞみさんと綾音さんの会話は、右耳から左耳に通り抜けていく。

「イカ焼き二個お願い」

「はいよー」

 目の前でイカが焼かれ、たれに浸されているその光景に思わずよだれが出てくる。

「はい、イカ焼き二本ね」

「ありがとうございます」

 俺の分まで会計してくれている綾音さんの代わりに、二本とも受け取る。綾音さんを待ちきれず、右手に持っていた自分のイカ焼きを豪快にかぶりつく。

 口の中で、イカの旨味とタレの甘さが絡み合い、美味しさが爆発していた。

 綾音さんが、会計を済ませこちらに近づいてきた。

「はい。綾音さんの分」

「ありがとう」

 左手に持っていたイカ焼きを、綾音さんに渡す。

 俺は、再び歯ごたえのあるイカ焼きにかぶりつき、咀嚼を始める。


 大好物のイカ焼きは、すでに俺自身のお腹に収まり、多大な満足感と幸福感が押し寄せていた。

 空が徐々に茜色に染まり始めた頃、のぞみさんが待望のりんご飴を目を輝かせながら屋台の人から受け取っていた。

「りんご飴美味しいですか?」

「うん!美味しいよ」

「それなら良かった」

「海人君もちょっと食べる?」

「良いんですか?」

「いいよ。はい」

のぞみさんからりんご飴を受け取り、少しかじりつく。

 それは、甘く甘かった。

 りんご飴を返した刹那、のぞみさんの頬がりんご色に染め上がった気がした。



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