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目を開き、寝転がったまま背伸びをした俺は、充実した寝起きの感覚を得ていた。
皆で行った海水浴から二週間が経っていた。
昨日、バイトから帰ってきた俺は、連勤による疲れと睡眠欲によって布団に引きずり込まれてしまった。
いつもは、鳴るはずのアラームも設定せずに眠っていた。携帯に手を伸ばし、今の時刻を見る。画面には9時と表示されていた。
時刻を見た驚きで、素早く体を起こす。
ダイニングの方から声が聞こえてきた。誘われるように立ち上がり、声のする方に向かう。
「あっ、お兄ちゃんおはよう!」
「海人君おはよう」
乃愛の元気な声とのぞみさんの落ち着いた声が、耳に届く。
テーブルに置かれた美味しそうな朝食は、エプロンを着けているのぞみさんが作ったのだろう。
「朝ごはん作ってくれてありがとうございます」
「海人君、前から言おうと思ってたけど、朝ごはん作るの当番制にしよ。海人君にだけ負担をかけられないよ」
のぞみさんの優しさが、ひしひしと伝わってくる。
「ありがとうございます」
朝起きるのが、憂鬱に感じたことがあっても苦痛に感じたことは無かった。しかし、この人の思いやりの気持ちを無下には出来なかった。
「うん!」
ぱっと顔が明るくなって頷くその笑顔を見ると、自分の判断が間違っていなかったと安堵した。
「冷めちゃわない内に早く食べて。今日は忙しくなるからね」
俺は、のぞみさんが作ってくれた料理をかきこみ始めた。
「ごちそうさまでした」
いつもより長い睡眠によって、空腹になっていた俺はすぐに朝食を完食した。
今日も真夏の太陽が燦々と世界を照らしていた。少し歩いただけで汗が噴き出していた。
しかし、うだるような暑さと同様にいつもは静かなこの町も、今日に限っては活気があった。
「ここの夏祭りは花火も上がるんですか?」
「うん。そんなに大きいものじゃないけどね」
のぞみさんの問いに綾音さんが答える。
「のぞみ、それにしてもその浴衣よく似合っているね」
のぞみさんの浴衣姿は、新鮮で花びらのような華麗さがあった。
「ありがとうございます。でも、綾音さんの着て本当に良かったんですか?」
「私には、その浴衣はもう派手すぎるよ。のぞみが着た方が絶対に良い」
そう言った綾音さんは、優しく微笑んでいた。