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『なぁ、本当にいいのか?あんた一人じゃ重荷だろ?』


 その話は終わったつもりでいたが、どうにも納得のいかないディオは、アリアネが眠ったのを見計らっては、言霊の様に脳内に語りかけてくる。


『なあなあなあ、考え直せよ。なあ』


 夜な夜なこうも語りかけられては眠れるものも眠れない。


「…これではガゼル()の方がまだマシですわ…」


 ベッドの上で頭を抱えながら呟いた。その顔は酷いもので、寝不足のあまり目は座ったままで隈が色濃く残っている。


「おはよう。今日も酷い顔だね」

「…おはようございます…乙女にかける言葉ではありませんね」


 エプロン姿で朝食の準備をするガゼルから辛辣な一言を頂いたが、軽く聞き流しながら椅子に腰掛けた。


「これでも心配して言ってるんだ。…ほら、昨日より隈が濃くなってる」


 顔を近づけ、目元の隈をなぞりながら言ってくる。その距離、数センチ。


「…近いですわ」

「近寄ってるからね」


 睨みつけながら離れるように言うが、ガゼルは微笑むだけで離れようとしない。


「…僕のせい?」

「違います」


 ガゼルは自分のせいで、アリアネが寝不足になっていると思っているようだった。あながち間違いではないが、亡霊に憑かれてるとも言えない。


(これは、先にディオ(あちら)をどうにかしないと…)


 このままでは、自分の体が先に参ってしまう。


 のっそりと用意された朝食に手を付けるアリアネを、ガゼルは黙って見つめていた。



 ***



 カチャ…


 片付けを終えたガゼルは、ゆっくりとアリアネの部屋を開けた。


 ベッドの上には規則正しい寝息を立てるアリアネがいる。朝食を食べ、腹が満たされた事で睡魔が限界を迎えたのだろう。


「…ん」


 そっと頬に触れれば、煩いとばかりに顔を顰めてくる。その様子にクスッと笑みがこぼれる。


「あっれぇ?寝ている女の子の部屋に無断で入るなんて、関心しないなぁ」

「……」


 ガゼルが見上げた先には、ディオが空中で胡座をかいていた。


「お前か?彼女をこんな目に合わせてるのは」

「はっ、何言ってんだ?元はと言えば、あんたがコイツに難題を押し付けたせいだろ?責任転嫁も甚だしいな」


 睨みつけながら問いかけると、ディオは鼻で笑いながら言い返してきた。


「その件に関しては否定はしない。…だが、これ以上彼女を苦しめるなら容赦はしない」

「えぇ~怖いなぁ」


 牽制するように言うが、ニヤニヤするばかりで危機感というものが感じられない。


「俺は親切心で手を貸してやるって言ってるだけだし。あんたこそ、俺が手を貸した方がいいと思うだろ?」

「僕は…」


 言い返そうとしたが、言葉に詰まってしまった。


 無茶なことをお願いしている自覚はある。魔物(化け物)相手とは言え、殺しは殺しだ。若い女性には荷が重いと考え、解放することも考えた。だが、彼女は違った。真剣に僕の死について考え、行動してくれている。まあ、大した成果はないが、その頑張りと心意気に好感が持てた。


 次第に本気で彼女に殺されたいと願うほどぐらいには…


「正直、あんたが死のうが生きようがどうでもいいだけどさ。()()に死なれると困るんだよね」

「なに?」


 アリアネを指さしながら()()呼ばわりに、ガゼルは眉間に皺を寄せた。


「なあ、俺と手を組まないか?」

「は?」

「俺な、コイツが欲しいんだ」

「!?」


 急な告白に驚きを隠せない。


「ああ、勘違いしないでくれよ?肉体と魔力が欲しいって言ってんの」

「……」

「コイツの身体と魔力があれば、なんだって出来る。第二の人生を謳歌出来ると思わないか?」


「俺ならあんたを簡単に殺れる自信がある。なあ、手を組もうぜ」自慢気に付け加えられたが、ガゼルの耳には殆ど届いていない。


(この男は何を言っている?アリアネの身体を乗っ取るという事か?)


 そう考えただけで、自分でも驚くほどの怒りが込み上げてきた。そして──


「黙って聞いていれば…いい加減にしろよ赤子同然の小僧が」

「ッ!!」


 ガゼルは怒りを前面に出しながらディオに詰め寄る。流石のディオも先程までの勢いをなくし、顔面蒼白になり額に汗を滲ませている。


「な、なんだよ!あんたにとってもいい話だろ!」

「黙れ。それ以上口を開くというのなら、その口ごと吹き飛ばす」


 真っ赤な瞳を光らせ、殺気が部屋全体を包み込む。窓ガラスはガタガタと揺れ、机の上にあった書類や本はつむじ風に吹かれたように宙を舞っている。


「─くッ」


 ディオは悔しそうに唇を噛み締めるが、ここで言い争っても勝ち目がない事ぐらいは解っている。「クソッ」と一言吐き捨てると、大人しくその場から姿を消した。


 姿が見えなくなると、バサバサと本や書類が床に散らばり、割れそうなほど揺れていていた窓は何も無かったように静かに佇むガゼルを映していた。


 部屋全体が揺れるほどの殺気と音だったのに、目を覚ますどころか、口元が緩んでいるアリアネに目を向けた。きっと、いい夢でも見ているのだろう。


「……」


 ガゼルはそっと髪に触れると、軽く口付けた…






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