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亡霊

 半ば無理矢理に利害一致させられてから数日。


 鼻歌混じりで墓地へ向かうガゼルを見送るのが日課になりつつあった。


(あの方は本気で死ぬ気があるのかしら…)


 そんな不安を抱えつつも、真面目に殺り方を考えなければならない。相手が約束を履行するのなら、こちらもその意を得なければ…


 律儀な性格だなと自嘲する。


「……」


 視線の先には、吸血鬼や魔物について記された本が風でパラパラとめくれている。アリアネはその本を閉じると、溜息を一つ吐いた。


 実は、これまで何度かチャレンジはしていた。不老不死とはいえ、数打てば何か一つヒットするかもしれないという、甘い考えがあったからだ。


 ──そんな考えの元、まずは寝ている所に短剣を突き刺してみる事にした。


「ぐはッ」と血を吐きはしたが、苦悶の表情は一瞬だけ。むくっと体を起こすと突き刺さる剣を抜き一言


「寝込みを襲うなんて大胆」

「血を吐きながら言う言葉じゃありませんわね」


「体を突かれる痛みはあるけど、この程度じゃ生温いね」なんてダメ出しを貰った。


 それならばと、即効性の毒薬をワインに混ぜて飲ませてみたりもした。


「ん!」


 口に含んだ瞬間、目を見開いてその場に倒れ込んだので、殺った!と喜んだのもつかの間。


「これは美味ッ!」


 出てきた言葉に愕然としたのを覚えてる。


 それ以外にも、猛獣に喰わせてみたり全身の血を抜いてみたり色々やってみたが、すべて失敗に終わってる。


 そもそも、この男は吸血鬼の概念がねじ曲がっている。


 普通、吸血鬼と言えば陽の光を嫌い、薄暗くジメッとした場所を好むはず。なのに、この方は陽の光を全身に浴びても平気な顔。むしろ、陽の光を好んでいる様にも見える。


「はぁ…」


『助けてあげようか?』


 小さく息を吐くと、それに応えるように声が聞こえた。


(この感じ…あの時と同じ…)


 直接脳に語りかけくる声に、身に覚えがある。そう、ガゼルと初めて会った()()()と同じ。


「誰ですの?助けるって…」


 そう問いかけた時、白い靄と共に若い男が現れた。


「初めまして。ようやく俺を認識してくれたな」


 見た目は人。敵意はない。ただ、気になるのはふよふよと空中を浮遊している事ぐらい。


「…貴方は?」

「俺?俺はデュオ。人としての生はとっくに無くしちまってる。簡単な話、亡霊だな」

「亡霊…」


 ポツリと呟いた。


 そりゃここは墓地だし、霊的な者や霊障があっても不思議じゃない。今更驚くこともないが、何故このタイミングで姿を現したのか…


「言っておくけど、俺はあんたが来た時からずっと呼んでたぜ?気付かなかったのはそっちだ」


 そう言えば『ようやく認識してくれた』と仰ってましたわ。


「鈍感にも程があるぜ?前いた奴はすぐに俺の存在に気付いたってのに」

「…それは申し訳ありませんでした。魔力はあっても霊感はありませんの」


「ふ~ん」とディオは薄目でアリアネに視線を送ると、薄ら口元を緩めたように見えた。


「よし、じゃあ、本題だ」


 パンッと手を叩きながら向き合った。


「あんたは、あの吸血鬼を殺りたいんだろ?」

「ええ、まあ、不本意ですが…」

「俺が知恵を貸してやる」


 頭を指しながら得意気に言ってくる。確かに、お手上げ状態ではあるものの、初対面の亡霊(人間)に頼るは如何なものか…


「今のあんたは魔物に取り憑かれてるようなものだろ?俺様が手を貸してやるよ」


 これは亡霊()にも憑かれそうな勢いですわね…


(私の身体は御神体じゃありませんのよ)


 これだけ自信あり気に言うところを見ると、効果的な策があるのだろう。しかし──……


「お言葉は嬉しいですが、お断りいたします」

「は?なんで!?」

「なんでも何も、貴方に頼ってしまったらあの方に申し訳ないからです」


 あの方は死ぬ事が出来るのなら、他人の力を借りても文句は言わないでしょう。それでも、願いを直接聞き入れたのは私。それならば、私が遂行するのが筋…


(…いえ、これは言い訳ですね)


 こうして、誰かに願いを託されたのは生まれて初めての事で、面倒だと思いつつ、どこか嬉しい気持ちがあったのが本音。


「とにかく、お断りいたします」


 もう一度断りを入れるが、ディオは不服そうに文句を垂れている。


「はぁ?なに断ってんの?ここは『はい、お願いします』って三指ついてお願いするとこだろ。あんた頭沸いてんのか?」


 圧力をかければ言う事を聞くとでも思っているのか、上から目線で罵ってくる。

 残念ながら、暴言や脅迫には慣れている。この程度の事じゃ怯まない。


「お断りいたしますと言っております。…四度目はありませんよ?」


 ギロッと睨みつけながら牽制すれば、ディオは「チッ」と舌打ちしてから姿を消した。



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