結末
「あら、今日も駄目でしたか」
その声と共に目が覚める。
傍らには、燃え尽き炭になった服の残骸が散らばっている。……今日は焼死を試したのか。
「あのさぁ、いくら周りに火が燃え移らないように配慮してくれているとはいえ、服もタダじゃないんだけど?」
「そんな事を言われるほど、私は甲斐性なしではありませんよ」
不服そうに呟くと「そうじゃない!」とすぐに否定する声が返って来た。
アリアネは相変わらず、ガゼルを殺そうと毎日奮起している。だが、どれもこれも上手くいかず、未だにピンピンしている。
「ほら、だから俺が手を貸してやるって言ってるだろ!」
頭上から声をかけるのはあの日、魂ごと消滅したはずのディオ。
実はあの時、アリアネはディオを生かせる為に従属契約を結んだ。ガゼルは猛反対したが従属になれば、アリアネの命令は絶対。歯向かうことは一切できなくなる。
ディオはだいぶ渋い顔をしていたが、消滅するよりは余っ程いいと判断。大人しく契約してくれた。
こうしておかしな同居人がまた一人増えた。
「僕に怯んでた奴が、僕を手にかける事なんて出来るの?」
「はぁぁ?出来ますけどぉ?って言うか、怯んでないしぃ?自惚れるのもいい加減にして下さァい」
「はいはい。そういう事にしといてあげましょう」
「お前ッ!いつか絶対に殺してやるからな!」
今日も今日とて、2人の言い争う声が教会の中に響き渡る。煩いし、いい加減にしろと思っているが、この口喧嘩が心地よく感じてしまうのだから、私も大概だ。
「アリアネ」
「はい?」
いつの間にかディオは姿を消し、ガゼルが目の前に立っていた。何となく感じる重々しさに、開いていた口がキュッとキツく結ばれる。
「君と出会えたのは運命だと思ってる」
「それは光栄ですわね」
「いつの間にか、君と一緒にいるのが普通になってしまった」
「ふふっ、熟年夫婦みたいですわね」
「そうだね。少なくとも、僕はそうなればと思ってる」
「え?」
冗談で言ったつもりだったが、まさかの返答に驚きを隠せない。
「アリアネ…君はきっと、僕を置いて逝っていまうだろう。仕方ない事だと思うけど、僕には耐えられない…!だから…」
「君の生涯を僕を殺す事だけに使って」
真剣な表情で随分と独占欲丸出しの事を言ってくる。
ここまで他人に執着された事がなく、どういう反応をするのが正解なのか分からない。なのに、顔は真っ赤に染まり、胸の奥底から込み上げてくるものがある。
「アリアネ。愛してる」
「ッ!!!」
不意打ちにも程がある。
アリアネは一旦、気持ちを落ち着かせるために息を吐いた。
「まったく…プロポーズにしてはムードもなければタイミングも悪いですわね」
「ははっ、手厳しな」
赤く染まる顔を逸らしながら悪態をつくように可愛げのない言葉を投げかけた。アリアネの精一杯の照れ隠しだと分かっているガゼルは優しく微笑みかけている。
「それで、返事は?」
その余裕そうな表情が、無性に腹が立つ。だけど、そんなに彼を嫌いになれない自分にも腹が立つ。
アリアネの一生など吸血鬼であるガゼルからすればあっという間の時間。それでも、一緒に居たいと願ってしまう…
アリアネは意を決したように口を開いた。
「分かりました。私の生涯をかけて、貴方をこの手で葬ってあげましょう」
「楽しみにしてるよ」




