はちわめ ー 「バーと勇者」
ここは小洒落たバーカウンター。薄明かりが俺を優しく照らす。
「マスター、いつもの。」
そう告げると、マスターは慣れた手つきでカクテルを振る。
それをそっとグラスに注ぎ、ミントを添える。
「こちら、ご注文の品でございます。」
薄明かりに照らされたソレは、黄金に輝いていた。
俺はグラスを顔へと近づけ、匂いを楽しむ。ミントの清涼感、複数の柑橘類が生み出すハーモニー。
「マスター。これは……やはり、いい香りだ。」
思わずそう零す。
「ありがとうございます。」
満を持してグラスを口に運ぶ。そして、ほんの少しだけ口に入れて、味を楽しむ。
うん。ただのオレンジジュースだ。
「お味はいかがでしょうか。」
バーテンダーの格好をした海斗が聞いてくる。
「いつも通り、最高の味さ。」
二人でこの世界に浸っていると、横から紅葉が口を出す。
「で、あんたらはいつまで茶番してる訳?ウチのクラスの文化祭の出し物はカフェでしょうが。何格好つけてんだか。」
「おいおい、こんなのは男のロマンだろ?俺、いつか洒落た行きつけのバーでこうやって格好つけるんだ……」
「妄想するのは勝手だけど、準備で忙しい中で変なことやってんじゃないわよ。ほら、おバカ2人は働く!」
「え、僕も?」
海斗の発言に紅葉は目つきで返す。うわぁ恐ろしい。海斗はキッチン担当だからギリギリ働いていたのに。
お互いに目を合わせる。そして、俺は椅子にかけていたブレザーを大袈裟に羽織った。
「さて、いっちょ世界救ってきますか。」
「行ってらっしゃいませ。勇者様。」
「ほら、そこの男子2人さっさと手伝えー!」
もうちょっと余韻に浸らしてくれよ……
「ほら、小道具。これが手本だから。いい感じに作って。」
「雑じゃありませんか紅葉さん。」
「サボった奴が文句言わない!ほら天才なんでしょ?やってみなさいな。」
「仕方ないな〜♪」
「チョロいな。」