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作者: りゆう

「あっ。」


 スマホを置いた衝撃で、机の端の方に置きっぱなしになっていたリップが転げ落ちた。

私は1人、散らかっている部屋を片付けていた。外は、朝からバケツがひっくり返りそうなほどの大雨が降っていて、部屋は薄暗い。

 机の下を覗くと、リップは中央の辺りまで転がっていた。動かなくてもギリギリ届きそうなので、精一杯手を伸ばして拾い上げる。見てみると普段私が買わないような、強い赤のティントだった。


「これ、いつ買ったんだっけ……。」


 横から落ちてきた髪を耳にかけながら、記憶の引き出しを漁る。試しに蓋を外してみると、まるで新品のようだが、少しだけ、使ったような跡がある。

 確か、買ったのは去年の夏前だった気がする。付き合っていた彼氏が私から離れていきそうな気がして、夏祭りでデートする時用に買ったはずだ。普段と違う、視線を惹き付けるようなこの赤なら、彼氏がもう一度惚れ直してくれると思って。

 何日も前から、リップと一番相性のいいアイシャドウを探したり、塗り方も試行錯誤したりしていた。当日も、三四時間前から準備して、自分なりに完璧な状態でデートに出向いた。

 結果、彼氏が出していた、別れ話を切り出されそうな雰囲気はなくなり、その後も付き合っていけた。

しかし、それから1年後、再び来た倦怠期に打ち勝てず、つい一昨日に彼から別れ話を切り出された。

 別れたくないと泣きながら訴えると共に、心のどこか冷えた部分が、もうダメだと、感じていた。

 彼は自分勝手で、「俺がもう付き合ってる意味が感じられないから。」なんて、さも自分が悪いかのように、優しげな口調で言っていたけれど、そんなのは裏を返せば、一緒にいてもつまらないからと言って私を責めているのと同じだった。

「別に嫌いになった訳じゃない。」なんて、恋愛小説みたいな綺麗事も言っていたけれど、結局それも「もう好きじゃない。」という言葉の裏返し。

 そんな言葉の数々に負けて、私は別れを受け入れた。


 ついさっきまで、彼と2人で写っていた写真を、カメラロールから順に消していた。

 付き合い始めの頃から、2人の歴史をなぞるように消してゆく。一緒に、私達が付き合っていた事実も消えていくような気がした。


 まだ握ったままだったリップを、めいっぱい引き出す。


「さようなら。」


 限界まで出ていたリップを、親指で根元から折る。

 椿の花のように、折れたリップは床を転がっていた。

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