鍵の行方
康介と美咲の出会いは、共通の友人である由紀子の紹介だった。
二人は瞬く間に意気投合し、連絡先を交換する。知り合って一ヶ月後に、康介の告白に美咲が頷き、交際がスタートした。
恋人関係になり、半年が経った時。
『今日、仕事休みでしょ? いまから会いに行くよ』
美咲からメッセージアプリで連絡がきた。普段は予定通りに行動する彼女だが、珍しく唐突の申し出だ。
『いいよ』
康介は即答した。
最寄り駅まで迎えに行った。康介と美咲は近くのスーパーマーケットに寄り、ディナー用の食材を購入した。康介の右手には買い物袋、左手は美咲と手を繋ぎ、自宅アパートまで歩く。
アパートの屋根が見え始めると、康介は挙動不審になる。
「あれ、ない」
「なにが?」
美咲が聞いた。
康介はズボンのポケットをまさぐり、うろたえる。
「ポケットに入れたはずの部屋の鍵が、なくなっている……」
「どこに落としたか、心当たりある?」
美咲の問いに、康介は左手を顎にあてがい思案する。
「わからない。スーパーかな? それとも、電車の中?」
「ここにいても、どうしようもないから、とりあえずスーパーあたりまで戻ってみよう。鍵がどこに落ちているかも」
美咲の提案に乗り、二人は踵を返した。
アパートからスーパーマーケットまでの道のりを戻る。時間をかけて確認したが、道路に鍵は落ちていなかった。
「ごめんね。こんなことになって」
康介は頭を下げ、謝罪した。
「しょうがないよ」
美咲は同情した。
康介は眉を顰め、申し訳なさそうに言う。
「悪いんだけど、今日は帰ってもらっていいかな。もう一度、道路を探してみて、なかったら交番所で手続きしてくるよ。家の中は、管理する不動産屋にいって、スペアキーがないか聞いてみるよ」
「わかった。気にしないでね」
「本当にごめん。駅まで送るよ」
「うん」
二人は最寄り駅に向かった。
*
*
*
「ただいま」
鍵を開け、康介は部屋に入った。
「おかえりなさい」
由紀子が康介に抱きつく。
「おう。イイ子にしていたか」
康介は由紀子の頭を撫でた。
「しかし、あなたも悪い人よね」
由紀子は康介にキスをする。
「私と美咲で、二股しているなんて」
「今回は驚いたよ。まさか、由紀子と会う日に、美咲が押し掛けてくるとはね。鍵をなくしたふりして、うまく誤魔化したけど」
「ふふ。本当に悪い人」
由紀子は不敵に笑った。
*
*
*
「やっぱり、そういうことだったのね」
美咲はすべての会話を聴いていた。
盗聴器の存在に二人が気づくのは、一週間後のことだ。
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